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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第三章 リライアンス統一戦役

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進軍の朝

 砦の門に近づくと、驚いた二人の門兵が慌てて駆け寄ってくる。


「マスター、こんな夜更けに……ミリア様はいかがなされました?」


 背中で寝息を立てるミリアを、心配そうに門兵が見つめる。

 おい、よだれ垂れてるぞ……。


「大丈夫だ。少し街の酒場に行ってきただけだよ」


「酒場? 我々が飲みに行くような場所へ、ですか?」


 頷くと、門兵たちは驚いたように目を見合わせた。


「しかしミリア様は……」


「やはり魔力が枯渇するという噂は……」


 ほう、もうそんな噂が出ているのか。

 酔っ払って寝てるだけなんだがな……。


「まあ、心配ないよ。開けてくれ」


 門が開き、部屋に向かっているとミリアが目を覚ました。


「マックス……」


「ん? 起きたのか?」


 返答はない。しばらく歩いていると――


「マックス……」


「おお、どうした?」


「き……」


「き?」


「気持ち悪い……」


 背中でミリアの体が揺れるのを感じて、俺は慌ててトイレに駆け込んだ。


 翌朝、目を覚ますと隣にミリアが寝ていた。

 体を起こすと、ミリアも目を覚まして起き上がってきた。


「頭痛い……」


「ばか、飲み過ぎだよ」


 ミリアはキョロキョロと辺りを見回すと、


「マックスの部屋……」


「何だ? 覚えてないのか?」


 何か考えていたミリアが、ゆっくりこちらを向いた。


「あんまり……覚えてないわ。変なことした?」


「変なこと? してねーよ」


 ミリアは一瞬ホッとした顔を見せたが、頭痛のせいか頭を抱えて呟いた。


「もうお酒は飲まないわ」


 まあ、初めての二日酔いなんてそんなもんだ。

 二、三日もすれば忘れるだろう。


「俺はエギルたちに会うから、そろそろ出る。お前は落ち着くまで休んでろよ」


 そう言って着替えていると、ミリアは手だけをヒラヒラと振って横になった。


 会議室のドアを開くと、既に全員揃っていた。


「悪いな、遅れた」


 声をかけると、全員が一斉に立ち上がり、胸に手を当てて深くお辞儀する。

 椅子に座ると、それにならうように全員が着席した。


「ミリアさんは二日酔いだそうですね」


 エギルが微笑みながらそう言った。


「ああ、飲み過ぎだ」


「加減ってのがわかってねえからな」


 ザックが楽しそうに笑った。


「しかし、一国の主ともあろう方が街の酒場に出向くなど」


 ベネディクトが厳しい目でこちらを見る。

 クリスなどのレグナート時代からの幹部も、それに同意するように頷く。


「駄目だったかな?」


 確かにそうなんだが……俺は――


「駄目とは言っておりません」


 意外な言葉に驚いた。いや、クリスたちも眉をしかめてベネディクトを見ているな。


「非常識です」


「非常識か……」


 ベネディクトが頷く。

 非常識だけど駄目じゃない?


「ここはもうレグナート王国ではありません。新国家リライアンス守護主権国です」


 その言葉にクリスたちもハッとした顔をした。


「新国家の常識は、あなたがお決めになれば良いのです」


 この男が仲間になって良かった。

 本当にそう思った。


「ただし」


 ベネディクトの目がまた厳しくなる。


「ただし……?」


「あまり羽目を外しすぎないよう、お気をつけください」


「ああ……わかった」


 ベネディクトがエギルを見ると、エギルが頷いた。


 なるほど、これは二人からの忠告だったわけだ。


「では、本題に入ります」


 エギルの声に頷いた。


「ウィングゲート公爵軍は都市ゼフィリアから進軍をはじめています。途中、ナガト渓谷辺りで北の四領主軍と合流。総勢一万の軍で南下を始めます」


 全員がエギルの話を聞きながら、手元の地図を眺めていた。


「我々はロウル北の平原近くで野営を行い、それを迎え撃ちます」


「その場所を選んだ理由は?」


 質問が出ると、エギルはにっこり笑って言った。


「これは私の部下であるルイスの発案なんですが、この開けた場所で野営をすると敵はどう思いますか?」


 質問に質問で返すなりの理由があるのだろう。ベネディクトが口を開いた。


「野営がしやすく、開けた場所を選ぶのは、ミリアさんが……黒炎の魔女がいるから」


「そうです。だから敵は魔女対策として、できるだけ長い隊列を組むでしょう。爆裂魔法の威力はもうわかってますからね」


 俯いて聞いていたガイが口を開いた。


「だが、野営をしやすいと言っても、そんな場所は選ばない」


「ええ、そうですね。ガイさんほどの経験のある方なら、野営がしやすいなんて理由では選ばないでしょう」


 ベネディクトが頷いた。


「なるほど。我が軍は黒炎の魔女頼みの軍と思わせる。そういうことですね」


「ええ、これで少しは油断してくれるでしょう」


 その時、ノックの音とともにメイドがお茶を運んで入ってきた。


「しかし、ミリアさんの魔力が枯渇する明後日を狙われたら、手の打ちようがない!」


 ベネディクトの声色が急に変わった。


「確かに。しかし、ただの一日のことです。そこさえ乗り切れば済む話でしょう?」


 エギルがベネディクトを落ち着けようとする。


 お茶を配り終えたメイドが部屋を出て行った。


「よし、ロウル北の平原に向かって進軍を開始するぞ」


「かしこまりました、マスター」


 ミリアの魔力が枯渇する日まであと二日。

 俺たちはロウル・ブルグから進軍を開始した。

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