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御神先生の秘蔵っ子─世界編  作者: 蒼良美月
第五楽章 禁じられた遊び

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48.運命の悪戯

 ──飛行機だとオランダまでって直ぐなのね。と感心している間もなく、直ぐにリハが始まった。


 今日の夕刻リハーサル。明日午前中に最終チェックした後、明日の夜には本番を迎えると言う、ハードスケジュールだった。


 ドイツメンバーからしたらそれが当たり前らしく、移動距離が片道(飛行機使って)2時間以内ならそんなの当然だろ? っと言う顔をされた。


 ドイツ国内で既に練習はギリギリまでしていたので、今日のリハは会場との最終チェックが主だった。


 演目自体も、モーツアルトとホルストと言った、日本公演と同じ曲だったので比較的無理なく進み、あっと言う間に二日間が終了した。


 終わったーっと余韻に浸る間もなく、直ぐに移動し次の地に向う。

 まさに世界をまたぎ、ハードスケジュールにと。





 ◇



 3つ目の国、オーストリアだぁ!!

 ドイツと並ぶヨーロッパ屈指の音楽の国。

 昨晩、クラシック音楽の聖地とも言えるウィーンに到着した。


 数多くの偉人達の中、先生が選出したのは、モーツアルトとシュトラウス、シューベルト、ハイドンにマーラーとお腹いっぱいになる、偉大なる先輩達ばかりだった。


 本日午前中にリハを行い、夜には本番を迎えると言う、またもや素晴らしいスケジュールだった。



 そんな中、朝から何となくだが身体が怠い。

 移動続きの中、少し疲れが出たのかもしれない……



「どうしたの? ウサギちゃん? 元気ないねぇ?」


「ちょっとだけ怠くて。朝ホテルを出た時までは平気だったんだけど、お昼ご飯食べてから……」


 ユーリさんが声を掛けてくれた。

 何だかんだ言ってユーリさんには色々サポートして貰っている。


 高科先生がオケメンの面倒やリーダーをしていた為、居ないことが多いこのツアーで、ユーリさんの存在はとてもありがたかった。


 最初のような尖ったところも最近はあまりなく、先生とは違う意味の彼の自信と音楽に対する姿勢には、本当に見習うべき点が多かった。


「ウサギちゃん? 顔色悪いけど? 熱は?」


 ユーリさんが額に手を当てる。


「熱はなさそうだけどねぇ。何か悪いものでも食べた?」


「ううん? あまり食欲なくて……」


「珍しいねぇ? 大食いのウサギちゃんが」


「大食いって……っん」


「ちょ、ウサギちゃん!!」


 一瞬、胸がムカムカして吐き気のようなものが。


「サクライ? もしかして……」


「?」


「ちゃんと来た? 女子の……」


 え?

 そう言えば今日って10日よねぇもう。

 嘘?

 遅れてる?

 でも、まだ……

 こんなことは普段からよくあるし、あまり気にしてはいなかったが……

 まさか?

 嘘よねぇ……


「サクライ?」


「うそ……」


「タカシには?」


 言えない……今の先生に。

 そんなこと……言えるはずがない。


「言ってない? 言えないか……ちゃんと病院で調べて貰おうよ」


「……」


 どうしよう……

 もし……

 捨てられる?


