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御神先生の秘蔵っ子─世界編  作者: 蒼良美月
第四楽章 革命のエチュード

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46.サプライズ

 ──今日は遂にドイツ公演最終日!

 長かったようであっという間だった。


 初日のアクシデントが嘘のように、連日満員な上、会場内に入れなかった人が外にも溢れると言う、とても嬉しい悲鳴が。


 そんな中、長年ドイツ市民に愛されて来たドイツフィルのメンバー達を中心に、今日はお礼の意味を兼ねて、なんと公演時間前からホールで交代に音を出していた。


 午前の総リハ終了後、交代で休憩を取り、自由に舞台に向かい音を奏でると言う、とんでもないサプライズを行っていた。


 知らずに早めに来た観客は皆、驚きながらもとても喜んでいた。



「高科、ちょっとバイオリン貸して」


「え?」


 先生の突然の声に、高科先生が驚いて先生を凝視した。


「ユーリ、ビオラ用意しろ」


「は?」


 ユーリさんも驚きの顔をしている。


「高科、留守番頼む。ちょっとだけ出てくるわ」


「え? 何処に?」


 高科先生の質問に、先生は笑っていたが何も答えない。


「ユーリ。ドイツフィル数名集めろ」


「相変わらずだね~~」


 ユーリさんが走って行ったが、私達は何のことか分からず、天野先生と高科先生と三人で顔を見合わせた。


「早めに帰って来るから、ちょっと留守番してろ」


 先生が笑顔で私の頭を軽くポンと叩く。


 ???


「どちらに?」


「目の前の広場」


「は?」


「タカシ~~10人で良い?」

「充分だろ」


「何やるの?」

「協奏曲」


「ベートーヴェン?」

「YES」


「ちょっと行ってくる」


 は??


 ちょっとその辺に買い物に行ってくるような顔をして、先生は上着を羽織りながら高科先生のバイオリンを手にして、ロビーに向かってスタスタと歩き出した。


 気になって、その後を私達三人も急いで追いかける。



 ◇



 ちょ、こ、これって……


 目の前の光景に驚いて硬直した。

 そして、天野先生も高科先生も()()は同じだった。


 突然、ホール前の公園に現れたゲリラ演奏。


 しかも世界的指揮者、兼奏者でもある「御神 貴志」と現役バイオリニストナンバーワンのユーリさん他、ドイツフィルの現役プロ集団が、何の宣伝も無く、ドイツが誇る偉大なる作曲家の名曲「バイオリン協奏曲」を突然奏でだしたのだ。


「無茶苦茶するな。相変わらず御神先生って」

「頭おかしいからな貴志の場合」


 そう言いながら、楽しそうに笑っている二人の顔が私は嬉しかった。


「何だかんだ言って御神先生って目立つ行動自分からしてますよね?」

「あれは天性の俳優だろ。貴志の場合」


「さて、我々凡人は今日の公演の準備に入りますかね」


 高科先生の声で、もっと聴いていたかったが、天野先生に「準備があるだろ」と怒られ、後ろ髪を引かれる思いで渋々帰ってきた。


 花束とケーキは先程準備完了と連絡を受けたので、後は本番を無事終わらすことに集中する。


 17時になり、メンバーが続々と集結してきた。

 ドイツでの公演最終日となる今日は、ドイツが誇る偉大な音楽家ベートーヴェンを先生は選んだ。


 一曲目は、交響曲より『田園』から始まる。

 豊かな田園風景に鳥のさえずりが舞い、小川のせせらぎとともに心地良い中、嵐が訪れる情景豊かな曲調でベートーヴェンには珍しい平和で柔らかい曲だ。

 先生の豊かで優しい指揮振りで皆が、ベートーヴェンの意思を繋ぐ。


 一曲目が、滞りなく終了し途中の休憩に入る。

 残り一曲。次は『田園』とは違って、力強い『交響曲第3番 変ホ長調 作品55『英雄(エロイカ)』が選曲されている。


 第二楽章の有名な『葬送行進曲』を含み、最終四楽章の『フィナーレ』まで約50分間の、壮大なシンフォニーだ。


 作曲当時既に難聴に冒されていた彼本人が、最高傑作と自負する名曲をこの本場ドイツで奏でることが出来る奇跡に感謝した。


 膨大な音の洪水の中、観客と共に歓喜の渦に酔いしれた。


 お、終わった……


 震え止まらぬ中、先生が指揮台から静かに降り観客に会釈をする。

 盛大な拍手が連鎖し、二階席最後列までその波が幾重にも連なる。


 鳴り止まぬ歓声の中、アンコールに応える為再び先生が指揮台に登壇した。

 ドイツ最後の夜に先生が選んだのは、ピアノソナタ第14番『月光』より 第1楽章だった。

 ドイツ最後の夜にふさわしい、静かな夜を連想させる穏やかで美しい旋律が繰り返された。


 アンコールの『月光』が終了し、先生が指揮台から降り観客に応えるように深々と頭を下げる。


 そして私や高科先生他メンバーに会釈をし、再度観客にアピールしたところで、手はずとおり天野先生のピアノの音で、全照明が先生に集中する。


 少し早いが来週の先生の誕生日を祝う『Happy Birthday to You』が全員で演奏される中、ミシェル夫妻によって、会場に特大のケーキが運ばれてきた。


 観客席からの大合唱となり、私達全員も一緒に歌う。


「おめでとう御座います。せんせ」


 ミシェルさんより花束を託され、先生に渡す。


「何だこれ?」 


 驚いた表情を見せた先生が少し恥ずかしそうに、オケメンに振り返る。


「少し早いですけど。おめでとう御座います」


「タカシ、ケーキのろうそくを」


 ユーリさんに背中を押されるように、先生がケーキの前に立つ。


 本来会場内は火気厳禁であるが、市や、ホール所有者などに予め佐々木さんが許可を取ってくれ、ろうそくに火を点すことが出来た。


 会場内の照明が落とされ、幻想的なろうそくの炎が揺らめく中、天野先生の豊かなピアノが流れ、先生がケーキに立てられたろうそくの炎を吹き消した。


 少し恥ずかしそうに先生が観客席に手をあげ感謝の意を伝えた後、私達オケメンに深く会釈をした。


「ありがとう」


 先生がオケメン全員にお礼の言葉を述べ、花束を抱えて再び観客全員にゆっくり優雅にボウ・アンド・スクレイプと呼ばれる、片手を胸に当て、残りの手を広げ腰を落とし深くお辞儀をした。


 盛大な拍手の中、先生が舞台を後にした──








 第四楽章完結


「今話で第四楽章完結となります」

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