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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第三章 リライアンス統一戦役

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動き出す戦局

「お館様、イライザから報告が入りました」


 窓の外に広がる領地を見下ろしていた男に、後ろから声がかかった。


 男は振り向かずに答えた。


「ジャイルズか、話せ」


 ジャイルズと呼ばれた背の高い男は、頭を下げたまま話し始める。


「はっ、黒炎の魔女について新しい情報を得たようです」


 その言葉を聞いて男は振り向いた。


「ほお、それは聞くに値する情報だろうな」


 立派な口髭をたくわえた男の口角が上がる。


「はい、黒炎の魔女に弱点がございました」


「弱点……?」


 男が眉間に皺を寄せて、ジャイルズを睨んだ。


「ええ、イライザによると……」


 話を聞き終えた男が、肩を震わせて低く笑った。


「黒炎の魔女がいなければ、リライアンスなど恐るるに足りん。奴らを攻め滅ぼして、このレイ・ウィングゲートが新しい国の王となろう!」


 両手を広げ、宣言するレイ・ウィングゲートを、ジャイルズが静かに見つめていた。


 その口角が、わずかに上がる。


◇ ◇ ◇


 リライアへの帰り道、ミリアと並んで馬車に揺られていた。

 行きとは違い、向かいの席にエギルとソフィアが座っている。


「ねえ、マックス」


 いつもの自信満々な声とは違ったトーンでミリアが話しかけてきた。


「ん? なんだよ?」


 言っていいのか少し悩んでから、ミリアが続けた。


「勝てるわよね?」


「らしくないじゃないか」


 そう言ってミリアを見ると、落としていた視線を俺へと向けた。


「だって、一万よ? 一万も攻めてくるのよ」


「何もお前一人で相手しろって言ってないだろ?」


 少し頬を膨らませたミリアが、ぷいっと前を見た。


「わかってるわよ……そんなこと」


「こちらも兵は集めるし、作戦も立てている」


 二人の会話を見ていたエギルが、頬を緩めた。


「そうですよ、ミリアさん。負けるような戦いはしませんよ」


「まあ、エギルが言うなら……そうかもしれないわね」


 いや、俺を信用しろよ……。

 心の中で不満を呟きながらも、作戦の確認を始めた。


「ベネディクトにあれは渡したのか?」


「ええ、十分な数を渡してあります」


 エギルの表情が穏やかなままなので、問題ないと判断した。


「ソフィア、あれの用意はできてるか?」


「ええ、マスター。器は既に二百ほど……戻ったら全てに魔力を付与します」


 それなら、間に合いそうだな。


「アスペンはどうだ?」


「アスペンさんも、既に兵を選出して訓練を始めたようですよ」


 ソフィアの目に確かな自信を感じる。

 間違いない、順調に進んでいる。


「ですので……マスター」


 ソフィアの声色が変わった。

 何かもじもじして、視線が定まらない。


「エギルに同衾するように命じていただけませんか?」


 ブッと吹き出してしまった。

 ソフィアの隣でエギルが頭を抱えている。


「そういうの、命令とかじゃ意味ないだろ?」


 そう言うとソフィアは唇を尖らせた。


「だってぇ……」


「なんだこれ……」


 思わず呟いた俺を見て、


「申し訳ございません……」


 エギルが申し訳なさそうに頭を下げた。


 数日後、リライアに着いた。

 出迎えを受け、そのまま守護者の間に入る。


「今から、リライアンスはウィングゲートとの戦争に突入する」


 その言葉に、リライアンス幹部や文官たちは様々な反応を見せる。


「しばらくは挙兵の準備。その後、ロウルへ向かう」


「決戦はロウルか」


 そう言ってザックが口角を上げた。


「ロウルに向かう途中、サントバールでエドマンド率いる冒険者部隊と合流する」


 見回すと、ガイ、クリス、シーザーの三人は視線を落としていた。

 何か言いたげだった。


「ガイ、何かあるか?」


「いえ……冒険者が戦争で役に立つのかと」


 ガイは俺と視線を合わせない。

 元冒険者の俺に言いにくいだろうに……。


 それでも具申したのは、この国を想ってのことだろう。


「そうだな。なので冒険者には後方支援を頼もうと考えている」


「後方支援ですか……」


 それならばという気持ちと、金を払ってまで必要なのかという困惑が、ガイの表情を複雑にしていた。


「いいか、ガイ。今回の戦争にサントバールが参加したという事実が肝要なんだよ」


 その言葉にシーザーがガバッと頭を起こした。


「それは……東に対してということですか?」


「そうだ」


 シーザーは頬を緩め、その視線をエギルに一度向けてからこちらを見た。


「かしこまりました。マスター」


 シーザーが頭を下げるのを見て、ガイもそれにならった。


 ミリアの魔力が枯渇してしまう日まで、あと二十六日。


 リライアでの挙兵準備が始まった。

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