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御神先生の秘蔵っ子─世界編  作者: 蒼良美月
第三楽章 嫉妬

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24/80

24.誤解

 ──あれ? もしかしてあのまま寝ちゃった? 外が明るくなっていたことに驚いた。


 先生? ふと周りを見るが誰も居ないことに気づき、立ち上がり探す。



 ──ガチャ


「せんせ!」


「お前さぁ。流石にこれ多すぎだろ」


 浴室から戻ってきた先生が、羽織ったシャツを開き綺麗な上半身を露わにしたが、その艶めかしい印の多さに思わず直視出来ず俯いてしまった。


「す、すいません……」


 暗くて分からなかったが、まさかこんな……


「これ俺、上着脱げないだろ」


 苦笑いしながら、軽く頭をポンと叩かれた。


「何処かで脱ぐつもりですか?」


「ボタン上まで閉めろってか?」

「……すいません」


「次から禁止な」

「ええええええええ」


「帰るぞ。着替えろ」

「はい……」





 ◇





「何?」


 先生と一緒にカフェで食べる朝ご飯。今まで何度も経験したが今日は特別な感じがする。

 クールな顔して座っている先生の、あんな顔……


「顔赤い」

「ぇ?」


「もっと注げって?」

「……」


「音楽やってる時も、そのぐらい欲しがってくれるといいんだけどねぇ」

「ぇ? どう言う意味ですか?」


「音ってさ、その時の気持ちや感情で左右されるから。楽譜通りの優等生の音をわざわざ金出してまで聴きたいと思うか?」


 先生が練習時、怒る際にいつも言う言葉だ。

 先生の視点は常に観客に向いている。その観客が満足する「音」に拘っているのが先生のスタイルだ。


「愛が満ちている音や、嫉妬心に歪んだ音や、辛い不安な音があっても俺はいいと思うけどね」


「ぇ? 不安定でも?」

「常に不安な音だと、客も不安になるだろ阿呆」


 先生が笑いながら言う、その目が痛い……


「ある意味さ、自分の全てを(さら)け出しているようなものだよ。音楽家なんて」


 笑いながら言う先生に少し驚いたが、何となく先生の「音」を思い出すと分かるような気がした。


「でもそれって、今までの先生の恋愛時の感情が音で表現されてたってことですか?」


「デザート頼まなくていいのか?」


 話し逸らしましたね?

 まぁ、過去の話しは許してあげましょう。


「貸しですからね」

「は? 何でだよ」


 そんな顔してもダメですよ? 負けませんからね?


「さっき電話あって衣装出来たって。明日取りに行く」

「早かったですねぇ。出来るの」


 長かったようで、あっという間だった。楽しみなようで、ちょっと不安な気持ちも……


「今回は軽い気持ちで楽しめばいいよ」

「そう言いつつ先生怒るもん……」


「は? 全然だろ?」

「ぇ? えええええええ? アレで?」


 無言で一時間目の前でずっと同じフレーズだけを、只管(ひたすら)弾かされるこっちの身にもなって下さいよ。魔王様……


「そう言えば先生ってバイオリンの練習って普段してないですよねえ? それなのに何でいきなり昨日みたいに弾けるんですか?」


「あ? お前が寝てるからだろ。あと仕事の合間とか」


「え? ええええええ?」


 嘘っ! 

 全く気づかなかった……

 先生凄すぎ!


