表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第三章 リライアンス統一戦役

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
83/88

留守を預かる者

「カシム、行くの?」


 髪を整えながら、背中越しに聞いてくる。


 最近は少しずつ精神的に落ち着いてきて、昔の話もできるようになってきた。


「ああ、リアも来るだろ?」


「そうね、今日はヒナさんにも会えるし」


 そう言って振り返ったリアは自然に笑っていた。


 キャッシュの葬儀の後、一人にできないリアを引き取ってリライアに家を借りた。

 はじめは塞ぎ込んでたリアも、少しずつ元気を取り戻していった。


 最近は一緒に城に通えるようになったし……。


「カシム隊長、おはようございます!」


「うん、おはようございます」


 マスターから城の防衛を任されて、隊長と呼ばれるようになった。

 エリナと冒険者をはじめた頃には、こんな未来は想像できなかったな。


「ヒナさん!」


「あ、リアさん」


 リアがここまで元気になったのも、ヒナさんのおかげだ。

 リアはヒナさんを師匠のように敬い、姉のように慕っている。

 確か年齢はリアの方が年上だったと思うけど。


「カシム、じゃああとでね」


 でも、ああして振り返って笑う日が来るなんて思えないほど、あの頃のリアは落ち込んでた。


 ヒナさんには本当に感謝だ。


「カシム隊長」


 警備兵の一人がこちらに駆け寄ってきた。


「ハマン斥候部隊が帰城しました」


「わかったよ、会議室に呼んでくれるかな?」


 警備兵は一礼して、城門へ向かった。


 会議室。

 マスターたちが北へ出陣してから、ここが僕の職場になった。

 椅子に座って警備日誌に目を通していると、ノックの音がした。


「入ってください」


 扉が開いて、ハマンが入ってくる。


「なかなか板についてきたじゃないか」


 軽口を叩くわりには、その顔は笑っていなかった。


「東に動きがあったのか?」


「ああ、少しまずいことになった」


 緊張感から、僕は思わず唾を飲み込んだ。


「兵を集めてるね、東の四領主が揃って攻めてくるだろうね」


 ハマンのその言葉に、心が重くなるような気がした。


「あと何日で来るかな?」


「そうだね。軍が合流して、先遣隊が来るのは五日後くらいかね」


 エギルさんに教わった初動猶予の出し方が役に立っている。


「マスターたちに早馬を出しても、先遣隊には間に合わないな……」


「今、どの辺りまで戻ってるって?」


「伝令の話からすると、今日あたりウィングゲートを出るんじゃないかな?」


 ハマンが伝令に渡す手紙を用意している。


「早馬には……ロウル辺りで渡してもらうかね」


「先遣隊は、こっちで対処するしかないのか」


 初めて軍を率いる重責。

 そして、リアに戦場へ出ると伝えなければならない現実。

 その両方が、同時にのしかかってきた。


「これをいつも……」


 視界が揺れるような気分で、思わず呟いた。


「すぐに兵を集めてくれ、東の砦で迎え撃つ」


「はっ!」


 警備兵が集合をかけるために部屋を飛び出して行った。


「ハマン、斥候部隊は先に出て先遣隊の規模を調べてきてくれないか?」


「わかったよ。調べてから東の砦に向かえばいいね?」


「ああ、僕も向かうよ」


 その後、二十人ほど兵を集めて街の人を城内に避難させるように命じた。

 そしてヒナさんとリアがいる医務室の前で喉を鳴らした。


 手にはじんわりと汗をかいている。

 ドアを開けると、振り返ったリアの笑顔が輝いた。


「あ! カシム」


 リアが立ち上がり、こちらに駆け寄ってくる。

 その後をヒナさんがゆっくりこちらに向かってきている。


 気は重いが、ヒナさんが近くにいる時で良かったかもしれない。


「リア、東に動きがあってね」


「え……」

たった一文字でその場の空気が凍るような声だった。


「戦場に……行くの?」


「ああ、留守を任されてるからね」


 リアの視線が宙を彷徨い、肩が細かく震え始める。


「リア……」


 言葉を続けようとした時、ヒナさんの手が優しくリアの両肩に乗せられた。


「リアさん、カシムさんの無事を祈りましょう。怪我をしたら私たちで治してあげましょう?」


 リアはヒナさんと目を合わせて、小さく頷くと僕の瞳を真っ直ぐ見つめた。


「カシム……必ず生きて戻ってよ」


「ああ、約束するよ」


 潤んだ瞳で頷いたリアの目は、しっかりと前を向いているのがわかった。


 城門前に出ると兵士たちが集まっていた。

 エギルさんが考案した、役割別編成を取り入れて隊列を組む。


 戦場での仕事をはっきりさせたことで、兵に迷いがなくなり、訓練でも高い成果を見せていた。


「東の砦に向かいます、全軍出陣」


 城門を出て、東の砦へ向かう。

 森に挟まれたこの砦は、リライア攻略の要となる重要拠点だ。


 東の四領主もここは無視できないだろう。

 ここを守り切れば、僕らの勝ちだ。


「エルマー、槍部隊で二つの門に見張りを立たせて」


「はっ、かしこまりました!」


 自信に溢れた声で部隊長のエルマーが返事をした。


 初めての防衛戦。

 経験豊富な彼の存在と、その自信は本当にありがたい。


「バート、弓部隊で塀の上に見張りを立てて」


「はっ、かしこまりました」


 二人の部隊長がそれぞれ見張りを立てる。

 僕は大盾部隊に、いつでも展開できるよう指示を飛ばした。


 あとはハマン斥候部隊の戻りを待って、先遣隊に備えるだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