第62話:北西の聖域とおっとりお姉さんの『お掃除』
東の港町で「白米」という魂の救済を得たタケル。
次に向かうは、六芒星の北西の頂点。
そこには、長女・レミが司る、清らかな水と祈りに満ちた『宗教都市』が広がっていました。
しかし、そこへ聖法皇国の「処刑人」たちが、逃げ出した聖女エリラを連れ戻すべく大軍で押し寄せます。
おっとりお姉さんの慈愛(と、怒らせた時の恐ろしさ)が炸裂します。
「あらあら……皆様、そんなに怖い顔をしてどうされたんですか~?」 連邦国の北西端、聖法皇国エクレシアと国境を接する『宗教都市』。
その清廉な正門前で、長女のレミは真っ白なエプロンドレスを揺らし、おっとりと首を傾げていた 。
豊かな胸元を揺らしながら微笑む彼女の背後では 、保護された聖女エリラと商人アリアが、押し寄せる白銀の軍勢を前に身を寄せ合っている 。「黙れ、異形の娘! 聖女エリラをたぶらかし、この北西の地に偽りの聖域を築くとは万死に値する! これより神罰の名において、貴様らもろとも浄化してくれるわ!」 門前に集まったのは、皇国が誇る『聖騎士団』五百名。
その中央には、数々の亜人を屠ってきた異端審問官「処刑人」たちが、どす黒い殺気を放ちながら処刑具を構えていた 。「うふふ、浄化だなんて……。ここはお父様……タケル様が作ってくださった、とっても綺麗なお庭なんですよ? 汚しちゃうのは、良くないと思います~」 レミは困ったように眉を下げると、優雅に両手を広げた 。
彼女の背中からは、アラクネの象徴である銀色の蜘蛛脚が、まるで後光のように美しく展開される 。「レミ! 待たせたな」空から最新鋭の魔導飛行船がゆっくりと降下し、タケルと紅が姿を現した。 タケルは甲板から身を乗り出し、眼下の殺伐とした光景を見て苦笑いする。「パパ! ちょうど良かったです~。この方たち、とっても元気すぎて、お掃除の邪魔になっちゃいそうなんです~」「……レミ、あんまり派手にやるなよ? ここは北西の重要なアンカーなんだからな」「はい、分かっています~。……皆様、遠くから来てお疲れでしょうから、少しだけ『おやすみなさい』してくださいね~」 レミが優しく微笑み、指先から透き通るような糸を宙に放った 。
次の瞬間、街の至る所にある噴水から膨大な水が舞い上がり、タケルの『浄化の煙』と混ざり合って、北西の空を覆う柔らかな霧へと変わる 。「《聖域変調》――『慈愛のゆりかご』」それは攻撃ですらなかった。 霧に触れた騎士たちは、武器を構えたまま、まるで母親の腕の中にいるような安らぎに包まれ、その場に崩れるように眠りに落ちていった。「な、なんだ……この香りは……。ああ、温かい……」「馬鹿な……処刑人の私が、抗えな……っ」 最強を誇った審問官たちまでもが、レミの放つ圧倒的な「包容力」と安らぎの煙に抗えず、赤子のように深い眠りへと落ちていった。
包容力がある彼女にとって、北西の国境を守るのは、朝の拭き掃除と同じくらい日常的な「お仕事」に過ぎないのだ 。「うふふ、お掃除完了です~。パパ、終わったら一緒にアールグレイのミルクティーを飲みましょうね~」レミは何事もなかったかのように微笑み、倒れ伏した騎士たちの間を優雅に歩いて、タケルのもとへ駆け寄った。「……相変わらず、お前の『慈悲』は底が知れねぇな」タケルは呆れ半分、感心半分でタバコを吹かした。 北西のアンカーはこれで無事に固定された。「よし、北西はレミに任せて正解だったな。……だが、まだ六芒星は完成しちゃいねぇ。次は北と南西だ。ラシとシド、あいつらちゃんとやってるだろうな?」タケルは飛行船の舵を切り、次なる目的地へと向かわせた。 防衛網の完成まで、あと二つ。
北西の『宗教都市』編でした!
レミの「おっとりしたまま、気づいたら全てが終わっている」という包容力抜群の制圧劇を描きました。
これで残る頂点は、北のラシと、南西のシド。
次回、苦労人の三男と無邪気な末っ子が、それぞれの個性を爆発させて侵略者を「わからせ」ます!




