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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第三章 リライアンス統一戦役

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クゥイントン挙兵

「クゥイントン卿、お待ちください」


 男の呼びかけにクゥイントンは立ち止まった。


「なんだ? スペンサー」


 スペンサーと呼ばれた、白髪混じりの髪を整えた清潔感のある男が続けた。


「ナイカリキンの力を借りるなど、あなたの発言とは思えませんな」


「何だと?」


 クゥイントン卿はその丸い鼻から荒い息を吹き出しながら、スペンサーの方を振り向いた。


「貴様はリライアンスなどという輩どもを野放しにするつもりか?」


「決してそのようなことは申しておりません。ただ、あなたがナイカリキンなどの力を借りる。それが腑に落ちないのです」


 振り返ったクゥイントンは、スペンサーに威嚇するように歩み寄った。


「貴様スペンサー、言うようになったな」


 その目は充血し、顔まで真っ赤になっていた。


「話に聞く戦力であれば、黒炎の魔女さえ抑えればあとは数で押し切れるかと」


 それを聞いたクゥイントンの口角が少し上がる。


「その黒炎の魔女を抑えるのに、ナイカリキンを使うのではないか……」


「つまり……捨て駒にすると?」


 スペンサーは顎を押さえて考えている。


「そうだ。奴らには一番の戦果を与えると言って、先頭に立たせるのだ」


「そう簡単にいきますかな?」


 クゥイントンが肩を震わせて笑い声を上げた。


「この地図を見よ」


「これは……!」


 スペンサーは目を見開いた。

 そこには――リライアンスを真っ二つに分ける線が引かれていた。


 片側にはナイカリキン、もう片側にはクゥイントンの名が記されている。


「本気でこのようなことを?」


「ん……? 何を言っている。ナイカリキンの部隊は黒炎に焼かれるのだろ?」


 二人は目を合わせて笑い合った。


◇ ◇ ◇


「俺たちはリライアに戻る」


 そう言うとベネディクトは頭を下げた。


「再編は私が指揮をとります。どうぞご安心ください」


「ああ、期待しているよ」


 部屋を出ると、隣でミリアが大きく息を吐いた。


「守護者モードって疲れるわね」


「何だそれは?」


 ミリアがゲッソリしているのを見て吹き出してしまった。


「なによ、笑わないでよ」


 ぷくっと頬を膨らませたミリアの頭を撫でた。


「まあ、そう怒るなよ」


「別に怒ってないわ。ほら、行くわよ」


 ミリアの後を追うように、馬車に向かった。


 馬車に揺られて街道を行く。

 何度か通った道をなぞるように、あそこは森が深いとか、あの橋は揺れるとか話しながら進んだ。


 ロウル・ブルグに着く頃には、少し疲れも出てきて一泊しようという話になった。


「なによ? 慌ただしいわね」


「そりゃそうさ、配置転換があったんだ。引っ越す者も多いだろう」


 砦内は兵士たちが忙しく荷物を運び、ゼフィリアに送る荷物の準備をしていた。


「まあ、マスター。ごきげんよう」


「セシリア。急な配置転換で苦労をかけるな」


 セシリアは静かに首を横に振った。


「ゼフィリアへの配置転換は、お兄様にとって躍進ですわ。苦労などとおっしゃらないでください」


「そう言ってくれると助かるよ」


 後ろからミリアがセシリアに声をかける。


「それよりお腹すいたわ……ご飯食べたい」


「ミリア様は食いしん坊ですわね。食堂にご用意しますわ」


 俺たちはセシリアの後に続き、食堂に向かった。

 盲目のはずだが、セシリアの動きには迷いがなく驚かされた。


 翌朝、早い時間に起こされた。

 リライアから早馬の伝令が来た。


「マスター、緊急事態です」


「……続けろ」


 伝令の顔には疲労が見えたが、それ以上に緊張しているのがわかった。


「クゥイントン卿が挙兵準備を行っていると、斥候から報告が入りました」


「東のクゥイントン領が挙兵ですか……これは計算が狂いましたね」


 エギルが難しい顔をしている。


「ウィングゲートを落とした俺たちに、挑むほどの戦力が用意できるということか?」


「いえ、クゥイントン領単体では無理でしょう。残りの領主、全てが手を組んだと考えて間違いないです」


 つまり、次に勝利すれば――リライアンスを統一することになる。そういうことか?


「次の戦い、勝利が大きな意味を持ちます。しかしナイカリキンを意識してきたクゥイントンの挙兵は予想外でした」


「ウィングゲートが落ちて、次は自分たちだと焦ったんじゃないか?」


 エギルは顎に手を当てて考えている。


「しかし……」


「エギル、クゥイントンがこちらに攻めて来るなら勝つしかない。まずは勝利を最優先としよう」


 そう言うとエギルは黙ってうなずいた。


 ミリアを起こすために部屋のドアをノックした。


「ミリア、起きろ」


 部屋の中は静まり返り、返事もない。

 溜め息をつきながらドアを開けると、ミリアはベッドで寝息を立てていた。


「ほら、ミリア。起きろよ」


 呼びかけても反応がない。

 幸せそうに寝てやがるな、これがリライアンスの最高火力なんだからクゥイントンも驚くだろうよ……。


 柔らかな頬を指で突いていると、うぅと呻き声を上げてから少しだけ目を開けた。


「マックス……?」


「ミリア、出発するぞ。起きてくれ」


「嫌よ、まだ眠いもの……」


 駄々を捏ねるミリアを引っ張って、馬車に乗せた。

 疲れているのか、ミリアは俺の肩に頭を預けてまた寝てしまった。


 リライアに戻れば次の戦いが待っている。

 それまでは少しの間、休ませてやりたいと思った。

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