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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第三章 リライアンス統一戦役

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凱旋のサントバール

 揺れる馬車の中で、二人とも前を向いて固まっていた。


「何か言いなさいよ……」


 隣に座ったミリアが、膝の上に手を置いて、ローブを少し握っている。


「何だか……久しぶりのサントバールだよな」


「え、ええ。そうね、そうだわ」


「ギルドホームにも、寄ってみるか?」


 そう言ってミリアを見ると、まだ赤いままの頬でくしゃっと笑った。


「グロックとニーナに会えるわね」


「ああ、ミリアはニーナとも仲良かったもんな」


 ミリアはあごに手を当てて、考えているポーズをとった。


「ミーナも連れてくれば良かったかしら?」


「そうだな、今度はそうしよう」


 その時、馬車が石を跳ねて揺れる。

 キャッと声を上げて、ミリアが俺にしがみついた。


「大丈夫か?」


 しがみついたミリアが顔を上げると、至近距離で目と目が合った。


「だ、大丈夫。揺れがひどいから……少しだけこのまま」


「お、おう。まあ揺れがひどいからな」


「う、うん」


 揺れがマシになるまで、俺たちの心拍数は上がりっぱなしだった。


 やがて、馬車の窓が見慣れた風景に変わる。

 しがみついたまま、離れられなくなっているミリアを支えながら、それを眺めていた。


「そ、そろそろ大丈夫。起こしてくれる?」


 首まで赤くなったミリアが、目を潤ませて下から睨んでいた。


「おお、そうだな……」


 ミリアの体を起こしてから、喉の渇きを覚えたので、水筒に入った水を飲んだ。


「私もほしい」


 ミリアはまだ少し赤かったけど、水欲しさのおかげか自然な感じで手を伸ばしてきた。


「ほらよ、一気にたくさん飲むなよ?」


「わかってるわよ……アンタも細かいやつね」


 悪態をついてはいるが、何だか二人で田舎を出た時に戻ったみたいで自然に笑えていた。


 馬車が止まった。

 サントバールの門に着いたんだろう。


「ねえ、ちょっと見てみましょうよ」


 ミリアがイタズラっぽく笑ってみせたので、御者との連絡用の窓を開けて覗いた。


 俺たちの前には騎兵五十騎が整列しており、一番前の騎兵が門番と話しているようだ。


 ちょっと遠いけど、俺たちが初めてサントバールに来たときと同様に列が出来ている。

 しかしこちらの行列を見て慌てた門番が話しかけてきたのだろう。


「あ、あの門番」


「ギルド本部の場所教えてくれた人ね」


 血相を変えて騎兵に頭を下げながらやり取りをしている門番を見て、なんだか気の毒になってきた。


 窓を少し開けて、併走しているクリスに話しかけた。


「クリスが行って話をつけてくれるか? あの門番は顔見知りなんだ」


「そうでしたか、すぐに行ってまいります」


 クリスが列から駆け出して門番のところに向かった。

 遠いから何を言ってるのかはわからないが、クリスが到着すると門番の顔色が変わった。


 まあ、レグナートじゃ有名人だもんな。


 頭を下げる門番に頭を上げるように言ってるんだろうと思う。

 クリスが何か耳元で言うと、門番は不思議そうな顔をして手を振っている。


 その後、すぐに門が開いた。


 門をくぐるとき、俺とミリアが窓から顔を出して門番に手を振る。

 門番は目を見開いて、プルプル震える指で俺たちを指差した。


 同僚の門番らしき人が、指を差していることに気づいて、慌てて手を下ろさせた。


 それを見てミリアが声を上げて笑っている。

 何だか帰ってきたなと、ミリアの横顔を見ながら感じていた。


 街に入ると、人々は道を開けて頭を下げる。

 俺とミリアは思わず窓を閉めて、隠れるように窓から離れた。


 なんてことはない。ただ、恥ずかしかったのだ。

 きっと、ギルドだったときに知り合った人とか顔見知りもいるだろう。


 そろっと窓を覗こうとしたとき、ミリアと目が合って互いの表情を見て笑い合った。


 行列はギルド本部近くの広場で馬を止めていった。


 馬車はギルド本部前で止まった。

 扉が開いて、グロックとニーナ、エドマンドが出てきた。


「お待ちしておりました、マスター」


 グロックがそう言って馬車の扉に手をかける。

 扉が開かれて、俺はミリアの手を引いて馬車から降りた。


 エドマンドが前に出て、深く頭を下げる。


「お待ちしておりました。さあ、中へ」


「ああ、エドマンド。出迎えありがとう」


 エドマンドに続いてギルド本部に入る。

 後ろから他のメンバーも続いた。


 中に入ると、いつもなら騒がしい広場が静まり返っていた。

 いや、正確にはヒソヒソと話す声が耳に入る。

 どうやらリライアンスの凱旋に、戸惑っているようだ。


「あっ!」


 声が上がった方を見ると、よくお世話になっていた受付のお姉さんが口を押さえて目を見開いていた。


「申し訳ございません、リリーナにはよく言い聞かせますので」


 その様子を見たエドマンドが、慌てて謝罪をする。


「おお、彼女の名前はリリーナというのか」


「それが……何か?」


 エドマンドに手招きをして、耳を借りる。


「リリーナさんにはギルド時代に世話になったから、お礼が言いたいんだ」


「それでしたら、後で貴賓室にお連れしますよ」


 迫力のあるエドマンドの目が、ふっと優しくなった。


 貴賓室に通されると、俺とミリアは並んでソファに座った。

 リライアンスのメンバーも長いソファに三人ずつ腰掛けた。


 エドマンドがリリーナさんを連れて入ってきた。


「お待たせしました、お飲み物をご用意させていただきました」


 その後ろから、飲み物が運ばれてくる。

 リリーナさんが、恐る恐るといった様子で俺たちに近づいてきた。


「やあ、お久しぶりです」


「マックスさん……」


 リリーナさんの肩が小刻みに震えている。

 そして、瞳から涙が溢れた。


「お二人とも……よくぞご無事で」


「あらら、心配させちゃった?」


 ミリアがわざと明るい声で返す。


「しますよ! レグナリスに攻め込むなんて、もう会えないと思ってましたよ」


 リリーナさんはハンカチで涙を拭いながら、泣き笑い顔でそう言った。

 ミリアも目を潤ませながら、そっとリリーナさんに抱きついた。


 その光景を見て、俺たちはようやく――凱旋を実感した。

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