第61話:エルフの賢者と、空飛ぶ教室
東の港町で「白米」という魂の救済を得たタケル。
次に向かうは、北東の六芒星の頂点。
そこには、次男・ソラが管理する、魔導飛行船のハブ拠点にして最先端の『学術都市』が広がっていました。
古くから魔法の正統な継承者を自負するエルフたちが、新興国家の「まやかしの魔法」を糾弾しにやってきますが……?
「――いいですか、皆台詞(生徒たち)。魔法とは『願う』ものではありません。『計算』するものです」 北東の防衛拠点、学術都市。
その中心にそびえる大講堂では、次男のソラが教壇に立ち、にこやかな笑顔で黒板に数式を書き殴っていた。
彼が教えているのは、魔法の発動を「流体力学」と「熱力学」で制御する、タケル直伝(?)の現代科学的アプローチだ。「馬鹿馬鹿しい! 精霊との対話を数式で汚すとは、これだから人間は!」講堂の扉を乱暴に開き、数人の老人が雪崩れ込んできた。 尖った耳、豪奢な杖、そして全身から溢れる膨大な魔力。北東の秘境『アル・リーフ』からやってきたエルフの賢者たちだ。「ソラ殿と言ったか。貴殿が広めている『科学』とやらは、精霊への冒涜だ。魔法とは血筋と才能、そして悠久の時を経て精霊と心を通わせるもの。昨日今日できた小国が、飛行船などという異端の機械で空を汚すなど、断じて許せん!」 賢者の長が杖を鳴らすと、講堂内の空気がパチパチと静電気を帯びる。
だが、ソラは細い目を開けることなく、優雅に肩をすくめた。 「おやおや、お客様ですか。……でも困りましたね。エルフの皆様が数千年もかかってようやく一人飛ばせる高度を、うちの飛行船は昨日、お酒を飲んで寝ていたドワーフの親方が鼻歌混じりに超えてしまいましたよ?」
「なっ……! 貴様、我らエルフの飛行魔法を愚弄するか!」
「事実を言ったまでです。……パパ、ちょうどいいところに」 ソラが視線を向けた先。
講堂の最後列で、紅を肩車しながら退屈そうにタバコを吹かしていた俺に、ソラが手を振った。 「パパ、このおじいさんたち、僕たちの飛行船は『まやかし』だって言うんだ。……ちょっと、本物を見せてあげてもいいかな?」
「ん……ああ、構わねぇよ。ちょうど結界のアンカーも打ち終わったしな。……紅、お前も行くか?」
「ぬぅ、学問など退屈じゃ。……だが、あのエルフ共の鼻を明かすというなら、見物してやらんでもないぞ」 ***「――これが、我々の『教室』ですよ」ソラが案内したのは、地上ではなく、港のドックに係留された最新鋭の大型魔導飛行船の甲板だった。 エルフの賢者たちは鼻で笑いながら乗り込む。「ふん、こんな鉄と木屑の塊、我らが本気で風を操れば一瞬で墜落――」 言いかけた賢者の言葉は、ソラが指をパチンと鳴らした瞬間に消失した。
ドワーフ特製の魔導炉が低音を響かせ、シルヴィの銀糸で補強された気嚢が、物理法則を無視した加速で空を駆け上がったのだ。 「なっ……!? 無詠唱でこの上昇負荷だと!? 重力制御の魔法陣が……書き込まれていないだと!?」「魔法陣? いえ、これはただの『浮力』と『推力』ですよ」 ソラは風に髪をなびかせ、眼下に広がるエルフの秘境を見下ろした。
飛行船は、エルフの精鋭魔導師たちが結界で守っているはずの「絶対不可侵高度」を、何事もなかったかのように突き抜けていく。「パパ、お願いします」
「よっしゃ。……《煙霧変調》・『成層圏の静寂』」 俺がタバコの煙を飛行船全体に纏わせる。
気圧の変化や冷気を無効化された船体は、エルフたちが「神の領域」と崇める高高度へと到達した。
そこから見えるのは、丸みを帯びた水平線と、群青色の空。「…………ああ……」杖を落とし、賢者たちは膝をついた。 彼らが数千年の歴史の中で、ただの一人も辿り着けなかった「空の真実」が、そこにあった。「エルフの皆様。魔法は尊いものですが、それは世界を理解するための『道具』に過ぎません。……僕たちの学術都市では、この景色の理由を数式で教えています。学びたければ、いつでも門を叩いてください」 ソラの優雅な微笑みに、賢者たちはもはや反論する力もなかった。 彼らは、自分たちが「原始的な魔法」にしがみついていたことを、この空飛ぶ教室で思い知らされたのだ。「……負け、じゃ。我らの敗北だ」「この学問を、我が国の若者たちにも学ばせてほしい。……どうか、交換留学の条約を結んでいただけまいか」こうして、プライドの塊だったエルフの国も、ソラの「理系な嫌がらせ(わからせ)」によって、連邦国の学術的経済圏に組み込まれた。「よし、これで北東も安泰だな」 俺が白米のおにぎりを頬張りながら呟くと、紅がそのおにぎりを奪い取って口に運んだ。 だがその時、西の防衛拠点――長女・レミが守る『宗教都市』から、緊急の念話が届いた。 『パパ! 大変です! 聖法皇国の過激派が、エリラちゃんを連れ戻しに大軍で押し寄せてきました!!』 「……チッ、飯の邪魔ばっかりしやがって。次は西か」 タケルは再びタバコに火をつけ、飛行船の舵を西へと向けさせた。
北東の「学術都市」編でした!
ソラの「不二周助系」な物腰から繰り出される容赦ない正論が、エルフの賢者たちを完膚なきまでに叩き伏せましたね。
科学と魔法の融合。これこそがローテン・ヘイズ連邦国の真骨頂です。
そして、ついに西の聖法皇国が本気で動き出しました。
幽閉室から救い出された(はずの)ポンコツ聖女エリラを巡り、レミの「宗教都市」で最大の防衛戦が始まります!
次回、【第62話:慈愛の聖女と、聖騎士団の蹂躙】!
お楽しみに!




