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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第三章 リライアンス統一戦役

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ミリアの覚悟

「リライアンスが挙兵の準備を始めたようです」


 ジャイルズが入ってきて、ウィングゲート公爵に告げた。


「ほう、数は?」


「今のところ、およそ千二百」


 それを聞いたウィングゲート公爵は、ニヤリと口角を上げて頷いた。


「どれくらいの数になりそうだ?」


 ジャイルズが目を伏せて、少し考える仕草を見せる。


 この男は、すでに答えが出ているものでも簡単には見せない。

 優秀すぎる者は、いつか公爵に排除される。そんな先例を何度も見てきたからだ。


「最終的に二千といったところでしょうか」


「取るに足りんな」


 そう言って、ウィングゲート公爵は立ち上がった。


「イライザの寄越した情報を利用しよう。黒炎の魔女が無力化する日、一気にロウルを攻め落とす」


「はっ」


 ウィングゲート公爵の視線の先には、リライアの未来が映っていた。


◇ ◇ ◇


 兵たちの訓練が続く中、エギルも文官たちと物資集めに忙しそうだ。

 俺は物資調達の決済のため、書類に目を通していた。


「これは……?」


 一つ気になる点があり、他の書類と見比べていると、エギルが入ってきた。


「おや? いかがされましたか?」


「エギル……これなんだが」


 目を通していた書類をエギルに見せ、気になったところを指差す。


「保存食などの食料がかなり高くなっているんだが?」


 エギルは書類に目を落とし、「ふむ」と少し目を細めた。


「ええ、食料は兵站の要ですから。多めに確保しています」


「それはなんとなくわかるが、それにしても支払う額が多くないか?

 市場などで購入する額の倍近く払っていることになるぞ?」


 それを聞いて、エギルはにっこり微笑んだ。


「しっかりと書類に目を通していただき、ありがとうございます」


「理由を聞いていいか?」


「ええ、もちろん。これだけの食料を一気に仕入れるのです。

 住民たちの食卓に、少なからず影響が出るでしょう」


 まあ、確かにそうかもしれない。


「これからも防衛は続いていきます。

 挙兵のたびに食料を買い上げられていれば、民の心情がどのように動くか想像に難くありません」


 なるほど。そこで、いつもの倍近くの対価を得ることができれば……。


「わかった」


 そう言って、俺は書類にサインをした。


 仕事が一区切りしたので、ミリアの様子を見に行った。


 ミリアは広間で、婆さんの残した魔力を操る練習法を黙々と続けていた。


 こいつのこういうところは尊敬に値する。

 ただひたすらに反復するだけ。普通なら投げ出してしまいそうな回数を、淡々と続けていく。


「なによ?」


 こちらに目もくれず、俺の気配を察知したのか、いつも通り声をかけてきた。


「俺ってよくわかったな? 俺じゃなかったらどうするんだ?」


 少し口を尖らせたミリアの頬は、心なしか赤く染まっているように見えた。


「わかるわよ……マックスなんだから」


「お、おう……そうか」


 少しの沈黙のあと、突然ミリアの手元がバチッと弾けるような音を立てた。


「あっ!」


「どうした?」


 ミリアがゆっくりと、恨めしそうな目でこちらを振り向いた。


「あんたが変なこと言うから、失敗しちゃったじゃない!」


 え? それ俺のせいなの……?


「あ、ああ……悪かったよ」


 勢いに押されて謝ってしまった。


「べ、別に謝るほどのことじゃ……」


 ミリアは小さく呼吸を整える。


「どうだ? 進んでるのか?」


 今度は目をキラキラさせて、こっちを向いた。


「まかせといて! 驚かせてあげるんだから」


 その瞳を見て、俺は頼もしく感じた。


 窓から入る日差しが、広間をオレンジ色に染めていく。

 もうすぐ今日も終わる。


 ミリアの魔力が枯渇する日まで、残り十日。

 開戦に向けて、準備は順調に整っていた。


「なあミリア、もう怖くないか?」


 その質問にミリアは少し俯いた。


「怖いのは無くならないわ」


 その手が、少し震えている。


 たくさんの命を奪う役割だ。

 俺はミリアに酷いことをさせている。


「でもね……」


 でも?


「みんながいなくなるのは、もっと怖い」


 そう言って、俺を見上げた瞳には涙が溜まっていた。


 仲間の死を超えてきた決意が、そこにある。


「だから、私のやるべきことをやる」


 その横顔からは、もう迷いは消えていた。

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