交差する思惑
翌日、ルーナが戻り、敵戦力や部隊の配置を報告した。
「ナイカリキンからの援軍が少なすぎますね。この程度の戦力なら援軍を出す意味がない」
呟くように話すエギルの目が困惑しているのがわかる。
「何か、重大なことを見落としてるとか?」
「いえ……この戦い自体に問題はないでしょう」
含みのある言い方。
その先を待つように、手元のカップを持ち上げて口に運んだ。
「まさか……」
エギルの目が鋭くなる。どうやら答えは出たらしい。
「これは、あくまで可能性の話ですが……」
その後に続いたエギルの言葉は、会議室の空気を凍らせた。
◇ ◇ ◇
「クゥイントン卿、先遣隊が戻りました」
揺れる馬車の中、スペンサーが固い表情でクゥイントンに報告をする。
「戻ったか。エンブリー卿を呼んでくれ、状況を確認したい」
「それが……エンブリー卿は捕縛され捕虜になったと……」
最後まで聞く前に、クゥイントンの怒号が飛んだ。
「なに!? それで自分たちだけで戻ってきたのか? エンブリー騎馬隊というのは噂だけの腰抜けか?」
「いえ、戻ったのはエンブリー騎馬隊ではありません。ナイカリキンの部隊です」
クゥイントンが自分を落ち着かせるように、目を閉じた。
馬の蹄と、馬車の車輪が立てる音だけが聞こえる。
「ソーメルスという男か」
「ええ、グラン・ナイカ第三遊撃部隊です」
クゥイントンは苛立ちを隠さず舌打ちをする。
「もっと前線で粘ってくれてもいいのに……」
クゥイントン卿から発せられた祈りのような独り言に、スペンサーが怪訝な顔をした。
「いや、何でもない。隊列に加わるように連絡してくれ」
「はい、かしこまりました」
返事をしてすぐ、スペンサーは幌の小窓から、外の兵士に伝令を指示した。
「しかし、この数なら。まず負けるとは思えませんが」
指示を終えたスペンサーが振り返り、確かめるようにクゥイントンを見た。
大丈夫だ、勝てると言ってほしい。
そんな願いを込めたような、問いかけだった。
「そんな簡単な戦いにはならん。一人ずつの戦力が圧倒的だからな」
スペンサーの表情が険しくなる。
「黒炎の魔女ですか……」
クゥイントンはスペンサーを一瞥して、少し口角を上げた。
「あの魔女とは戦いたくなかったな」
「それほどですか……」
クゥイントンは小さく頷いてから続けた。
「アサシンを先に走らせてある。魔女の首さえ取れば、あとはなんとかなるだろ」
スペンサーはその言葉に少し安堵したのか、眉間の皺がなくなっていた。
◇ ◇ ◇
「ちょっと! マックス。本当に大丈夫なんでしょうね?」
文句を言いながらついてくるミリアを引っ張るように、俺はルーナの後を追っていた。
「たった二人よ? 敵に見つかったらおしまいよ?」
まあね、お前の気持ちもわからんではないさ。
「ミリアさん、大丈夫です。私が先導しますから」
ルーナが振り向いてミリアを説得する。
「マスター、道を確保して来ます。少しこちらでお待ちいただけますか?」
「ああ、頼むよ」
頷くとルーナは隠者で姿を消した。
森の中、鳥の鳴き声が聞こえる。
「まだ敵の本隊は先かな」
しゃがみ込んだミリアを見ると、露骨に眉をひそめてみせる。
「しばらく歩くってこと?」
「まあ、そうだな」
溜め息を吐くミリアをなだめるように、軽く頭に手を乗せた。
「仕方ないわね……」
差し出されたミリアの手を引いて立ち上がらせた。
「で、この戦いが終わったら。次は何すんのよ」
唐突な問いに、掴んだ手を離さず固まってしまった。
「まあ、そうだな。まずは東側の再編成をしないといけないだろうな」
「そう、それから?」
森の中を歩きながら、ミリアの質問に答えるような形でこれからのことを話した。
「あとさ、国中を見てまわりたいな。もう一度」
「国中を?」
木の根が張った歩きにくい道を、ゆっくり進む。
道が悪いせいなのか、それともミリアがおしゃべりだからなのか。
思わず苦笑してしまった。
「ナイカリキンを見たろ? あんな国にはしたくないんだ」
「それ、私も連れていくんでしょうね?」
ジトっと睨むようなミリアの目を見て、こいつには勝てないなと思った。
「わかってるよ。連れてく」
「私も連れて行っていただけますか?」
背後から急に声をかけられ驚いてしまった。
振り返ると、いつの間に戻ってきたのか、ルーナが笑顔で立っていた。
「わかっ……」
俺が答えようとしたその時。
少し離れた森の中から、鳥が一斉に飛び立つのが見えた。
「近いです、ここからはより慎重に動きましょう」
俺とミリアは頷いて、ルーナの後を追った。




