20.過去と未来
──祝賀会の翌朝、心配していた記事に私の写真や名前が一切掲載されることはなかった。
先生や高科先生、天野先生のインタビュー内容や写真だけに全社統一されていた。
恐るべし御神家……
その中に1枚だけユーリさんと先生のツーショット写真があり、これはたまたま、そこだけを切り取られただけだったが、それに怒った先生は「この会社ぶっ潰す」と怒り心頭だった。
『御神貴志、ロンドンフィルのユーリ・プリセツカヤ略奪。復縁か?』
うん。これは怒るのも無理はない気はしましたが、ユーリさんは朝から嬉しそうで、ツーショットが掲載された新聞を買いまくっておりました。
今日は海外組の来日疲れを危惧し顔合わせだけとなり、本格的な練習は明日からと言うことで、これから先生とデートに!
◇
「まだ怒ってるんですか?」
車内でも不機嫌な先生にたずねた。
「俺よりユーリの写真のほうが正面で、デカイのは何故だ?」
「ぇ? そこ?」
えーー
正面カットの写りと、写真の大きさに怒ってたんですか?
「えっと⋯⋯たまたま? じゃないんですか?」
先生って面白い。
メディアに出るのは普段凄く嫌うけれど、出る時は徹底している。
撮影時の花の位置まで指示して動かすとは、流石に皆様驚いていた。
先生にとって、全てが舞台のシーンの一部なんだろうな⋯⋯
「夏服買おう」
「え?」
「ご自分の?」
「俺、半袖着ないから必要ない」
「じゃあ誰の?」
「お前の」
「まだ4月ですが……」
「うるさいよ?」
「すいません……」
嬉しいですが……
最近、散財し過ぎてませんか?
「バイト代入ったからいいんだよ」
「バイト?」
「編曲の?」
「YES」
「あれっておいくらぐらいに?」
「100以下は受けない主義なんで」
「え?」
えぇえええっ?
「それって一曲がですよねぇ?」
「当たり前だろ? 日本だと安いほうだぞ。だからあんまり日本の受けなかったのに。幸造のせいでまた増えたし。ったく」
「ぇ?」
「この前の名刺」
先生が苦笑いした。
「お前らの飛行機代と交換で、秋のキャンペーンの曲出せって」
「ぇ?」
「エコノミーじゃなくてビジネス乗れるぞ全員」
何か凄い話になってきてません?
「それってもしかしてホテルも?」
「YES。まあこれで飛行機代とホテル代の心配はなくなったけどな」
え? でもそれだと先生の仕事が増えたのでは?
「何かごめんなさい?」
「まあ音楽の仕事に変わりはないからいいさ」
先生って何でも出来るんですね……
やっぱり神ですものね。
「お前一人ぐらいなら、何してでも養ってやるから安心しろ」
「それって?」
先生は、それ以上は何も言わず、ただ優しく頭を撫でてくれた。
◇
「ねぇ、これって前より高くないですか?」
「当たり前だろ? 何で幸造以下を俺がお前に与えないといけないんだよ。阿保か」
いや、阿保なのは貴方だと思いますが?
と、到底言える雰囲気でもなく。
援助交際みたいに見られるのが嫌って言ってませんでしたか?
──「此方本日、先程入荷したばかりで御座いますが如何でしょうか?」
「可愛い……」
でも、お値段は可愛くないはず……
こう言う店って値段見えるようになってないのね……
「じゃそれと。あとツイリー合うの巻いてやって下さい。あーシルバーのシェーヌ入ってたら? それと、靴44で黒と、レディースのサンダル36で何点か」
「かしこまりました」
ちょ、先生!
思わず袖を引っ張る。
「俺の靴だって」
いやいや、レディースも最後言ってませんでしたかか?
程なくして、個室に通された私達のテーブルにとーーーんと、恐ろしいお値段が付いている物達が所狭しと並んだ。
「靴履いてみろ」
「え?」
店員さんが箱から出してくれ、試し履きをしてみる。
「うーーん、白だな。白決定」
早っ!
先生ってこういうの即決よねえ? 大抵。
そもそもどっちが良いって聞いたら、大抵どっちも買ってくれていたような……
これからは先生に、どっちが良い? って聞くのは控えよう……
その後も、店員さんと何やら話しを進め会計の金額を見ることもなく、さっさとサインをした先生に驚愕した。
「先生、金額って見ないんですか?」
「大体は把握出来てるからいいんだよ。さて、次行くぞ」
「ぇ? 買い物したものは?」
「郵送頼んだ。明日午前中お前居るよな?」
流石、神!
手際の良さと、その決断力と行動力の早さには毎回驚く。
先生って動きに一切無駄がないわよねえ……
その後も、先生の好み? により色々と買い足されて行った。
先生の場合強制はしないが「どっちが良い?」と聞いてはくれるが、既に先生の中で回答がある場合が殆どだった。
先生の「回答」と違う方を私が答えた場合、先生は必ず両方を買うと言う、訳の分からない「答え合わせ」をする人だった。
そして自分に興味ないことで私がどっち良い? と聞くと必ず「どっちでもいい」と答えが返ってくるので、もの凄くわかりやすい人であった。
◇
「パイナップル要らね」
「先生って酸っぱいのあんまりですよねえ? って何で私が?」
買い物が終わり、休憩に入ったレストランでフルーツパフェとケーキを頼んだのは良いが……
この方、ご自分で食べようとはされない。
「デザートは女が食わしてくれるものだろ?」
「何方のお話でしょうか? そういう御方とお付き合いをされていらしたんですね」
「ケーキ持ち帰りしますか? 姫様?」
「で、本当は何人なんですか?」
「言いません」
「先生!」
先生が視線を逸らし、窓の外を見だした。
「いや、だから覚えてないんだって」
「は?」
それだけ答えてまた窓の外を見だした。
「マイヤーさんとは?」
「それはない」
そこは即答した。
「もういいだろその話し。出会う前の過去は関係ないだろ」
何かムカついたけれど、どうすることも出来ないので悔しいからケーキをぱくついた。
「愛してる」
ずるうーーい!!
今言うのズルイです先生!
「私のですって名前書いとけよなら」
「え? いいんですか?」
「冗談です」
「………」
「ちゃんと大事にしてるだろ」
「……それは分かってますけど」
それは本当に大事にしてくれている。
どんなに仕事で遅くなっても必ず帰って来てくれるし、無理してでも私の為に色々頑張ってくれている。
何でこんなに好きなんだろう。
先生が他の物を見るだけで嫉妬してしまうし。ちょっと見えないだけで不安になる。
「大丈夫だって何処にも行かないし、俺の未来は全てお前にやるって言ったろ」
「はい……」
いつまでも、その瞳に映っていたくて先生を追いかけてしまう。
それでも先生はずっと笑ってくれる。
そんな日々がずっと続くことを祈るだけしか今の私には、何も出来なかった。




