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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第三章 リライアンス統一戦役

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崩れゆく軍勢

 前方で土煙が上がり、地を這うような低い音が響いた。

 進軍中の部隊は速度を落としていく。


「ジャイルズ、何があった?」


「どうやら、前方で爆発があったようです」


 そんなものは見ればわかるが、聞かずにはいられなかった。


「どういうことだ? 黒炎の魔女は役に立たないのだろう?」


「ええ、イライザからの報告によれば、本日は魔力が枯渇する日だと」


 イライザが謀ったのか?

 しかし、爆発の規模は想定内だ。

 連発できるとも聞いていない。恐るるに足りんな。


 前方から戻ってきた兵士が、ジャイルズに告げた。


「お館様、黒炎の魔女はまだ動いていないようです。どうやら魔法道具で起こした爆発のようです」


 魔法道具か。ソフィアとか言うエルフだな。


「構わん、前進させろ!」


「それが……」


 ジャイルズが前方を見ながら何かを確かめている。


「どうやら、爆破された場所を避けて飛び出した兵たちが、左右からの挟み撃ちを受けたようです」


「何? 構わん、全軍で踏み潰すぞ!」


 一時的に兵が密集してしまうが、構わん。

 一気に叩き潰して、くだらん抵抗をさせずに終わらせてやる。


◇ ◇ ◇


 クリス隊とレオン隊がこちらの陣に合流してきた。


 死体の山を乗り越えてきたウィングゲート兵たちが、こちらを向いた。


「かなりの数が固まったな……ミリア、いけそうか?」


「ええ、バッチリよ!」


 敵兵の塊を睨む。

 このくらいが限界だな。


「ミリア、今だ!」


「わかってるわよ! インフェルノ・ノード!」


 ミリアの指輪から、黒い種火が敵軍に向かって放たれた。


 疲労感が俺の体を襲った。

 いや、こんなものか? ミリアのやつ、本気で修行してたんだな……これなら――


 黒い光が視界を遮る。


 空気が裂けるような轟音が響き、爆風に体を押されて後ろに下がる。


 黒い土煙が舞い上がり、目を開けていられなかった。


 やがて周囲が静かになり、耳の奥で甲高い音が鳴り響くだけになった。

 空気が震えていた。


 やがて視界が開け、爆心地を中心とした巨大なすり鉢状の穴が現れた。


 中心はまだ熱を帯びているのか、空気がゆらめいていた。


 その威力に呆然としたミリアの手が震えていた。


「よくやった、これで戦局が一変するぞ」


 そう言って頭を撫でると、


「子供扱いしないでよ……」


 そう言いながら、手を振り払おうとはしなかった。


「エギル、作戦は進捗どおりだな」


「ええ、魔力の枯渇という偽情報に踊ってくれたので、ここまでは順調です」


 ベネディクトが気づいたメイドの不審な行動を、エギルが利用した。

 魔力の枯渇までの日数を確認して、その情報をわざと聞かせた。

 敵側からすれば、それほど有用な情報はないだろう。


「アスペン隊、前へ」


 号令をかけると、アスペン率いる魔砲筒部隊が前に出た。


「構え!」


 アスペンの号令で、兵たちは魔砲筒を構える。


 静寂。


 大きく空いた穴の中から、呻き声がかすかに聞こえる。

 敵の後方部隊が動き始めたのだろう。穴の中から敵兵の足音が聞こえてきた。


 やがて、穴の淵から敵兵の頭が現れ、続々と敵兵が姿を表した。


「撃て!」


 乾いた音がいくつも重なって響いた。


 穴の淵に立っていた兵たちが、穴の中に倒れていく。

 穴の中から驚きと混乱の声が聞こえてきた。


「よし、足が止まった。ミリア!」


 すでに指輪に集中していたミリアが顔を上げた。


 穴の上に黒雲が現れ、ビリビリと空気に緊張が走る。


 無数の稲光と空気を裂く音が響き、叫び声すらこちらに届かなかった。


「ミリア、この魔法は?」


「サンダーストームよ。おばあちゃんの魔法書にあったんだけど……」


 雷の音がうるさすぎて、語尾が聞き取れない。


「なんだって? 最後が聞こえない」


「こんな威力だなんて書いてなかったのよ!」


 その時、アストリッドの言葉を思い出した。

 これがセージの魔法。

 自然に愛されたミリアだけの魔法だと。


◇ ◇ ◇


「何だ!? 一体何が起きている?」


 雷鳴が轟き、声を大きくしないと聞こえない。


「ジャイルズ! 被害状況はどうなっている!」


 振り向くと、ジャイルズはその光景に目を奪われていた。

 雷のせいか、その口角が上がっているようにも見える。


「おい、ジャイルズ! 聞いているのか?」


 肩を揺すると、ようやくこちらに気づいて、


「も、申し訳ございません。被害は約半数ほどかと」


「半数? 半数だと?」


 ありえない。たかだか千五百の兵だぞ?


「撤退だ! 撤退命令を出せ!」


「かしこまりました! しかし、こうも雷がうるさくては……」


 兵を走らせて、必死に撤退を伝えた。


 やがて全軍が後退を始めた頃には、雷はすっかり止んでいた。


 後方で乾いた音が鳴り響く。

 殿についた兵たちが倒れていく。


「何だ! あの武器は!」


「わかりかねます。お館様、急ぎましょう」


 巨大な氷の矢が兵たちに降り注いだ。

 その向こう側に、黒炎の魔女が立っていた。


「ええい、構わん! 魔女を討ち取れ!」


 あの魔女はまずい。

 背を向ければ、もっと兵を失うことになる。


 魔女に向かって弓が放たれる。

 一番近い後方の兵士たちも斬りかかった。


「やったか!」


 しかし、氷の矢が止まらない。


「なぜだ? なぜ倒れない?」


「わかりかねます。あれは異常だ……」


 ジャイルズの唾を飲む音が、この戦争の勝敗を決定していた。

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