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第60話:ミファの港町と、念願の『白い宝石』

南の関所でクラウディアとユリウス王子の再会を見届けたタケル。

次に向かうは、東の六芒星の頂点。

そこには、三女・ミファが「東和の国」を迎え撃つために築き上げた、前代未聞の「アイドル港町」が広がっていました。

タケルが前世から焦がれ続けた「白い宝石」がついに姿を現します。

「……おいおい、なんだありゃ。あいつ、港町を作れとは言ったが、フェス会場を作れとは言ってねぇぞ」


魔導飛行船のゴンドラから身を乗り出し、眼下に広がる光景を見た俺は、思わずタバコを落としそうになった。

 大陸の東端。

 かつては切り立った崖と荒波しかなかったその場所に、白亜の石造りの港町が完成していた。

 だが、何より目を引くのは、港のど真ん中に鎮座する巨大な野外ライブステージだ。ドワーフ特製の魔導スピーカーが爆音を響かせ、空にはソラが調整した魔導照明が色とりどりの光を放っている。


「キュルル……。タケルの娘たちは、どいつもこいつも騒がしいのう……」


俺の膝の上で、ベニが眠そうに目を擦りながら呟いた。

 飛行船が高度を下げると、港に停泊している見慣れない「和船」の姿がはっきりと見えた。

 海を隔てた遥か東の島国――**『東和トウワ』**からやってきた船だ。


「ミファたぁぁぁぁん!! こっち向いてぇぇぇぇ!!」

「ミ・ファ! ミ・ファ! オイ! オイ!!」


ステージの前では、着物や袴を纏い、腰に刀を差したトウワのサムライや商人たちが、見たこともないキレのある動きで『オタ芸』を披露していた。

 その中心で、ピンク色のアイドル衣装に身を包んだ次女のミファが、満面の笑みでマイクを握っている。


「みんなー! 遠い海を越えて来てくれてありがとぉー! 次の曲は、パパ……じゃなかった、タケル様への愛を込めて歌っちゃうよぉー!」


熱狂の渦だ。

 血の気が多いことで知られるトウワの男たちが、ミファの歌とダンスに完全に骨抜きにされている。

 ヴァイスの「罠」や、ファソの「パイルバンカー」も怖いが、ミファの「文化侵略」が一番えげつないんじゃないかと俺は戦慄した。


***


「タケル様ぁー! 見てた!? ミファ、もうトウワのファンクラブ会員一万人突破しちゃったよ!」


ライブ後、港の領主館へ向かうと、ミファが汗を拭きながら抱きついてきた。

 その後ろからは、感動に震え、涙を流しながら平伏する一人の若きサムライが続いてくる。


「……そ、貴殿が……ミファ殿の言っておられた『父上プロデューサー』殿にござるか!」


聞けば、彼は東和の将軍家から遣わされた親善使者らしい。……が、その目は完全に重度のアイドルオタクのそれだった。


「ああ、まあ、一応な。……で、トウワの使者殿。俺の娘が世話になってるみたいだが、挨拶代わりの『品』は持ってきてくれたんだろうな?」

「もちろんにござる! 我が国が誇る、最高級の特産品を揃えております!」


俺は正直、トウワの刀や絹織物にはそこまで興味がなかった。

 だが、数名のサムライが重そうに運び込んできた木箱を見た瞬間、俺の鼻腔を「ある匂い」が突き抜けた。


――微かに甘く、どこか懐かしい、穀物の匂い。


俺は震える手で、その木箱の蓋をこじ開けた。

 そこには、精米されたばかりの、透き通るような**『白米』**がぎっしりと詰まっていた。


「……ッ、こ、これ……米か? 本物の、白米なのか……!?」

「左様。我がトウワの国で『白い宝石』と称えられる最上級の米にござる。さらには、タケル殿が自作されていた『黒い調味料』によく似た、我が国秘伝のひしおも……」


サムライが差し出した瓶。それは、俺が紫煙の能力で試行錯誤しながら作っていた「醤油(の代替品)」とは比べ物にならないほど、芳醇な大豆の香りがする『本場の醤油』だった。


「…………」


俺は無言で、その白米を両手ですくい上げた。

 転生してから数年。魔物の肉やパン、パスタも美味かった。だが、俺の魂が求めていたのは、いつだってこれだった。


「ミファ、釜を持ってこい! ガルドに作らせたミスリル製の羽釜だ! 今すぐ、これ(米)を炊くぞ!!」

「わわっ、パパ、目が怖いよぉ! すぐ準備するね!」


***


三十分後。

 領主館の食堂には、炊き立てのご飯が放つ、甘やかな香りが満ちていた。

 真っ白な湯気を立てる茶碗。その隣には、港で獲れたばかりの新鮮な魚を、ミスリル包丁で極薄に捌いた刺身。そして本場の醤油。


「いただきます……」


俺は震える箸で、山盛りの白米を口に放り込んだ。


「…………ッ!!」


噛みしめるたびに、米の甘みが爆発する。

 鼻に抜ける香ばしい匂い。絶妙な粘り気。

 醤油をつけた刺身を追いかけ、再び米を掻き込む。


「……うめぇ……うめぇよ……っ!!」


涙が止まらなかった。

 ブラック企業の残業帰り、コンビニのおにぎりを頬張っていたあの頃の自分に見せてやりたい。

 俺は今、異世界の果てで、最高の米を食っているぞ。


「タ、タケル殿!? ただの米を食べて、なぜこれほどまでに……!?」

「うるせぇ、お前も食え! そして、この海鮮丼の感想を言え!」


俺が無理やり使者の口に、刺身と米を突っ込む。

 一口食べたサムライは、目を見開き、ガタガタと震え出した。


「な、なんという……! 我が国にもこれほど美味い飯はありませぬ! 米の甘みが、魚の旨味が、タケル殿の魔力と混ざり合って、魂が震えるようだぁぁぁ!!」


使者はそのまま、天を仰いで気絶した。

 トウワの食材と、俺の国の技術(ミスリル包丁と浄化の煙)が合わさった時、それは現地の食文化を遥かに超える「究極の和食」へと進化したのだ。


「いいか、トウワの。……この国との独占交易を認めてやる。その代わり、米と醤油は定期的に、山ほど持ってこい」

「ははっ! 将軍閣下には、ミファ殿の追加公演と引き換えに、米の蔵をすべて差し出すよう奏上いたしまする!!」


こうして、大陸の東端に位置する『ローテン・ヘイズ連邦国』は、血を流すこともなく、アイドルの歌声と一杯の海鮮丼で、海を越えた大国・東和を経済圏に引き摺り込んだ。


タケルが腹一杯の白米を頬張り、幸せな溜息をついたその頃。

 北東の学術都市では、次男・ソラが『エルフの秘境』からやってきた気難しい賢者たちを、現代物理学で「わからせ」ようとしていた。

ついに! タケルが念願の「白米」を手に入れました!

ミファのアイドル力と、白米の魔力(とタケルの執念)が、東和の国を完全に骨抜きにしましたね。


これでタケルの食卓は完全体となりました。

しかし、世界は休ませてくれません。

次回、北東の空から、プライドの高い「エルフの賢者」たちが、ソラの学術都市に喧嘩を売りにやってきます!


お楽しみに!

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