領地再編
翌日の朝は疲れていたのか、寝坊した。
「マックス、いつまで寝てるのよ」
目を開けるとミリアが俺を覗き込んでいた。
「悪い、寝坊したか?」
「そうね、もうみんな集まってるわ」
重い体を無理矢理起こして、ベッドから降りる。
差し出されたミリアの手を掴んで、起き上がった。
「何よ、もう。離しなさいよ」
こいつの手って、こんなに小さかったっけ……?
「マックス?」
「ああ、悪い。考え事してたんだ」
慌てて手を離した俺を見ながら、ミリアは首をかしげた。
「まあいいわ、会議室に行きましょう? もうみんな集まってるわよ」
ミリアの後を追うように、俺は会議室に向かった。
会議室の扉を開くと、見慣れない四人がメンバーに加わっていた。
そのうちの一人は、北の四領主の一角――騎士ブルックリーだった。
頭に巻かれた包帯や、治療の後が痛々しい。
椅子に着くと、他の三人が近づいてきた。
「ピーコック伯爵の長男、テレンス・ピーコックです」
最初に頭を下げたのは、線が細く色白な男だった。
肩まで伸ばしたブロンドの髪が印象的だった。
「ローナン領、ボールドウィン・ローナンだ」
短髪黒髪で、戦場に長く身を置いているのか日焼けをしている。
いかにも剛直そのものが鎧を着ているといった佇まいが、どこかガイに似ていた。
「父は戦場で死んだ。思うところはあるが、口にしようとは思わない」
ローナンの声は真っ直ぐで、偽りを感じなかった。
「レイラ・ボウルズです。ボウルズには男子がいませんので、私が領主を引き継ぐ形になります」
そう言ってお辞儀をした女性は、ボブカットがよく似合う、理知的な美人だった。
「そうか、三人ともよく来てくれたな」
そう言って三人を席に着くように手で合図した。
「今後の領地についてだが、基本的にはそれぞれに統治を任せようと思っている」
「基本的にはと言われますと?」
テレンスの質問に対して、エギルが説明を始めた。
「みなさんには今まで通り、領地の運営を行っていただきます。上位勢力がレグナートやウィングゲートからリライアンスに変わっただけ、そう思っていただいて結構です」
ガタッと椅子を鳴らして、ブルックリーが立ち上がった。
「そんな……では我々は何のために血を流したのだ!」
「我々はあなた方を攻撃するつもりはなかったはずですが?」
エギルのその一言で、ブルックリーは言葉を詰まらせた。
「まあ、落ち着いてください。今後の話をしましょう」
エギルがそう言うと、ブルックリーは渋々といった様子で席についた。
「みなさんには今まで通り、領主として領地を守っていただきます。統括はウィングゲートではなくロウル卿に担っていただきます」
ベネディクトが立ち上がり、胸に手を当てて頭を下げた。
「現在のウィングゲート領とロウル領の転換を行い、新しいウィングゲート領主はギル・ウィングゲートとします」
ギルが立ち上がり、胸に手を当てて頭を下げた。
「それと、帝国との国境に当たるボウルズ領には国境警備隊を編成して、その隊長をガイとします」
ガイが立ち上がり、胸に手を当てて頭を下げる。
「国境警備隊ですか……それはボウルズには任せられないということですか?」
レイラの真っ直ぐな視線がこちらを射抜く。
「任せられない……というより、今までのやり方が歪だったんだ」
「それは、どういう意味ですか?」
戸惑うレイラの目を、今度はこちらが真っ直ぐ見つめた。
「帝国との国境警備を、ボウルズだけに押し付けていた。それが間違っているんだ」
「しかし、ボウルズはそれをやってきました。何も問題はなかったはずです」
レイラの言葉に、エギルが首を横に振った。
「まず兵力の問題です。他の領地がそれぞれ軍備を強化していた一方で、ボウルズにその余裕はなかった」
「今回の戦いでも兵は用意できています」
レイラが異を唱えるが、エギルは続けた。
「その多数が傭兵でしたね。帝国から流れてきた」
レイラは言葉が喉に詰まったように黙った。
「帝国から流れてきた傭兵たちが、国境を越える手引きをしてしまう。そんなことが起こり得ます」
「いや、彼らはそんなこと……」
「しないと言い切れますか?」
エギルの目は厳しく、レイラは次の言葉を探していた。
「レイラさん、あなたのお気持ちはわかります。あなたはお名前からして……」
その言葉にレイラは唇を噛んだ。
「母が、帝国出身です」
尋問ではない、だが絞り出すようにレイラはそう言った。
「やはり、傭兵たちを庇いたくなるのもわかります。しかし傭兵に頼り切るのは違うと思いませんか?」
「……っ、では、どうしろと……!」
レイラは自分の言葉に驚いたように手で口を覆った。
「そうです、そのための国境警備隊なのです。ご理解いただけますか?」
エギルがいつものにこやかな表情に戻り、優しくそう言うとレイラは深々と頭を下げた。
「出過ぎた真似をいたしました。ご考慮いただき感謝いたします」
「我々が向かう。任せておけ」
短いが、その言葉にはガイなりの気遣いが込められていたのだろう。
レイラは頭を下げたまま、しばらく顔を上げなかった。
彼女を見つめる俺の袖を、ミリアが何も言わずにそっと掴んだ。




