敵か、味方か
「アナターッ!」
悲鳴のような声が広間に響いた。
「リリーッ!」
ジャックの目が大きく見開かれる。
その体は小刻みに震えていた。
二人は駆け寄って抱きしめ合う。
まあ、感動の再会ってやつだな。
他の二人の捕虜たちも、それを見て微笑んでいた。
地下牢の扉を開けて出るように言った時、三人の目からは生気がなくなっていた。
捕虜の一人がぽつりと、
「私らは……死刑ですか?」
青ざめた顔でそう聞いてきた。
「いや? 自由にするつもりだけど?」
そう答えても、三人は信じようとせず、この世の終わりに向かうように足取りは重かった。
しかし、今目の前でジャックはリリーと涙を流して抱き合っている。
同僚たちも、ついに泣き出してしまった。
近づくと、ジャックは信じられない顔をして俺を見つめた。
「なぜ……」
まだ腕の火傷が痛々しいジャックは――
それでも、今見ているものが夢でないことを確かめるように、じっと俺の目を見つめていた。
「偵察を送り込んだのさ。ルーナはいるか?」
ルーナがハイディングを解いた。
「はい、マスター」
「彼らに、リリーを連れてきた状況を説明してくれないか?」
ルーナは顔を上げると、ジャックを見て話し始めた。
「ジャックさん、あなたはもう死んだことになっていました」
「そりゃ……あの炎に焼かれれば……」
ミリアが俺の袖をギュッとつまんだ。
「いえ、隊の全滅はまだウィングゲート領に伝わっていません」
「待ってくれ、それじゃあ一体……」
ジャックは眉間に皺を寄せ、視線をルーナとリリーの間に行き来させた。
「トビー・ブルという役人をご存知ですか?」
「あ……ああ、ブル家の長男だろ? 嫌な役人さ」
リリーが頭を垂れる。
「彼があなたを死んだことにしていました」
「はぁ? トビーが? 何でそんなこと」
両手を広げて、ルーナに詰め寄ろうとする。
「彼は奥様に言い寄ろうと画策したようです」
ジャックの動きが止まる。
ゆっくりリリーの方へ振り向いた。
「まだ、トビーからは何も言われてなかった」
リリーのその答えを聞いて、ジャックは肩を撫で下ろした。
「そうか……じゃあなぜ、この人に着いてきた?」
「あなたが死んだと言われて、私も死んでしまおうかと思ってたのよ?」
リリーの必死に訴える顔を見て、ジャックの顔が凍りついた。
「でも、ルーナさんがあなたは生きているって教えてくれた。そんなの、着いて行くしかないじゃない」
リリーの目尻に溜まっていた涙が溢れる。
ジャックがリリーを強く抱きしめた。
彼はそのままこちらを振り向くと、
「本当にありがとうございます。何とお礼を言えばいいのか……言葉にもなりません」
そう言って、深く頭を下げた。
「これからどうする? 国に帰るのは危険だと思うが?」
ジャックの顔に影が差し、その背中にリリーが手を当てる。
俺には、彼女がジャックを支えているように見えた。
「お願いがあります。信都リライアへ連れて行ってもらえませんか?」
ジャックの目は真っ直ぐだった。
「構わないさ。ただ、その火傷での移動は辛いぞ?」
「そんなこと、リリーを危険な目に遭わせることに比べれば些細なことです」
即答だった。
「わかった、いいだろう。俺たちはこれからリライアへ帰還する。その馬車に乗れ」
「ありがとうございます」
他の捕虜二人が心配そうな顔で近づいてきた。
「あの……私らはどうなるんで?」
ベネディクトを見ると、微笑んでから頷いた。
「君たちはロウル・ブルグで療養すればいい。療養中は客人として迎える」
一人がおずおずと前に進み出て、
「療養後は……どうなりますか?」
そう尋ねる目には、恐怖が浮かんでいた。
「好きにすればいい。ウィングゲートに戻るか、ここに残るかは自分で考え、そして選べ」
捕虜の二人は目を合わせた。
「ただし」
捕虜たちの肩がピクンと上がり、こちらを見る。
「ウィングゲートに戻った場合、戦場では敵同士だ」
「は、はい」
二人は声を揃えてそう答えると、深く頭を下げた。
翌日、俺たちはロウル・ブルグを発った。
リライアに戻り、兵を挙げるために。
ミリアの魔力が枯渇してしまう日まで、あと二十九日。
それまでに準備を終わらせなければならない。




