19.結集(2)
──眩しいぐらい光の渦の中、一際煌く白い王子様。
その光に向かって一直線に進むユーリさんに私は躊躇う。
彼の言う「何も悪いことはしていないのに何故隠れるの?」
その言葉に私は、何も言い返せなかった。
直ぐ目の前に来た時、先生の顔が一瞬変わった。
私は思わず、ユーリさんの手を離した。
「Was willst du hier」
(何しに来た)
「Wieso versteckst du dich? Sie hat doch nichts falsch gemacht.」
(何故隠す? 彼女は何も悪いことしていない)
先生とユーリさんが何か話している。
え?
先生が壇上から下りてきた。
ちょ、ちょっ、いきなりここで、喧嘩とかやめてよ?
え? 先生が笑っている??
先生が私に手を差し出した。
「ユーリ、花音の横に立て。天野、高科も」
え?
「そろそろ記念撮影に移らせて貰って宜しいですか?」
先生がにっこり微笑んだ。
先生凄っ!
先生のその言葉で全員が静かになった。
その時だった。
会場の後ろのドアが開き、先生のお父様である御神会長が姿を現した。
報道陣が一斉に彼にフラッシュを浴びせる。
大きな花束を抱えたお父様は、由紀様と一緒に目の前までやって来て先生に花束を渡した。
その瞬間、先程より一層フラッシュが集まり光の渦が出来ていた。
「笑いなさい」
「しゃしゃり出てくんなよ」
「ビジネスだ笑え」
小声でやり取りする親子の会話に、天野先生と高科先生は息を潜めていた。
ユーリさんは気にせずゲラゲラ笑っている。
先生を真ん中にご両親? が前列に座り、その後ろに私達が立つという、とてもとてもシュールな記念撮影が始まろうとした時だった。
先生がドイツフィルのメンバーや、白井さん達アカデミーの人達も呼び、大人数での記念撮影となった。
「どうしても隠したいようだね。タカシは」
ユーリさんが小声で私に言う。
何で? 私の顔にユーリさんは答えることなく笑っていた。
「花音おいで」
え?
「約束したろ。来年はお前があそこに座る番だって」
「え? 覚えていてくれたんですか?」
「貴志!」
お父様が先生に何か言いたそうにしているが、それを振り切るように私の手を引っ張る。
「しっかり仕事しろよ? ビジネスだろ? スポンサー様。さっさとどけろよ」
先生がお父様に言い残し、私に席を空けさせた。
え? これって大丈夫なやつでしょうか?
ユーリさんはニヤニヤ笑っているし、由紀様は微妙な顔をしている。
先生の顔を見ると、とても優しい表情だった。
「笑いなさい」
「え?」
先生が小さな声で言う。
この状況で笑えって言われても……
顔が引きつる私に先生が再び小さな声で言った。
「愛してる」
え?
い、今言う?
ええええええ?
沢山のシャッターの音に紛れて誰にも聞こえないぐらいの小さな声だったけれど、先生はほんの一瞬だけ膝にのせた大きな花束で隠れるように、私の手を握りながら囁いた。
◇
まだ報道陣による取材が行われている中、先生がツカツカと歩いて近づいて来た。
「行こうか」
「え?」
「ポテトサラダ食いに行くぞ」
「え?」
「手、走るぞ」
「はあああ?」
まだ祝賀会の途中だと言うのに、いきなり手を引かれ出口ドアまで走る先生と一緒にロビーに出てきた。
「今日はちゃんと車で来たから、待ってろ入口で」
「はああああ? 祝賀会は?」
「充分仕事したろ。あとは幸造がなんとかするだろ」
それだけ言い残し、笑いながら去って行った先生に驚くよりも、もう笑うしかなかった。
無茶苦茶だわ……
◇
「お邪魔しますって本当に行って大丈夫なんですか?」
心配になって聞いてみたが、先生は笑っていた。
「あ、そう言えばこのドレスなんですけど、ユーリさんも天野先生も何だか首を傾げるんですけど、そんなに似合ってないですか?」
「いや? 俺が選んだのに」
「だってユーリさんが、自分なら彼女に絶対着せないって……」
「まだまだだねぇアイツも」
先生がまた笑った。
え?
どういう意味?
「どういうことですか?」
「秘密」
ええええええええ!
「隠し事はしないって約束したじゃないですかぁ!」
「マーキング」
さらりと答えた先生の顔を意味が分からなくて凝視する。
「は?」
「男が女に服を贈る意味分かるか?」
「ぇ?」
「自分の手で脱がす為だよ」
「は?」
「いい女だろ? でも俺のだよってこと」
「へ?」
「いいんだって。おこちゃまは分からなくて」
「ひどおおおおおい!」
少年のような澄んだ瞳を輝かせて笑う先生の笑顔が一番、子供みたいに楽しそうだった。
◇
「結局ポテトサラダなんですね」
やっぱりポテトサラダから手をつけた先生を見て思わず笑ってしまう。
あの日初めて先生に連れて来て貰ったこの地下のバーレストラン。
同じ物を注文した先生にちょっと嬉しかった。
ちゃんと「あの日」の大事な思い出を覚えていてくれたことに。
あの時は、こんな風になるとは思ってもみなかった。
「ねぇ? せんせ? あの時って、私とこんな風になると思ってました?」
「ノーコメント」
否定しなかった?
「それずるーい!」
「あ? 興味ない女、飯に誘うほど飢えてねぇよ阿呆」
「え? それって?」
「いいから食いなさい」
「記念撮影しときます?」
「いらねーだろもう」
少し照れながら言う先生の顔が可愛くて。今日は一枚だけにしてあげました。
そしてまた唐揚げとポテトサラダを食べる神の姿を見れたことに嬉しくなった。