 先生のお荷物になっちゃう……


 そう思うと、涙が自然と溢れ落ちていた。


「サクライ! まだ決まったわけじゃないし。例えそうだったとしても!」


 ユーリさんが私の背中を優しく摩ってくれる。




 ──ガチャ



「花音、そろそろ最終チェック入るぞ」


「タカシ!」


「どういうことだ?」


 先生の鋭い視線から逃げるように俯いてしまう。

 やましいことはないのに……


「ごめんなさい。何でもないの。ちょっと気分が悪くなって。それでたまたま居合わせたユーリさんが」


「タカシ、サクライだが」

「言わないで!!」

「サクライ……」


「どういうことか説明しろ花音」


 先生が私の目を真っ直ぐ見つめる。

 でも、その視線を逸らすように私は俯いてしまった。


「サクライ。君だけの問題じゃない! 黙っていて済む話じゃないだろ!」


「ユーリ! 黙れ。俺は花音に聞いている」


 先生の低く冷たい声に、彼の怒りが伝わってくる。


「ごめんなさい何でもないです。本当にちょっと気分が悪くなっただけで、もう大丈夫です」


「分かった」


 冷たく短い言葉を放ち、先生が去って行く。


「タカシ! 待てよ!」


「あ?」


 ユーリさんが走って追いかけるのを見て、私も後を追った。


「走るな! サクライ! 何かあったらどうするんだ!」


「やめて! ユーリさん!」


「花音?」


 先生の鋭い視線が再度、真っ直ぐ突き刺さる。その視線から逃げるように逸らした瞬間だった。


「好きにしろ」


 先生が背を向け歩き出した。


「タカシ!! 待てよ! 花音のお腹には、タカシの子が!!」


「ユーリさん!!」


「本人が俺に言わない以上どうしろと?」


 表情一つ全く変えずに冷静に言い放った先生から、彼の顔を再び見る勇気がなく逃げるように下を向く。

 溢れる涙を隠すように……


「タカシ!!」


「佐々木に迎えに来さすから、病院行けこのまま」


「タカシ!! 何で人に任せる!!」


「あ? 聞かされてない上に、俺が付いて行けば結果が変わるのかよ」


「は? 何言ってるんだよ! 原因作ったのタカシだろ!」


「やめて! もうやめて! 困る先生に無理にお願いしたのは私なの!! だから先生のせいじゃない!」


 そう、あの日分かっていて禁を犯すことを願ったのは私だった。断る先生に半ば無理やり。

 全ては私が犯した罪の報いだ。


「とりあえず病院に行って来い。話はそれからだ。今、離れることは出来ない」


 先生はそれだけ言い残し、去って行った。



「最低だよ! あんな男だとは思わなかった! ウサギちゃん! いや俺が付いて行く。何があっても、どんな結果でも俺が守るから」


「ぇ?」


「ウサギちゃん、いやカノン。Wäre ich nicht gut genug für dich? Ich liebe dich……」

(俺じゃダメかい? 彼の代わりに。君が好きだ。 ※本気で愛しているの意を込める時に使う言葉)


「ユーリさん、ドイツ語は分からないわ……」


「何でもないよ。ごめん。病院に行こう」


 私は、何故か分からなかったが、彼が差し出した手に自分の手を重ねていた。


 今は、ただ一人になることが怖かった……






 ◇





 男はタバコに火をつけたが吸うことはなく、思いつめた表情で天を仰いだ。

 そのまま暫くの時間が経過した後、正面を向き何かを決意した表情に変わり、タバコを地面に押しつぶし、走って控え室に向かった。


「天野、話しがある」


「何ですか?」


「ちょっと出て来る。もし公演までに間に合わなかったら代理を頼みたい」


「は?」


 天野は驚いた。()()御神 貴志が深々と自分に頭を下げている状況に意味が分からず硬直した。


「何かあったんですか? 桜井の姿もユーリも見えませんし」

「花音の代役にはユーリを当てる。最悪俺が間に合わなかった場合は任せる」


「は?」

「すまない」


「ちょ。頭を上げて下さい! 何があったんですか? それに今日ってオルレアン公妃来るんですよねえ? 御神先生いなかったらどうするんですか!! 先生に会いに来るんですよねぇ?」


「訳は後でちゃんと話す。悪い時間がない。もしもの時は頼む」


 それだけ言って走り去った男に、何が起こったのか全く理解出来ず、天野は呆然としていた。


 う、嘘だろ?

 余興で指揮台立つんじゃなくて、本番で?


 え?

 冗談だろ……


 天野は頭を抱えて座り込んでいた。






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