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御神先生の秘蔵っ子─世界編  作者: 蒼良美月
第一楽章 嵐を呼ぶ男

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5.嵐を呼ぶ男

 桜並木が日毎にピンク色が濃くなり、優しい色が一面を包んでいた。

 柔らかな陽射しと、緩やかな風に心まで温かくなる。


 とは、全く逆の緊張感漂う一室。

 朝から激しい怒号が飛び交っていた。


 ほんの少し前までの穏やかな雰囲気が一変した。

 昨日までご実家に戻っていた高科先生が、今日から練習に合流しユーリさんに挨拶をした。

 が……


 ()()はいきなり始まった。


「ミスタータカシナ? このオケのファーストは、レディーサクライでは? 保護者が多い姫なんですね」


「もう一回言ってみろ! だからさっき言ったろ! 桜井は先月まで学生で未経験だから今回は俺がサポートするだけだって言っただろ!」


「ずいぶん甘いんダネ。ニホンジンは。小さな島の中でオトモダチゴッコしているキミラと、俺達は違うんだよ。俺達はクラッシックの本場ヨーロッパ全土から選ばれた人間なんだよ。キミラのオママゴトに付き合う程暇じゃないんでね。コンマスが聞いて呆れる発言だね?」


 静まり返る一触即発の事態が動いた。


 先程まで二人の言い合いを黙って見ていた先生が立ち上がり、ユーリさんのもとに歩いて行く。


「もう一回言ってみろよユーリ。俺もお前が見下す日本人だが?」



「止めて!」


「いつまでそんな日本人とか、くだらない話を! コンマスとかどうでも良い! 音楽を愛する者に国境なんか関係ない! 馬鹿なの? 時間の無駄。練習の邪魔だから全員出て行って! 白井さん、第二とビオラ集めて頂戴。家路から始めましょう!」


「さ、桜井?」

「ぇ? 桜井、今、馬鹿って言った?」

「ヒュゥーイイネ。ウサギちゃん!」


「煩い! ウサギじゃない! オケはチームワークです! 文句あるなら貴方の自慢のヨーロッパでも何処にでも帰れば?」


「ハハハハッ。よく言った」


 先生が手を叩いて笑うが、私は先生にもムカついている。


「笑い事じゃないです! 先生まで参戦しないで下さい!」


「あ? 犯すぞ」


 そんな顔をしてもダメですよ先生。 私、怒ってますからね? もっと早く止めてくださいよ……もう!


「5分休憩後に、家路から通します! 宜しくお願いします!」


 私はオケメン全員に頭を下げ手を叩いた。



 先生は明らかにイライラした様子の顔を見せたが、奥の椅子にドカッと座って話しかけるなオーラ半端ない。


 参戦してなかった天野先生が、先程からチラチラ私を見る。


 い、いや、無理ですからね?

 そうじゃなくてもイライラしていた中に、私が出しゃばったことで、先生の怒りが今、最高点に達しているはずで御座います。無理です。近づけません。


 帰って謝ろう。うん。

 悪かったとは思いますが、あれ以上続けても余計に……

 アカデミーの皆さん引いてましたし……


 高科先生のあんな顔……

 普段皆さんあまりみませんものね……



 え? 


 そんな中、全く気にせずツカツカ歩き出した金髪男に、私は驚いて凝視した。


 ちょ、い、今? 行く?


 嘘でしょ?


 原因アナタですよ? 

 分かってます??


 雷落ちますよ?





 ◇




「ユーリ邪魔。お前日本公演出番ない。帰れ」

「タカシどうしてもダメ?」


「俺に同じことを言わせるのか?」

「練習見るだけならイイ?」


 無言のまま椅子にふてくされた様子で座る師の顔を見て、金髪碧眼の長身男は、無邪気な子供のような顔を浮かべ、()()()神の腕に飛びついた。


「邪魔。1メートル以内に近づいたら殺すぞお前?」


「いやん、その冷たい目も素敵~~タカシに抱かれたい~」


「死ねよ」



 え?


「え?」

「え?? ユーリさん?」

「ユ、ユーリさん?」


「せんせ?」


 ???

 先程までの緊張した空気とは違う、異様な空気が漂う。


 どういうこと?


 え?


 先生とユーリさんが?


 ???


 先生は何も言わず、額に手を添え俯いたままだ。


 ええええええええ?


 ちゃんと帰ったら説明してくださいね? 先生?



「タカシのステディ(恋人)のユーリで~~す」


「天野、大使館に電話しろ。ビザ取り消し申請したいって」


「タカシ!」


「どけろ。一メートル以内接近禁止って言ったはずだ」


 部屋を出て行こうとする先生にユーリさんがしがみついた。

 どういうこと?


「ちょっと、待ってまって! 冗談だってタカシ! 冗談ではないけど? あ、でもくっつかないって約束するからああ!」



 ??が飛ぶ私に、天野先生が小声で呟いた。


「ユーリ・プリセツカヤの有名な噂だよ。まさか本当だとは思わなかったけどね。彼は、()()()()派だ。あ、御神先生は無いから。そこは大丈夫だから。まあユーリの場合は環境的にもね。両親いなくて、御神 貴志に憧れて亡命に近い形でドイツまで追いかけた人だから……」


「えええええええ?」


「あ、ライバルではないと思うから? 安心して?」


 私は、高科先生の方を見た。

 高科先生も苦笑いしていた。


 うそおおおおおおお!


「ウサギちゃん、タカシに言ってよ~~仲良くしようって? オケはチームワークでしょう?」


 ウルウルした目で私を見てくるユーリさんの頭に、先生からの拳骨が綺麗に入った。


「花音に近づくなと言ったはずだが? ドイツに戻るか、言うことを聞くか決めろここで」


 先生が私の前に立ち、ユーリさんに鋭い目で言った。


「わかったよ……でも、カノ、あ、サクライが俺にバイオリンを教えてくれって言ったんだよ?」


「それ以外必要ない。あと()()()()()を殺したら、二度と俺の前にその面見せるな。プロとしてのお前の仕事を期待する」


「Ich habe es verstanden, Gott.」

(わかったよ。神様)


 何か先生、疲れてません?

 うん。もの凄くその気持ちわかります。


 ってユーリさん、嵐すぎません?

 この人とよく一緒にやっていましたよねえ。


 先生のその苦難がちょっと可哀想に思えてきた。


 高科先生と、天野先生も同じような顔をしていた。

 これから起こるであろう嵐の到来に、私達全員が不安を抱いていた。



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