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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第三章 リライアンス統一戦役

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交差する思惑

 翌日、ルーナが戻り、敵戦力や部隊の配置を報告した。


「ナイカリキンからの援軍が少なすぎますね。この程度の戦力なら援軍を出す意味がない」


 呟くように話すエギルの目が困惑しているのがわかる。


「何か、重大なことを見落としてるとか?」


「いえ……この戦い自体に問題はないでしょう」


 含みのある言い方。

 その先を待つように、手元のカップを持ち上げて口に運んだ。


「まさか……」


 エギルの目が鋭くなる。どうやら答えは出たらしい。


「これは、あくまで可能性の話ですが……」


 その後に続いたエギルの言葉は、会議室の空気を凍らせた。


◇ ◇ ◇


「クゥイントン卿、先遣隊が戻りました」


 揺れる馬車の中、スペンサーが固い表情でクゥイントンに報告をする。


「戻ったか。エンブリー卿を呼んでくれ、状況を確認したい」


「それが……エンブリー卿は捕縛され捕虜になったと……」


 最後まで聞く前に、クゥイントンの怒号が飛んだ。


「なに!? それで自分たちだけで戻ってきたのか? エンブリー騎馬隊というのは噂だけの腰抜けか?」


「いえ、戻ったのはエンブリー騎馬隊ではありません。ナイカリキンの部隊です」


 クゥイントンが自分を落ち着かせるように、目を閉じた。

 馬の蹄と、馬車の車輪が立てる音だけが聞こえる。


「ソーメルスという男か」


「ええ、グラン・ナイカ第三遊撃部隊です」


 クゥイントンは苛立ちを隠さず舌打ちをする。


「もっと前線で粘ってくれてもいいのに……」


 クゥイントン卿から発せられた祈りのような独り言に、スペンサーが怪訝な顔をした。


「いや、何でもない。隊列に加わるように連絡してくれ」


「はい、かしこまりました」


 返事をしてすぐ、スペンサーは幌の小窓から、外の兵士に伝令を指示した。


「しかし、この数なら。まず負けるとは思えませんが」


 指示を終えたスペンサーが振り返り、確かめるようにクゥイントンを見た。

 大丈夫だ、勝てると言ってほしい。

 そんな願いを込めたような、問いかけだった。


「そんな簡単な戦いにはならん。一人ずつの戦力が圧倒的だからな」


 スペンサーの表情が険しくなる。


「黒炎の魔女ですか……」


 クゥイントンはスペンサーを一瞥して、少し口角を上げた。


「あの魔女とは戦いたくなかったな」


「それほどですか……」


 クゥイントンは小さく頷いてから続けた。


「アサシンを先に走らせてある。魔女の首さえ取れば、あとはなんとかなるだろ」


 スペンサーはその言葉に少し安堵したのか、眉間の皺がなくなっていた。


◇ ◇ ◇


「ちょっと! マックス。本当に大丈夫なんでしょうね?」


 文句を言いながらついてくるミリアを引っ張るように、俺はルーナの後を追っていた。


「たった二人よ? 敵に見つかったらおしまいよ?」


 まあね、お前の気持ちもわからんではないさ。


「ミリアさん、大丈夫です。私が先導しますから」


 ルーナが振り向いてミリアを説得する。


「マスター、道を確保して来ます。少しこちらでお待ちいただけますか?」


「ああ、頼むよ」


 頷くとルーナは隠者ハイディングで姿を消した。


 森の中、鳥の鳴き声が聞こえる。


「まだ敵の本隊は先かな」


 しゃがみ込んだミリアを見ると、露骨に眉をひそめてみせる。


「しばらく歩くってこと?」


「まあ、そうだな」


 溜め息を吐くミリアをなだめるように、軽く頭に手を乗せた。


「仕方ないわね……」


 差し出されたミリアの手を引いて立ち上がらせた。


「で、この戦いが終わったら。次は何すんのよ」


 唐突な問いに、掴んだ手を離さず固まってしまった。


「まあ、そうだな。まずは東側の再編成をしないといけないだろうな」


「そう、それから?」


 森の中を歩きながら、ミリアの質問に答えるような形でこれからのことを話した。


「あとさ、国中を見てまわりたいな。もう一度」


「国中を?」


 木の根が張った歩きにくい道を、ゆっくり進む。

 道が悪いせいなのか、それともミリアがおしゃべりだからなのか。

 思わず苦笑してしまった。


「ナイカリキンを見たろ? あんな国にはしたくないんだ」


「それ、私も連れていくんでしょうね?」


 ジトっと睨むようなミリアの目を見て、こいつには勝てないなと思った。


「わかってるよ。連れてく」


「私も連れて行っていただけますか?」


 背後から急に声をかけられ驚いてしまった。

振り返ると、いつの間に戻ってきたのか、ルーナが笑顔で立っていた。


「わかっ……」


 俺が答えようとしたその時。

 少し離れた森の中から、鳥が一斉に飛び立つのが見えた。


「近いです、ここからはより慎重に動きましょう」


 俺とミリアは頷いて、ルーナの後を追った。

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