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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第三章 リライアンス統一戦役

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希望

 ロウル領北の草原。

 数人の兵士が地面を掘り、作業をしている。


 ベネディクトがその近くで馬を止め、近づいてきた。


「作業はどうなってる? 終わりそうかな?」


 兵士の一人が近づいてきて、ベネディクトに頭を下げる。


「はい、予定通り。本日中に終了する見込みです」


「そうか、よくやってくれた」


 ベネディクトの表情に安堵の様子が見られると、兵士は目を潤ませて応えた。


「はっ」


 草原の地面は、ところどころ不自然に掘り返されていた。

 ベネディクトは掘り返された地面を見渡し、満足そうに微笑んだ。


◇ ◇ ◇


 リライアの門前に兵士を集めた。

 各部隊に分かれて隊列をつくる。


「これより、ロウルへ進軍する。途中、サントバールでエドマンド率いる冒険者部隊と合流するが、彼らは兵士ではない。今回の戦いに協力してくれる仲間として迎え入れてほしい」


 兵士たちの反応は様々で、戸惑う者も少なくなかった。


「進軍開始!」


 号令をかけると、それでも兵士たちは進軍の意思を示し、リライア門前に兵士たちの声が響いた。


 馬車に乗り込み、進軍を開始した。


 サントバールでエドマンドの冒険者部隊、およそ二百名と合流した。

 報酬を弾んだおかげか、中には冒険者ではない民間人も混ざっていた。


 今日のために冒険者登録をしたのだろう。少し心配になったが、心強くも思った。


「冒険者部隊は補給の要になってもらう。物資輸送に人数を割けない状況では、頼もしい限りだよ」


 そう語る俺の顔を、ミリアがじっと見ていた。


「マックス、なんだか王様みたいね」


 いや、お前がやれって言ったんだろ?

