30.浪漫飛行
──『お待たせしました。Mカンパニー代表、御神 貴志より皆様にご挨拶を~~』
アナウンスにより、皆の視線がステージ上に集まる。
先生が登壇し挨拶を行った後、いつものように各メディアによる撮影や、質問が飛び交う。
ぇ?
ちょ、っ。先生?
煌めく光の中心にいた先生が、突然その渦を切り裂くように、真っすぐ此方に歩いて来た。
突然の出来事に、皆がポカンと口を開けていたり、報道陣の方々も急いで先生を追いかけている。
そんな周囲に脇目も振らず一直線に視線を向けられる。
せんせ?
気づいた時には目の前に先生の手が差し出されていた。
「おいで」
え?
ええええ?
「高科、天野も一緒に」
先生に手を引かれ、光の渦の真ん中に立たされた。
「笑えよ」
先生が笑顔で呟いた。
えええええ?
「可愛く撮ってやって下さいよ。うちの期待の新人です」
は?
「約束したろ? 必ずあの光の中に立たすって」
フラッシュの光の渦の中に、後光が射して見える微笑み。神がにっこり微笑んだ。
一斉にフラッシュが集まる。
「先生!」
そして、由紀様と一緒に先生のお父様である御神 幸造氏が大きな花束を持って近づいて来た。
「お前って奴は……」
「しっかり仕事しろよ。スポンサー殿」
お父様と一緒に仲良く? 笑顔の写真撮影も終わり、終始笑顔? だった先生が突然私の手を引き、お父様に放つ。
「あと宜しく」
「貴志!」
せ、先生……
先生の上着を肩から掛けられ、いつもの? ように走るのではなく、堂々と出口に手を引かれ連行された。
─◇
「まったく好き放題して」
「お父様。お顔と台詞が一致してませんわよ?」
「明日からの仕事がまた増えたな……まったくまだまだ子供だな」
かつての自分の不貞により出来た息子。それ故、本人も正妻と娘を気にしてか、幼いころから何一つ我儘を言わない手のかからない、いや頼ることを一切してこなかった息子が、初めて自分に見せた我儘を、男は嬉しく思い笑っていた。
どんなことをしても二人を守らないと。と男はこの日改めて心に決めた。
◇
「せんせ。良かったんですか? 抜け出して」
「抜け出してないだろ。ちゃんと仕事したし。それ以上付き合う必要ないだろ」
変わらない先生に笑った。
「やっぱり今日もポテトサラダですか?」
「違うところでもいいけど?」
「あそこが良いです」
「今日は飯食ったら直ぐ帰るぞ」
「お仕事あるんですか?」
「明日、朝早いから」
「お仕事で?」
「秘密」
「えええええええ」
◇
翌朝、まだ夜明けと共に先生に叩き起こされた。
「起きろ」
「ぇええ、今何時ですかぁ」
「出る用意しろよ」
「何処にですか?」
先生が何やらパンフレットを差し出す。
「ぇ?」
「飛行機10時だから、さっさと用意しろ」
「はああ? 聞いてませんが!」
「当たり前だろ。言ってないし」
「……」
急ぎ着替えや、色々詰め込みなんとか用意が出来た。
しかし、いつもこの突然は……
前もって言ってくれませんかねえ?
「前もって言ってくれると色々と……」
「国内なんだから、用意とか要らないだろ」
「女子は準備が色々あるんです!」
「行くのか、行かないのかどっちだよ」
「行くに決まってます!」
◇
「お前、絶対機内で騒ぐなよ」
「楽しみ~~」
「やっぱり海鮮ですかねえ? それともラーメン?」
「……食うことしかないのかよ」
「絶対離れるなよ。迷子になったら放置するからな」
「……」
いやん、生まれて初めての旅行が! しかも先生と一緒。
そして初めて飛行機に乗れるなんて!
北海道って初めて~~
◇
「先生! 見てみて! 飛行機いっぱい!」
「空港ですからね。当然でしょう」
「うわ~~ひろ~~い! きゃーーー飛んでる! 見てみて! 飛んでる!」
「そりゃあそうでしょうよ。国内最大級の発着数ですから」
「先生、早く行きましょうよ! もうみんな並んでますよ?」
「必要ないです。係員来ます」
「ぇ?」
先生の言った通り、しばらく待っているとコンシェルジュさん? みたいな人が丁寧に先生に挨拶して、案内してくれた。
「これって先生が言ってたキャンペーンの?」
「YES。でも今日のはプライベートなんでちゃんと金払ってますよ」
◇
「先生! 見てみて! あんなにいっぱい人が!」
「座りなさい。そして許可出るまで絶対立つなよ」
「はい……」
いやん。初飛行機!!
「せ、せんせ、は、はやっ」
「すぐだよ」
滑走路を猛スピードで駆ける飛行機に驚き、息が止まりそうになる。
その瞬間だった。
お尻がふわっと浮いた感覚。
突然やってきたその感覚に先生の顔を見る。
先生が窓を指さした。
「浮いてる……」
「飛行機ですから」
嘘、うそ、いつの間に?
うそおおおおお!
さっきまで地面を一生懸命走っていたのに?
いつの間にか景色が変わり、視界が真っ白に染まる。
「そのまま見てろ、雲の上に抜けるから」
先生の言う通り、あっという間だった。
真っ白な雲が眼下に広がり、突き抜けた先は真っ青な世界がどこまでも続いていた。
「国内だから直ぐだけど、ドイツ遠いぞ」
「14時間ぐらいですか?」
「毎月帰っていた俺のすごさを体験しなさい」
「……すいません」
本当に申し訳なかった。
たった5時間日本滞在、往復に28時間掛けて帰ってきてくれたこともあった。
「帰ったら、そろそろパスポート申請しに行くかな」
「ぇ?」
「8月にはこっち出ますよ」
「そうでした……」
ドイツか~~楽しみ~
それ以外にも色々先生と一緒だと思うと夢のよう!




