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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第三章 リライアンス統一戦役

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傭兵隊長レオン

「あとは、まかせな」


 吹き抜ける風が、騎乗しているレオンさんの前髪を揺らした。


「レオンさん……」


 そう言って正面を向いたあと、レオンさんは付け加えるように言った。


「あー、大盾。もう少し前の方に展開してくれるか?」


「あ、はい」


 僕の返事も待たずにレオンさんの騎馬が駆け出す。


「お前ら! 続け!」


 土埃を上げてレオン騎兵部隊が敵部隊に向かっていく、怯んだナイカリキン兵が後退をはじめる。


 レオン騎兵部隊が敵陣深くまで踏み込んだところで、不意にその動きが止まった。

 レオン騎兵部隊の真ん中が割れるように開き、前線の兵たちがその間から退避しはじめる。


 その先頭でレオンさんが何かを叫んでいた。


「無理だった! 多いわ」


 必死の形相で下がってくるレオン騎兵部隊。


 いや、まかせろって言ったのに……大盾部隊、前に出しちゃったよ?

 疑問はあったが、不思議と絶望感はなかった。


 レオン騎兵部隊は大盾部隊の前で鋭角に曲がる。

 その時、確かにレオンさんは僕の目を見て笑っていた。

 槍を前に突き出すジェスチャーをして。


「長槍部隊、構えて!」


 僕がエルマーに向かって叫ぶと、伝令が長槍部隊を前に出す。

 左右に分かれたレオン騎兵部隊を追うように、エンブリー騎馬隊が突っ込んでくる。


 前のめりに敵を追った騎馬はそんなにうまくは曲がれなかった。


「突撃!」


 エルマーの声に合わせて長槍部隊が槍を突き出す。

 曲がろうとした騎馬を槍が貫き、後方の騎馬もうまく止まれず混乱していた。


「今だ! 押せ!」


 エルマーの声に応えて、長槍部隊が前に出て騎馬隊をどんどん仕留めていく。


 後続の騎馬部隊は、戻ってきたレオン騎兵部隊に挟まれ、身動きが取れなくなっていた。


 その真ん中に矢の雨が降る。

 振り返るとバートが弓兵部隊を連れて前線に出てきていた。


 血飛沫の中で暴れるレオンさんを、ただ頼もしく感じていた。


「退け! 退けー!」


 ナイカリキン兵たちが下がっていく。

 レオンさんのナイカリキン傭兵隊長時代を知っているからか、その声は震えていた。


「カシムさん、よく頑張ったな。明日にはマスターたちがここに着くぜ」


 返り血を浴びたその姿は恐ろしかったが、人懐っこい笑顔に安堵した。


「エンブリー卿を捕らえました」


 レオン騎兵部隊の一人がエンブリー卿を連れて戻ってきた。


「あ、その人、エンブリー卿だったの? 悪いな足刺しちゃって」


「ひぃっ」


 レオンさんが顔を出すとエンブリー卿は思わず悲鳴を上げた。


「捕虜は丁重に扱って、エンブリー卿。奥で治療を受けてください」


 エンブリー卿が医療班のところへ連れて行かれるのを見ながら、今日を生き残れたことに感謝していた。

 これでマスターに引き継げる、役目は果たせた。


 リアとの約束、守れた。


 気づけば陽は高く昇っていた。

 緊張感が途切れると、不思議とお腹が空いてきた。


「ハマン、何か食べようか」


「そうだね、角肉の塩漬けと堅い小麦焼きしかないけどね」


 そう言って、二人で笑った。


◇ ◇ ◇


「カシムたち、大丈夫だろうか……」


 俺がそう呟くと、ミリアが俺の顔を指差した。


「守護者がそんな弱気なこと言ってどうすんのよ? そのためにレオンを行かせたんでしょ?」


 ミリアには話していなかったので、思わず言葉に詰まった。


「いや、何で知ってるんだ?」


「アイツうるさいもの、いなくなればすぐ分かるわ」


 腕を組んでジトっとした目をしてみせるけど、口の端は少し上がっていた。

 こいつもレオンを受け入れてるんだなと思うと、少し安心した。


「お二人とも……あの人の被害を一番被ってるのは私なんですよ?」


 俺たちの前に座っているルーナがゆっくりと落ち着いた口調でそう言った。


 ただその声は、氷点下だった。


「ああ……そうだな」


「う、うん。そうね」


 気まずい空気を何とかしようと、話題を変えることにした。


「リライアに一度寄るから、ヒナたちを連れて行こう」


「そうね、カシムたちも怪我をしてるかも知れないし」


 俺たちは顔を見合わせて、ルーナの一言を待った。


「カシムさんは、あれからずっとリアさんを支えているそうですね」


 ルーナは窓の外、どこか遠くを見つめながら意味深に続けた。


「羨ましいです……」


 固まる俺の横で、ミリアが引き攣った笑顔でルーナを見ていた。


「ルーナ、今日怖いわよ?」


 ルーナがプッと吹き出して腰をかがめると、俺たちを見上げて笑った。


「冗談ですよ」


「いや、冗談に聞こえなかったんだけど?」


 そう言ったミリアの表情はまだ堅いが、それでもさっきまでの気まずい空気は無くなっていた。


 窓の外は近い景色がどんどん離れていく。

 俺たちを乗せた馬車は、戦場に向かっていた。

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