「言ってくだされば、ご一緒するのに」


「嫌です。また腕痛められたら面倒だから」


「すいません……」


「出るぞ。帰ってパッセージな。今日の分」


 ニヤニヤ楽しそうに笑う魔王様の顔に思わず逃げたくなった……






 ◇




 とてもやさしい魔王様にご指導頂き、ふらふらになりながら練習に向かう準備をしていると魔王様、あ、違った、先生から更なる指令が。



「今日、一日目の演目通すから」

「え?? フルで?」


「明日、二日目ので」

「うそん?」


「後、二週間ですよ? 当然でしょう。今週から照明入れて通すから、頑張りたまえ」


「ええええええ?」


「二時間堪えれる体力作りしとけよ」


 最悪だ……

 最近朝のランニングさぼってたかも……


「せんせ? ご一緒にランニングとかどうですか?」


「頑張りたまえ」

「ですよね……」


「夜、お前が動くって手もあるぞ?」

「……」


「さて、そろそろ出ますよ姫。飯食ってから行くし」

「はい……」





 ◇




 魔王様の号令により、1日目の演目である曲が本番と同じように通しで練習が始まった。

 魔王様がストップウォッチを手にし、細かく時間をチェックしながら色々書き込んでいる。


 照明さんの指示や、音響に至るまで全てを一人で創り上げて行く先生の下、皆がその光に向いてゴールを目指す。


 一曲目の『惑星』が終わり、先生が全体の場所の修正を行う。


「天野、二曲目そっちのピアノ使って」

「了解です」


「花音もう一歩中、高科一歩下手(しもて)。バミリしてやって」


「完了です。いつでもどうぞ」


 設営さんが舞台から降りたのを合図に先生が、入りの合図を行う。


 それに合わせて代理でユーリさんが指揮台に立ち、音を進めていく。

 先生が細かいチェックをしながら、修正点を記入していた。


 二曲目が終了し、先生がユーリさんと何やら話しをしている。


 え?

 先生が舞台に上がってきたのを見て、周りがざわつきはじめる。


「弦以外全員舞台から降りろ。弦カンパネラ用意」


 先生が天野先生のもとに歩いて行った。

 もう一台のピアノを指さしながら二人で話しをしている。


 まさか?


「ユーリ入りの合図だせ」


 その声と同時に先生がピアノに向かって座った。


「レディサクライ。用意はいいかい?」


 はっ!


 ユーリさんの声で舞台上に残った弦楽器全員がユーリさんに注目した。


 最初はピアノだけで入るリストの『ラ・カンパネラ』天野先生と何度も合わせたあの曲が先生と天野先生の二台のピアノで始まろうとしている。


 ユーリさんが全体を見渡しながらストップウォッチを握り、一拍目の合図が振られた。



 凄っ!


 誕生日に先生から弾いてもらった『ラ・カンパネラ』とは全く別ものだった。


 鐘の音が鳴り響くなんて言葉では言い表せないぐらいの、音の洪水が絶え間なく続き、ホール全体に鐘を打ち鳴らす。


 先生のピアノの音に全員が引っ張られ、大聖堂の鐘が町中に浸透した後、遠くに消えていった。


 ──パチパチパチ

「ブラボー」

 まるで本番の後のような拍手と歓声が、舞台下で見ていたオケメンバーから寄せられた。


「ユーリ何分だ?」


「5分40秒」


 先生がピアノから立ち上がり中央に立つ。


「各自チェック表コピーして明日までに修正すること」


 先生がチェックしたスコアを皆で手分けしてコピーしに行っている間、先生と天野先生が何か話している。


「ウサギちゃん。カンパネラ()良かったよ」


 ユーリさんが話し掛けてきた。


「ウサギじゃないです!「は」って他はダメってことですか?」


「『家路』あれ満足してるの?」


 一番痛いところ突かれた。


 あのスローテンポで豊かな臨場感苦手なのよね……

 先生にも夕焼けじゃなくてお前のは、朝陽だろって笑われた曲。


 先生とは違う、薄ら笑いを浮かべるユーリさんに、ムカついたが彼の言っていることは正しい。


「見て貰っていいですか?」


 ユーリさんに、レッスンを申し出る。


「高いよ?」


 少し意地悪そうに笑った顔に、ちょっとだけ嬉しくなった。



 ◇



「違うって、何でそこで弓離すの? 馬鹿なの?」


「すいません」


「違う! (アー)線離すタイミングが早いんだって! 弓離すのが早いから次が繋がらないって言っただろ!」


「はい」


 ユーリさんが私の後に立ち、弓を指で抑える。


「二段から」


「……はい」


 真後ろにピタリと立つ彼の視線が気になって振り返ろうとした瞬間、彼の顔が至近距離に近づいた。


 その時だった。


 ──カタン


 ピアノのフタが閉められた瞬間、先生と目が合った。


 そのまま何もなかったように舞台袖に下がって行く先生の背が……


 急いで追いかけようとした瞬間だった。

 ユーリさんが笑いながら言った。


「平気なんだ。流石色男は余裕だね〜〜」



 ──パチンッ


 気づいたら、ユーリさんの頬に手を上げていた、


 薄ら笑いを浮かべる彼を無視し、走って先生の後を追いかけた。





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― 新着の感想 ―
「愛が満ちている音や、嫉妬心に歪んだ音や、辛い不安な音があっても俺はいいと思うけどね」 音楽家が音に感情を乗せるという意味合いにおいて、至高の表現にして究極の難題 それをさらりと言ってのけるのもまた…
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