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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第三章 リライアンス統一戦役

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勝利のあとに

「何だったんだ? あの二人」


 戻ってきたザックに声をかけると、肩をすくめた。


「わからん、しかし……」


「しかし?」


 問い返すと、ザックは鋭い目で俺を見て、


「強いぞ、あれは」


 静かにそう言った。

 ザックに強いと言わせる相手か。想定していなかったな。


 ミリアのファイアーボールも弾き飛ばした。

 ユニークスキルなのか……?


「マックス、あいつ今度会った時は吹き飛ばしてやるわ!」


 物騒なことを言ってるが、こいつなりに悔しいんだな……。


「まだ終わってませんよ」


 後ろからエギルが近づいてきた。


「ウィングゲート公爵の遺体を、ウィングゲート領の都市ゼフィリアへ運びます」


「遺体を返してあげるのね」


 口を挟んだミリアに、エギルは優しく頷く。


「遺体の返還時に、ゼフィリアに降伏勧告をします」


 エギルの言葉にベネディクトが続いた。


「各領主の生死は確認できていませんが、ゼフィリアが降伏すれば、他の領主も自ずと配下に加わるでしょう」


 兵たちが次の号令を待っている。


「我々リライアンスは、ゼフィリアへ進軍する!」


 兵たちの応える声が、戦場に響き渡った。


「マスター、よろしいですか?」


 声のした方からルーナが現れた。


「ああ、ウィングゲート暗殺ご苦労さま」


「いえ、それよりもあの二人ですが……」


 労いの言葉に一瞬緩みかけた頬を、抑えてルーナが続けた。


「どうやらジャイルズは、何者かが化けた偽物のようです」


「偽物?」


「はい、ウィングゲートが倒れてからあからさまに声色が変わっていました」


 声が……変わった?


「後からきた女性は、鏡氷きょうひょうと呼ばれてました」


鏡氷きょうひょうだって!」


 背後からエドマンドの驚いた声が聞こえた。


「知ってるのか? エドマンド」


「はい、蒼月の残響というギルドに所属している剣士です」


 エドマンドが慌てて近づいてきた。


「蒼月の残響?」


「ええ、国外のギルドですが、その名はサントバールのギルド本部まで届いています。中でも鏡氷きょうひょうという剣士の名はよく聞きます」


 懐からメモ帳を取り出し、何かを確認するエドマンド。


「どの国のギルドなんだ?」


「それが、わからないのです」


 わからない? 国外で高い功績を上げ、名を轟かせるような連中の所属が?


「ええ、悪魔を退治したとか、国を救ったなどの噂はよく耳にしますが所属国も規模も不明なため作り話かと思ってました」


 なるほど……。


「ならば、やつらが名を語っているという可能性もあるわけか」


「ええ、それはもちろん」


 まあ、何にせよ厄介だ。

 あの剣士が仲間を連れてきたら、苦戦は避けられないだろう。


「しかし、今考えてもしかたない。ゼフィリアに向かう」


 俺の声で、各自隊列を正した。

 ゼフィリアまでの道のりは、思ったよりあっさりしていた。


 各地でウィングゲート兵と出会ったが、恐怖からか俺たちの進軍を邪魔するやつはいなかった。


 夜も交代で休んで敵兵に備えたが、結局ゼフィリアに着くまで襲われることはなかった。

 ゼフィリアの門前に、兵士たちが並んでいた。


「私は、レイ・ウィングゲート公爵の長男、ギル・ウィングゲートと申します」


「そうか、ギル。父君の遺体を引き取ってくれ」


 ギルはぐっと唇を噛み締めて、手を震わせた。


「父は負けた。捨て置かれても仕方なかった。この地まで運んでいただいたことに、礼を申し上げます」


 深く頭を下げるギルを見て、周りの兵たちも頭を下げた。


「ギル、これ以上争って死体を増やしたくない」


「こちらもゼフィリアを戦場に変えたくはありません。仰せのままに」


 こうして、ウィングゲート公爵との戦いは幕を閉じた。


「ふぅ……やっと帰れるわね」


 ミリアが伸びをしながらそう言うと、後ろからエギルが口を挟んだ。


「いえ、まだ仕事は残っていますよ」


 そのにこやかな顔と対照的に、ミリアがうんざりした顔をしてみせた。


◇ ◇ ◇


「戻ったのかい? 鏡氷きょうひょう


 暗闇の奥から、男の声が静かに響いた。


「あら、いたの」


 鏡氷きょうひょうが皮肉っぽく笑う。


「今回の仕事は?」


「聞かなくったって知ってるでしょ?」


 鏡氷きょうひょうの声から、明らかに苛立っているのが伝わる。


「ウィングゲートが殺されて、計画も失敗か。あの方になんと報告するべきかね?」


「知らないわよそんなの」


 鏡氷きょうひょうはテーブルに着いて、グラスと酒のボトルを引き寄せた。


百姿ひゃくしは?」


 酒を注ぎながら、視線も変えずに鏡氷きょうひょうがそう尋ねた。


「なに……すでに次の仕事に向かわせた」


 暗闇の奥で、男の目だけが鈍く光っていた。

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