 そう言いかけてやめた。


 ロウルに着く頃には、ミリアの魔力が枯渇する日まで残り三日となっていた。


 ベネディクトが迎えに出てきた。


「マスター、お待ちしておりました」


「ベネディクト、世話になるよ」


 ロウル兵たちが、それぞれの隊を設置されたテントに案内した。


 開戦は近い。

 その雰囲気に、身が引き締まる思いがした。


 その夜は久しぶりに酒場で飲みたくなった。

 出掛けようとすると、ミリアが俺の肩を掴んだ。


「マックス、どこに行くのよ?」


「なんだ? たまにはお前も来るか?」


 冗談のつもりでそう言ってみたが、ミリアはこくりと頷いた。


 酒場の入り口に立つと、店の中がざわついた。

 カウンターから酒場の主人が飛び出してきて、俺たちに頭を下げた。


「マ、マスターと魔女様。このような酒場へどういったご用向きで……?」


 戸惑う主人の顔と店の雰囲気から、自分の自覚のなさを反省した。


「悪いね、邪魔だったかな?」


「いえ、とんでもない」


 店の中を見回す。雰囲気のいい酒場だ。


「俺はこういう店が好きなんだ。一杯飲ませてくれないか?」


「しかし、小さな店ですので特別な席のご用意もなく……」


 口ごもる主人の肩にそっと手を乗せた。


「カウンターでいい。普通の客として接してくれないか?」


「え? ええ……マスターさえよろしければ」


 カウンターへ向かう俺たちを、店の客は驚愕の目で見ていた。

 カウンターに座ると、ミリアも俺にならって隣に座った。


「親父さん、モルトをくれないか? こいつには何か甘い果実酒を」


「はい、ただいま」


 ミリアを見ると、はじめての酒場にどことなく緊張しているのがわかった。


「あんまり固くなるなよ?」


「な、なってないわよ!」


 強がるミリアに頬を緩めていると、


「なんだお前ら? 今日はデートか?」


「ザック、お前も来ていたのか?」


 隣の席で、すでにモルトを煽っていたザックがニヤけてこちらを見ていた。


「ミリア、お前酒飲めるのか?」


「飲めるわよ! 馬鹿にしてるの?」


 ミリアの言葉を軽く笑いとばして、


「酔っ払って店を爆破すんなよ?」


 ザックの冗談に店の主人がギョッとした顔をした。


「あんた、ふざけてると燃やすわよ?」


「おお、こえー! マックス、俺に信頼の代償(リライアンス)しとけよ?」


 ザックが肩をすくめて見せた。


 一杯、二杯と酒を重ねていくうちに、最初は強張ってた店の主人も次第に頬を緩め始めた。


 ザックが酒場で飲んでいた兵士たちにも声をかけた。


「おい、お前ら。今ならマスターと話せるぞ?」


「え!? よろしいので……?」


 ザックに手招きされて数人の兵士が寄ってくる。


「マスター、いつも的確なご指示に感動しています」


「そうか? エギルもいるからな。それに……」


「それに……?」


 続く言葉を待っている兵士が、目を丸くしてこちらをみていた。


「指示一つで人の命がかかってるからな」


「さすがでございます! マスター!」


 酒のせいか、大袈裟に感動された。

 その顔に計算はなかったから、こちらも気分よく飲めた。


「で、では続いて私からもよろしいですか?」


 顔を赤くした二十代前半の兵士が、ずいっと前に出た。


「いいぞ、言ってみろ」


「はっ! マスターとミリア様はご結婚なさらないのですか?」


 その言葉に、隣でミリアが果実酒を吹き出した。


「ミリア! もう汚いな……すまないね親父さん」


 店の主人は笑顔で首を振った。

 その表情は、カウンターを汚されたのにどこか嬉しそうだった。


「だ、だってマックス。その人が変なこと言うから!」


 そう言った後、ミリアは新しく注がれた果実酒を一気に飲み干した。


「何で、そんなこと聞くのよ……喉乾いた、おかわり」


 酒場の主人がミリアのグラスにおかわりを注ぐ。

 それを受け取ったミリアは、また一気に飲み干してしまう。


「あ、あんらたちねぇ! 私とマックス……が、そんなっねぇ?」


「ミリア、ちょっと飲み過ぎだ。控えろよ?」


 そう言うと、ミリアはこっちを向いて微笑んだ。


「らぁいじょうぶよぉ……れんっぜん」


「いや、すでに大丈夫じゃなさそうなんだが?」


 ミリアがこっちをキリッと睨んだ。


「らぁによ? あたひがお酒のんじゃあ、らめらって言うの?」


 既に何を言ってるのか怪しいな……。


「いや、しかし。我々の間ではマスターとミリア様は愛し合われてると噂が……」


 そんな噂が立っても、おかしくないな……。


「あっあいっ!?」


 真っ赤な顔をしてミリアは固まった。


「まあ、どうせそのうちそうなるだろ?」


 ザックの言葉に兵たちの目が輝く。


「やはり!」


「これはおめでたい!」


 喜んで乾杯をはじめる兵たちに、思わず尋ねた。


「なあ、そんなに嬉しいことなのか?」


 兵士たちが駆け寄るように近づいて、そのうちの一人が笑顔で言った。


「それはもう! この国の新しい希望になりますから!」


 その言葉に、改めて自分の立場と責任を感じた。

 また、人々にとってそれが価値のあることだと実感した。


「今日は飲みに来て良かったよ」


 思わずそう呟いた。


「また、ご一緒させていただけますか?」


 兵たちの期待した目を見て、目を閉じて頷いた。

 ふと、横を見るとザックが嬉しそうに笑っていた。


「なあ、親父さん。また来ていいかな?」


「もちろんです」


 カウンター越しに、店の主人が優しく微笑んでいた。


「よかった。なあ、ミリアまた来よう……」


 ミリアの方を振り向くと、カウンターに突っ伏して寝息を立てていた。


「親父さん、お勘定を。こいつを連れて帰るよ」


「ああ、いいよ。お前らの初デート記念だ。俺が出しておく」


「悪いな」


 ザックの言葉に甘えて、ミリアをおぶって外に出た。

 外は静かで、酒場の中から声が漏れ出す音だけが聞こえる。


 静かな夜だ。

 背中で寝息を立てる、ミリアの体は柔らかくて小さかった。


 こいつが、リライアンスの希望なんだ。

 そんなことを考えながら、砦へ向かって歩きはじめた。


 砦に灯った明かりが、決戦の近さを静かに物語っていた。

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