戦端開く
ウィングゲート陣営。
レイ・ウィングゲートは馬に揺られながら進軍していた。
前方から、間もなく味方先頭が敵と衝突するとの報告が入る。
「ジャイルズ、数は報告通りか?」
ジャイルズが馬を寄せた。
「ええ、およそ千五百。問題ないかと」
その報告に、思わず口角を上げる。
「構わん、踏み潰せ!」
その声は勝利を確信していた。
◇ ◇ ◇
黒い影の塊がどんどん大きくなり、やがて目の前に現れた一万の軍勢に鳥肌が立った。
「やはり多いな……」
思わず呟いた俺の腕を、ミリアが引っ張った。
「シャンとしなさい! みんな見てるわよ」
ハッとした。今、千五百人以上の命を預かっているのだ。
俺の一言で、この戦場が動く。
「ああ、悪いな、ミリア」
振り向くと、ミリアは俺を真っ直ぐ見つめて笑って見せた。
なんて胆力だ……。
人殺しが恐ろしいと嘆いていたミリアの姿は、もうどこにもない。
ただ真っ直ぐ、昔から俺を引っ張ってくれた凛とした顔がそこにあった。
「では、作戦を開始する!」
エギルが頷いた。
ソフィアに信頼の代償をかけると、彼女は重装兵の前に歩み出た。
「これー! 思ってたより怖いわー!」
前方でソフィアが叫んでいる。
なんだ、結構余裕あるな。
「大丈夫だ、しっかり引きつけてくれ」
地面から振動が伝わってくる。
地響きのような轟音が近づいてくる。
先頭を走る兵士たちの雄叫びが聞こえた。
「ソフィア、もう少しです」
エギルが声をかけると、ソフィアが頷いた。
「今です!」
エギルの掛け声で、ソフィアが地面に手をついた。
扇状の光が地面を走った――その瞬間。
ソフィアの向こうで土煙が上がり、空気を押し広げるような重低音が響いた。
ソフィアに当たった爆風か、それとも破片か。
アヴェンジスケールが少し赤く光った。
土煙の向こう、前線が崩れたせいで詰まりかけた部隊が、それを避けようと膨れ上がろうとしていた。
ロウル兵が旗を上げて合図をした。
「ミリア! 行くぞ!」
「わかってるわよ!」
信頼の代償をミリアにかけ直した。
「全軍前進!」
軍が前に進み始めた。
膨れかけたウィングゲート軍の両脇の森から、クリスとレオンの騎馬隊が飛び出してきた。
「お前ら、一撃離脱だぞ!」
レオンの掛け声で、兵士たちは腕に構えた槍を敵兵に突き刺し、こちらへ駆け戻ってくる。
反対側のクリス軍も同様に、整った陣形で敵の側面を撫でるように襲いかかる。
膨れようとしていた敵軍の足が止まり、後続も膨れ上がってどんどん追いついてくる。
大きな塊が、前方の死体を乗り越えてこちらに向かおうとしていた。
膨れ上がる敵の塊に向かい、軍は前進していく。
数で言えば、まだ圧倒的な差がある。
次の一手が、この戦場の命運を決めるだろう。




