白霧の街ロウル・ブルグ
「では、本題に入りましょうか」
先程まで、にこやかだったエドマンドの顔が引き締まった。
「エギルの使者が来たと思うが……」
「ロウルですね?」
俺が頷くと、横にいたエギルが話し始めた。
「ロウルの地は北の要所となります。是非こちらの陣営に加えたいのです」
「領主のベネディクトは頭の回る人だから、話は聞いてくれると思いますが」
だが、それでは足りない。
「確実に、こちらの陣営に加えるためにエドマンドに同行してもらいたい」
エドマンドの目を真っ直ぐ見て、そう言った。
「かしこまりました。私でよければ同行させていただきます。マスター」
エドマンドはそう言って深く頭を下げた。
「では、よろしく頼む。ミリア、行こうか」
そう言って、俺とミリアが立ち上がるとエドマンドが目を丸くした。
「あの、どちらへ?」
「いや、ギルドホームに寄って行こうと思ってな」
エドマンドの視線が一瞬宙を彷徨い、
「ああ、駐在所ですか」
そう言って、手を鳴らした。
「なによ? 駐在所って?」
「いや、あなた方のギルドホームはグロック駐在官が駐在所として利用されてますので、今はそう呼ばれてますよ」
エドマンドの視線がミリアに移る。
「駐在所……そこで何してんの?」
「主にギルド本部会議用の資料作りや、リライアへの報告書作りですね」
そうか、こちらとエドマンドをしっかり繋ごうとしてくれてるんだな。
「中は凄惨な状況でしたので、ギルド本部からも応援を出して改築させていただいてます」
「そうか、すまないな」
俺とミリア、それからクリスがグロックとニーナに続いて駐在所に向かった。
エギルは残ってエドマンドと打ち合わせをしている。
ソフィアはまあ、エギルに引っ付いたままだった。
ギルドホームに着いて驚いた。
壊された門はしっかりした構えに作り直されていて、内装も豪華になっていた。
キャッシュの血で濡れていたあのフロアも、綺麗に改装されていて、惨劇のあとは見当たらなかった。
「これは……すごいな」
「エドマンド本部長の計らいで、改装していただいたんです」
そう言ったニーナの瞳は、どこか遠くを見ていた。
内装が綺麗になっても、あの惨劇は記憶として残る。
その瞳が今を見つめられるようになるのは、もう少し後のことになるかもしれない。
「ここが、執務室なんです」
中央に立派な机が用意されていて、駐在官の名札が立てられていた。
「へえ、いい部屋じゃないか」
そう言ってグロックを見ると、どこか誇らしげな表情をしていた。
この二人も頑張ってくれている。
もっと努力して、暮らしやすい国にしていかなければならない……。
俺は改めて、自分の仕事の重要さを確認した。
守るべきものは、確実に増えている。
駐在所を出てギルド本部前で馬車に乗る。
エドマンドも別の馬車に乗り込み、行列はロウルに向けて出発した。
「ニーナ、まだ元気なかったわね」
「うん、今はグロックがいる。きっと前を向いてくれるよ」
そう言うと、ミリアは俺の肩に頭を預けて、少し肩を震わせていた。
そこからの旅は、順調に進んだ。
まあ、この行列を襲おうなんて盗賊はいないし、魔物だって避けるだろう。
途中の町で夜を明かし、走り続けるとロウル領の都市ロウル・ブルグに着いた。
ロウル・ブルグは白霧の街と呼ばれるほど、濃い霧に包まれていた。
そのためか、道が綺麗に整備されていた。
建物は長方形のものが多く、どこか無骨なイメージがある。
先に到着したクリスが話をつけてくれていたので、ロウル・ブルグにはすんなり入れた。
街の中央、領主の住む砦の門の前で馬車が止まる。
クリスが門番に話をつけると、門の中に入れてもらえた。
馬車を降りると、紺のワンピースを着た綺麗な女性が出迎えてくれた……。
……いや、これは――。
「お待ちしてました、マスター」
顔を上げた女性を見て驚いた。
「ルーナ、全然イメージが違って驚いたよ」
「本当ですか?」
そう言ったルーナは、少し頬を染めていた。




