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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第三章 リライアンス統一戦役

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地鳴り

 予定通り、ロウル・ブルグ北の平原に陣を構えた。

 野営の用意が始まり、周りが慌ただしくなる。


「さて、どう動きますかね?」


 エギルがいつも通りのにこやかな顔でベネディクトと話している。


「相手は一万ですからね。数で押し潰すのが一番早く、安全だと考えるでしょう」


 ベネディクトの考えと一致したのだろう、エギルは小さく頷いた。


「それで、例のものは準備できてますか?」


「ええ、あとは魔力を通していただくだけです」


 二人は揃ってソフィアの方を向いた。


「えっ? まだでしょう? そんなに早く流したら通れなくなるし」


「ええ、まだです。その時は頼みますよ」


 エギルの言葉に嬉しそうに頷くソフィア。

 まるで犬が懐いているみたいだな……。


 野営の準備が終わり、夜になると偵察部隊も戻って来た。


「ウィングゲートの軍は間違いなく、明日の朝攻めて来ます」


 偵察部隊の一人がエギルに報告をした。


「では、ソフィア。魔力を流してくれますか?」


 エギルに言われ、意気揚々とソフィアが平原を歩いていく。明日、一万の軍勢がやってくる方向へ。


 地面に扇状に光が流れ、それが枝分かれするように眩しく輝いた。


 光は徐々に消えていき、いつもと変わらない静かな地面に戻った。


「これで、魔力が通ったのか?」


 思わず聞くと、振り返ったソフィアは微笑んで、


「ええ、不安なら歩いてみますか?」


 そう言って、静かになった地面を手で示した。


「いや、遠慮しとくよ」


 広い草原が暗闇に広がっている。

 明日の朝、ここが戦場になるとは思えないほど静かだった。


「マスター、明日の流れをもう一度確認しましょう」


 エギルに声をかけられて、俺はテントに戻った。


◇ ◇ ◇


「ジャイルズ、首尾はどうだ?」


 ウィングゲート公爵はヴァインを片手に、ジャイルズを見下ろしていた。


「はっ、戦列は問題なく整っております」


「そうか……」


 ヴァインをひとくち口に運び、味を楽しむ。


「まあ、お前のことだから問題ないと思うが、相手はレグナリスを落とした輩だ。油断するな」


「心得ております」


 ジャイルズの低く落ち着いた声に、ウィングゲート公爵は眉を少し下げた。


「お館様も、お早めにお休みください。明日は早いので」


「ああ、そうだな」


 ウィングゲート公爵がヴァインを置くと、ジャイルズはテントを出て行った。


 明日、この国は自分のものになる。

 そう考えるウィングゲート公爵の、喉の奥を鳴らすような笑い声がテントから漏れていた。


◇ ◇ ◇


 テントの中に入ってきた光で、俺は目を覚ました。


「おい、ミリア……起きろ」


 まだ熟睡しているミリアの肩を揺らす。


「ん……んんぅ……いやよ、もうちょっと」


 寝ぼけてるな。

 いつも通り、まだ起きてこない気だ。


「駄目だ、早く起きろって」


 両肩を抱えて、無理矢理体を起こした。


「んっ? なに? なんで?」


「朝だ、これから作戦開始だぞ?」


 それを聞いてやっと目が覚めたのか、ミリアは両手を上げて伸びをした。


「わかってるわよ、起きるから」


「そりゃ良かった、早く行くぞ」


 二人でテントから出ると、編成した六部隊がすでに隊列を組んでいた。


「マスター、号令をお願いします」


 エギルに言われて、隊列の前に歩み出た。


「敵は一万だが臆するな。そのための作戦と戦力がここにある。俺を信じて、前に進めばいい」


 隊列を見回す。二十日前とは違う表情がそこにはあった。


「全軍、前進!」


 兵士たちが応え、前進が始まる。


「ガイ重装歩兵部隊、前へ」


 ガイ重装歩兵部隊が一番前で隊列を組み直す。

 その後ろにシーザー歩兵部隊が並んだ。


 しばらく、平原は静かだった。


 遠くから、地鳴りのような音が聞こえ始めた。

 地平線の向こうから、黒い塊が揺れながら向かってくる。


「これが一万の兵か」


 圧倒的な数。音が暴力的に膨れ上がっていく。

 隣にいたミリアが、小さく唾を飲み込んだ。


 兵士たちの緊張が空気に伝わってくる。

 どんどん大きくなる影を、ただじっと見ていた。


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