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御神先生の秘蔵っ子─世界編  作者: 蒼良美月
第五楽章 禁じられた遊び

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55/75

55.新しい体験

 ──無理やり腕を掴みジャンプして飛びつこうとしたら、即座に怒られたが直ぐに許してくれた。


「お前、阿保か?」


「だって、せんせーが悪いもん!」




 ◇




 ドナウ川だ~~!!


「クルーズ船乗るのがギリギリ間に合うかな」


「乗りたい――!!」


「ちゃんと、明後日に繋げて下さいね」


「……頑張ります」


「何これ~~!! 異国感満載な景色!」


「異国です」


 先生……


「先生って日本に居た時間より海外の方が長い?」


「15歳まではずっと日本に居ましたが?」


「ですよね……」


「それからは、日本にいる滞在時間のほうが短いかもな。去年は久しぶりに増えたけどな」


「……大変ありがとうございました」


「あんなに日本への飛行機乗ったの久しぶりだったわ」


「そんなに少なかったんですか?」


「現役で奏者をしていた頃は、今のスケジュールの倍は詰まっていたから」


「嘘……」


 思わず息をのんだ。


「ドイツの道路一本分は、あれ絶対俺の税金だな」


 先生が笑いながら私の頭を撫でる。


「もうドイツフィルには戻らないんですよねえ?」


 聞きたくても聞けなかったことを先生に初めてたずねた。


「やりたいことがあるからな。戻ることはないね」


「やりたいことって?」


「まだ秘密」


 意地悪そうな顔をして笑う先生。でも今は、ちょっとだけ少年のようにキラキラさせた瞳が、秋の澄んだ青空より綺麗に見えた。


「ワルツか……難しい」


「さて、そろそろ時間ですから帰りますよ姫」


「先生これって?!」


 先生が差し出した紙に目を見張る。


「オペラだけどな」


「すごおーーい!! よく取れましたね?」


「交換条件です。うちのと」


 先生が苦笑いを浮かべる。


「それって最終日に、向こうの方もいらっしゃるってことですか?」


「YES。二枚欲しいって連絡したら、こっちも用意して欲しいって交換条件出された」


 嘘……本場の方が来てくれるだなんて……


「さて、帰りますか」


「先生、この格好じゃダメですよねえ?」


 思いっきり軽装で出掛けた自分の姿を上から下までゆっくり確認する。


「帰りに予約している」


 流石の手際の良さ……



 ◇



 せんせ、格好良すぎる。

 黒のスーツ姿に着替えた先生に固まる。

 ズルくないですか? 何着ても似合うのって……


「何か誰にも見せたくないんですけど……」

「何だそれ」


 しかも今日に限って何ですか? 髪束ねたのが格好良すぎて……

 鼻血が出そうです。


 先生ってこういう時、隠れないから目立ち過ぎるんですけど……

 先程からチラチラ周りの人からの視線が注がれる。


「面倒くさいけど一応挨拶してくるか……」


「え?」




 ◇



「Gratulation」

(おめでとうございます)


「Danke, dass Sie gekommen sind.Takashi」

(来てくれて光栄だよタカシ)


「Es tut mir leid, dass ich Ihnen Umstande gemacht habe.」

(今日は無理を言って申し訳ない)


「Du bist jederzeit herzlich willkommen, wenn du kommst.」

(君が来てくれるなら、いつだって大歓迎さ)


「Ich hatte nicht erwartet, dass du eine Frau dabei hast.」

(まさか君が女性を連れてくるとは思わなかったけどね)


「Das ist unser Neuling.」

(うちの新人です)


「Ist sie nicht deine Freundin? Takashi?」

(君の彼女ではタカシ? ハハハ。まあいいだろう)


「Bis bald! 」

(では、また)


 先生が挨拶を終えた様子で? 男性の方と握手をしている時、先生に呼ばれ私も何故か? 握手をした。


「先生、今の方は?」


「ウィーン芸術協会の会長兼、ここの理事長だ」


「えええええ!! うそおおお! 早く言って下さいよ!」


「演者がこの時間にロビーに居るわけないだろ。最終日だから挨拶に出てきたんだろ」


「そうですけど……そんな偉い人とも、知り合いなんですね……」


「偉いってデニスと同じだろ国が違うだけで」


 今更だけど先生の周りって凄い人ばかりよねぇ……

 その中でも先生って、凄い人なのよねぇ……


 まぁ、凄いと言えば凄いけれど。フルーツ自分で食べないですけどね。

 魚も骨あると食べないですけどね。


 あと、朝はいつもダルダル星人ですけどね。



「あ?」


「いえ? 何も言ってませんが?」


 結構短気ですけどね……





 ◇




 す、すごっ。オペラって生まれて初めて見たけど……

 声楽家の人達が歌ってるのは、春コンの時聴いたけれど。

 それと比べたら怒られちゃうかもだけれど、圧倒的迫力。


 震えが止まらず、無意識のうちに先生の手を握っていた。


 昨日初めて観客席から聴いた、うちのオケも凄かったけれど。


 感動を目の前で観客の人達と共感できて、共鳴し合うような感覚。

 音の洪水と皆の熱気で最高潮になり涙が出た。


 でも今日のは、圧倒されると言うか……

 映像美が目の前で立体化して繰り広げられる。





 ◇





 感動冷めやらぬ中、劇場をあとにした。車内でも、その迫力にドキドキがまだ続いていた。


「少しは得るものが、あったようだな」


「凄くありました! 圧巻と言うか!! 迫力が!」


「オペラやミュージカルのような、実際の動きはないが「音」でそれを表現したい。聴覚だけを刺激するんじゃなく視覚や全ての感覚に。それが本物の音楽家だ」


 御神 貴志がクラシック界で唯一無二と言われる理由。

 それが先生の言う「音」で語りかけ、ときめき、恋をして、泣いて、全てが一つの映像のように紡がれる「音」の魔術師。


 至高の天才と言われ続ける原点なんだろうと、改めて今感じた。


「先生ありがとうございます! 先生とあの日、出逢えたことで、こんなにも貴重な経験が出来て。改めて目標が明確になった気がします!」


「御神 貴志ではなく、桜井 花音を観たい。と言わせる時代を作るぞ」


「せんせ? 一つ間違ってますよ?」


「ん?」


 だって……桜井じゃなくなるも~~ん!



 そっと瞼を閉じる。

 何も言わず、小指を絡めるようにそっと唇を塞いだ先生に囁いた。


「御神 花音になりたい」


「先に言うなよ」


 苦笑いしながらも、先生が強く抱きしめてくれた──


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― 新着の感想 ―
読了しました(*´ω`*) 最後!最後!最後ヤバすぎです。 御神先生の「先に言うなよ」も加味して最高のシーン。 最高の回でした(*´ω`*) ご馳走様です!
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