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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第三章 リライアンス統一戦役

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カシム、初防衛戦

 空が藍色になる頃、ハマン斥候部隊が砦に戻ってきた。


「ハマン、無事だった?」


「まあね、見つからずに帰って来れたからね」


 砦の中に移動して、ハマンに飲み水を出した。


「悪いね、助かるよ」


 ゴクゴクと喉を動かしたあと、息を落ち着けてからこちらを見た。


「先遣隊は五百だね」


「五百? 思っていたより多いな」


 ハマンは頷くと、言葉を続けた。


「本隊は五千の規模だね。部隊の中にナイカリキンの国旗が見えたね」


「クゥイントンがナイカリキンに助力を求めたのか?」


 噂で聞くクゥイントン卿の性格と、ナイカリキンとの関係から考えても、それは信じられないようなことだった。


「まあ、それだけ本気だってことだね」


「本隊が来るまでは何日ある?」


「八日ってところかね、マスターたちの合流は望めそうだけどね」


 二人で深く息を吐いた。

 合流できたとしても……こちらは何も準備できていない。

 そんな状態で勝てるのだろうか?


「いや、マスターならなんとかするよ」


「そうだね、今は合流までの五日間。ここを守り切ることを考えないとね」


 携帯食が運ばれてきて、二人で食事を始めた。


「先遣隊の到着はいつになりそうだ?」


 煮凝り塊を戻したスープに、硬い小麦焼きをつけて齧る。


「森の先で野営の準備をしてたね。夜の間に森に入るのは得策じゃないと判断したんだね」


 角肉の塩漬けを歯で引きちぎりながら、ハマンが答えた。


 食後、僕たちは早々に仮眠を取った。


 指揮官が仮眠を取る重要性は、エギルさんに何度も説かれていた。

 けど、見張りをしてくれてる兵に悪いなと思ってしまうのは、僕がまだ甘い証拠だろうか?


 翌早朝、エルマーとバートを呼んで作戦を伝えた。

 ハマンには伝令係を頼んで、大盾部隊を展開させた。


「来ました、前方に敵影です」


 見張りが声を上げて、緊張感が走る。


 蹄の音が大きくなる。

 先遣隊は騎馬兵で編成されている。


 地面がふわふわするようで、なんだか感覚が掴めない。


 僕は両手で自分の頬を叩いた。


「よし、前門を開いて! 大盾部隊、展開」


 兵たちが木のコマを回して、大きな門が開いていく。


 大盾部隊が砦の前に半円形に展開すると、大盾を地面に立て、体が盾からはみ出ないように屈む。


「ハマン、エルマーに合図を送って」


 ハマンにそう伝えて、迫って来る騎馬兵を睨んだ。


◇ ◇ ◇


「我がエンブリー騎兵隊の威信にかけて、この砦を落とすぞ!」


 私の掛け声に兵たちが続く。門の前には半円形に大盾が並んでいた。


 我が騎馬隊への対策……といったところだろうか。


「二手に別れろ! 左右から挟んで一気に潰せ」


 二手に別れた騎馬隊が、大盾の前で交差するように動き始める。


 これで一気に大盾を潰して、門を突破する。

 数が違う。戦にすらならん。


 美しい弧を描いて、交わる地点に進んでいく。

 兵たちが武器を構える。

 その一瞬だったーー


 大盾の向こうから長槍が突き出して、馬も兵も貫いた。

 門の向こうから鋭い号令が聞こえる。


「矢を放て!」


 馬が倒れ、兵たちの勢いが止まる。

 必死に武器を構えて大盾に向かっていく。


 その時、兵たちの上から矢の雨が降った。


 長槍が下がったと思った瞬間、また新たな長槍が突き出される。

 混乱し始める前線に、新たな矢の雨が降り注ぐ。


 兵の数はまだ優勢だ。それでも一度、体勢を立て直す必要があった。


◇ ◇ ◇


「後ろで指揮してるの、エンブリー卿だね」


 ハマンが塀から降りてきて言った。


「エンブリー領の騎馬隊か、サントバールでも聞いたことがある」


「一手目で向こうは騎馬を五十ほど失ったからね、慎重になるね」


 次の一手が必要だけど、深追いするのは危険だな。


 エンブリーの騎馬隊が進軍速度を緩めて、ゆっくり近づいて来る。

 こちらの弓が少しずつ敵兵を削るが、気にもしていないようだ。


 後方にいるエンブリーが右手を上げた。

 そうか、その為に進軍速度を落として……。

 騎馬隊の後方に控えた弓兵が弓を打ち上げる。

 矢の雨が今度は大盾部隊に降り注いだ。


「大盾交代!」


 次に控えた大盾部隊が前線に出る。

 倒れた兵を退けて、半円形の隊列に加わる。


 新たな盾に攻撃を防がれた敵兵が長槍の餌食になる。


「ハマン。バートに伝言たのむよ」


 互いの矢の雨に、戦力が少しずつ削られていく。


 塀の上の弓兵が、敵弓兵めがけて矢を放つ。

 少しずつ互いに消耗して、防衛戦の一日目が終わった。

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