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御神先生の秘蔵っ子─世界編  作者: 蒼良美月
第三楽章 嫉妬

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29.光りと共に

 ──場内アナウンスが流れる。


『本日ご来場の皆様へ、Мフィルハーモニックオーケストラ代表、御神 貴志より感謝を込めて、ピアノ御神 貴志、バイオリン、ロンドンフィルより客演、ユーリ・プリセツカヤによる、フランツ・リスト作曲 作品番号S541 愛の夢 第3番 変イ長調をお贈りします。皆様盛大な拍手でお迎えください』


 観客席から、どよめきと悲鳴のような声が盛大に聞こえる中、先生とユーリさんが中央にゆっくり歩いて行き、観客に応えるようにお辞儀をした。


 先生がゆっくりピアノに座った瞬間、ライトが集中した。

 そして舞台中央のユーリさんを照らす。


 うはっ。超スローテンポから流れるように入る先生のピアノソロから少し遅れてユーリさんのバイオリンが後を追いかける。


 この二人っていつ練習したの? って思えるぐらい息がピッタリだ。


 先生がテンポを上げてもそれに、離れることなくユーリさんが付いていくし、先生が間をとってもピタリと共鳴している。


 凄っ!


 中盤のピアノソロ片手演奏だけの所も、全く迷いなくピタリとユーリさんが弓を離した。

 何これ! というぐらい素晴らしいユニゾン、いや、共鳴だった。


 ゆっくりと先生が立ち上がり、中央のユーリさんのもとに歩く。

 先生を待つようにユーリさんがにっこり先生に微笑みかけた。


 イケメン二人揃うと迫力有り過ぎる画だわ……

 先生が、ユーリさんの肩に手を回し、観客に深々と頭を下げた。


 そして、ユーリさんを称えるように先生が拍手を送った瞬間、割れんばかりの大声援となった。




 ◇




「やっぱりサクライより、俺でしょ? タカシ?」


「それ以上近づくな」


「キスしていい?」


「殺すぞ」


「タカシ、スマーイル。パパに怒られちゃうよ?」


「死ねよ」


「お前愛嬌振りまき過ぎだろ阿呆か」


「笑って? タカシ。パパ見てるよ」


「あの、じじぃ。ど真ん中に阿呆かよ」


「じじいって……」


「引き上げるぞもう」





 ◇




 終始ニコニコして、手まで観客に何度も振っていたユーリさんと違って、多少先生の顔が無表情になりかけてはいたが、演奏自体は素晴らしいもので、皆が袖で聴き入っていた。


「返せ」


 先生がユーリさんのバイオリンを取り上げる。

 由紀様に渡し、先生が控え室にもどろうとした瞬間、ユーリさんが私に近づいて来た。


「今夜は、ウサギちゃんの為に弾いたんだよ。おめでとうレディ」


 ユーリさんが握手を求めて来た瞬間、先生がユーリさんのスーツの襟を掴み引き離した。


「最終勧告だ。今度、花音に近づいたら二度と俺の前に面見せられると思うなよ。契約書破棄するぞお前」


「こわ~~~いタカシ」


「死ねよ。いくぞ花音」


「はい……」


 先生に手を強引に引かれ控え室に連れ戻された。


「面倒くさいけど仕方ない。着替えろ」


「これに?」


 これって……


 祝賀会用に用意してくれた先生のドレスが控え室に吊られているが……

 両サイドに深いスリットが入っていて、しかも背中が凄くあいている。


「下着付けるなよ」


「ぇ?」


「外出てるから、着替え終わったら呼べ」


「……はい」




 ◇




 うは……

 これ……セクシー過ぎませんか? 先生……


 ドアをほんの少しだけ開けて外の廊下を見る。


 スポンサー? の方と話しをしているみたいだったのでドアをそっと閉めようとした時、先生が気づき暫くして戻って来た。


「先生、これ……」


「何か問題でも?」


 大アリでしょう。流石に大人過ぎませんか?


「ちょ、っと、ここで脱がないでくださいよ」


「あ? 別に裸になるわけじゃないし」


「そうですけど……」


 燕尾服を脱ぎ、白のスーツ姿に着替えた先生が笑いながら言う。

 スーツの上着を脱ぎ、私の肩に掛けられた。





 ◇





 車を取りに行った先生を入口で待つ。

 終わったんだ──と今になって実感する。


 プレ公演とは言え、初めてお金を貰って舞台に立つ貴重な経験。

 ほんの一年前の三月まで私は、平凡な高校生だったのに……


 夢を叶えてくれた先生、いや、私の神様のお陰だ。






 ◇




「お邪魔します」  


 車に乗り込んだ瞬間だった。

 いきなり首に手を回され唇を塞がれ、先生の手が太腿から撫でるよう下がっていく。


「ちょ、せん──」


「行きたくねー」


 思わず笑ってしまった。


 サングラスを手にした先生が珍しくタバコに火をつける。と、同時に車内に夜空が広がった。

 高いエンジン音と共に、夜風が火照った身体を鎮めてくれる。


 暫くしたら天井がゆっくり閉じられた。


 先生が私と一緒の時にタバコを吸うことはなかった。

 それなのに……


 握られた手に力が込められた。


 先日一緒に行った時に先生が買っていた、黒い革のブレスレットから揺れる錠前の鍵。

 それに繋がれるかのように用意された、私の首のチョーカーの背に付いた錠前。


 先生のタバコの移り香と、肩に掛けられた先生の上着から仄かに薫るムスクの匂い。


  先生に囚われる喜びに満ちていた。






 ◇





 先生にエスコートされ、会場の中へ。

 何だか周りがチロチロ見ているような気が……


 やはり先生と一緒だからかしら?

 その度に、先生の手が腰に回されていく。


 先生が挨拶の為、裏に回って一人になった時、高科先生と天野先生が近づいて来た。


「アイツの頭の中、未だに理解出来ないわ」

「凡人の俺には一生分かりません」


「ぇ? どういう意味ですか?」


 私の問いに、二人が苦笑いする。


「結局俺たちが子守させられてません? 高科先生」

「荒野に放てないだろ。こんなの……」


「子守って……ひどおおおい」


「子供のままだと問題なかったんですけどね」

「無駄に注ぐから奴が」


「何のことですか?」


「本人が一番気づいてないのが問題だよな?」


「御神先生ってそれ分かってて放ってるんですかねえ?」


「気づかない訳ないだろ。だからアイツの頭の中が分からんってことだよ」


 高科先生の話に天野先生が納得の顔をするが、何の話を二人でしているかが全く私には分からず……


 そんな中、会場にざわめきが。


 あ!


 先生のお父様!

 由紀様と一緒にこちらに歩いて来た。


「花音さん。おめでとう。って随分大人っぽい衣装にしたのね貴志ったら」


 由紀様が笑いながら近づいてきた。

 やっぱり似合ってないですよねえ。


 サイドスリットが両方に深く入り、背中が大きく空き過ぎではないか? と思える黒のドレス。


「やっぱり似合ってないですよね……」


 由紀様に恐る恐るたずねる。


「あ、いや違うのよ? そういう意味じゃないから安心して? 貴志に笑っただけだから」


 え? どういう意味ですか?

 そうこうしていると、会場内が暗くなった。


 先生の登場だ!


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