第59話:愚王の暴走と、弟王子の決意(激震の世界②)
前回、レオンとアリアによって「ローテン・ヘイズ連邦国」のヤバすぎる技術力と古龍の噂が、北の帝国と西の皇国をパニックに陥れました。
今回は、南の『オーレリア王国』のターンです。
森の偵察から命からがら逃げ帰った三人の隠密部隊が、ついに王都で報告を行います。しかし、そこには「最悪の新王」が君臨していて……?
――南の豊かな穀倉地帯を領する、オーレリア王国。
豪奢な王城の謁見の間には、第一王子から新たに王位を継いだばかりの『新王』の怒号が響き渡っていた。
「たかが魔の森の集落ごときで、我が精鋭の隠密部隊が三人も尻尾を巻いて逃げ帰ってきただと!? 恥を知れ!!」
ガシャンッ! と、新王が投げつけたワイングラスが床で砕け散る。
玉座の前で平伏している三人の隠密部隊は、ガタガタと震えながら必死に報告を続けた。
「へ、陛下! どうか信じてください! 森の奥には、我々の王城など赤子に見えるほどの『白亜の巨城』がそびえ立ち、魔石の灯りが輝く近代都市が築かれていたのです!」
「そうだ! さらに奴らは、森の出口を塞ぐように『六つの巨大な防衛都市』まで建造し始めております! あの軍師の恐ろしい魔眼……我々の国力では、到底太刀打ちできません!」
「黙れ黙れ黙れぇっ!!」
新王は顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。
自身の王としての威厳を、どこの馬の骨とも知れない森の魔物どもに脅かされていることが許せないのだ。
「そんなおとぎ話があるか! ただのオークやゴブリンの群れだろうが!」
「ひっ……! も、もう一つ、ご報告が! 我々は都市の奥でチラリと見たのです……! 死んだはずの**『クラウディア王女』によく似た金髪の女騎士**が、楽しそうに笑っている姿を……!」
その言葉が出た瞬間、謁見の間の空気が凍りついた。
「……なんだと?」
新王の顔が、怒りから醜い憎悪へと歪む。
クラウディア。かつて国民からの人望を一身に集め、自身の王位継承の最大の邪魔だった腹違いの妹。彼女を『古龍討伐』という名の死地へ追いやったのは、他でもないこの新王自身だった。
「生き延びて、魔物と結託して国を作ったというのか……あの目障りな女め! 我が王座を奪いに来る気だな!」
新王は血走った目で立ち上がり、玉座の横に控える将軍たちに向かって叫んだ。
「ええい、すぐに出兵の準備をしろ! 王国の全軍をもって、そのふざけた森の城ごと、あの忌々しい女の首を刎ねてこい!!」
「お、お待ちください、兄上!!」
その狂気の沙汰を止めるべく、列席していた一人の青年が前に出た。
新王の弟にして、クラウディアの同母弟でもある**『第三王子・ユリウス』**だ。
「北の帝国と西の皇国の商人たちから、恐ろしい噂が入ってきています。あの森には古龍の庇護を受けた『ローテン・ヘイズ連邦国』という超技術国家が建国されたと……! 今、軍を動かせば、我が王国は文字通り灰にされます!!」
「ええい、五月蝿いぞユリウス! お前もあの女の味方をするか! ならばお前も反逆罪で――」
「兄上ッ!! 国を、民を滅ぼすおつもりですか!!」
ユリウスの悲痛な叫びも、すでに権力と嫉妬に狂った新王の耳には届かなかった。
玉座から冷ややかな目で見下ろす愚かな兄を見て、ユリウスは静かに、そして完全に悟った。
――ああ、この兄の下では、王国は確実に滅びる、と。
***
その日の夜。
ユリウスは自身の私室に、数名の信頼できる側近と凄腕の護衛だけを集めていた。
彼は王族の煌びやかな衣装を脱ぎ捨て、地味な旅の外套を羽織っている。
「殿下……本気であの魔境へ向かわれるのですか?」
「ああ。兄上の討伐軍の編成が終わる前に、私自身がお忍びで森へ出向き、その未知の勢力に『恭順の意』を示してくる。……国を、見込みのある民を救うためには、これしか道はない」
ユリウスは腰に剣を佩き、窓の外の暗闇――北方の『禁忌の森』を真っ直ぐに見据えた。
「(姉上……クラウディア姉上が生きているというのは、本当なのか……?)」
もしそれが本当なら、彼女はこの絶望的な状況を覆す、王国にとって唯一の希望の光だ。
バカな兄を見限った優秀な弟王子は、王国を背負う悲壮な決意と、最愛の姉への僅かな希望を胸に、夜の闇に紛れて王都を脱出した。
***
――数日後。ローテン・ヘイズ連邦国、南の防衛ゲート。
「あわわわわっ!! ブドンさん、岩が、岩がズレちゃいますぅーっ! ええいっ!」
「ハッハァ! ファソ嬢ちゃん、任せとけ!!」
ユリウスたちが森の結界(シルヴィの糸)を抜け、死に物狂いで辿り着いた南のゲート――そこには、絶望的かつ、ひどくカオスな光景が広がっていた。
「な、なんだあの城壁は……!? 岩山を丸ごと削り出しているのか!?」
南の関所、通称『演武都市』。
そこでは、全身の筋肉をパンパンに膨らませたオークのブドンが、家ほどの大きさの岩石をスクワットしながら担ぎ上げている。
そしてその足元では、シルヴィの三女であるファソが、豊かな胸を揺らしながら半泣きで走り回っていた。彼女の腕には、不釣り合いなほど巨大な『蜘蛛糸駆動のパイルバンカー』が装着されている。
「ふぇぇん、また力が入りすぎちゃいましたぁ……っ!!」
ドガァァァァンッ!!
ドジっ子のファソがつまづき、暴発したパイルバンカーの杭が、巨大な岩盤を「綺麗に切り揃えられた城壁ブロック」へと一瞬で粉砕・成形してしまう。
「ひっ……! か、か弱そうな少女が、あんな恐ろしい攻城兵器を腕に……!」
「あんな城壁、王国の軍隊が何万いようと傷一つ付きませんよ……!」
側近たちが絶望で座り込む中、ユリウスは足の震えを必死に抑え、前を見据えた。
そこには、工事現場のど真ん中にパラソルを広げ、優雅に『アールグレイのミルクティー』を飲みながら紫煙を吐いている、一人の無精髭の男が座っていた。
男の背後には、ドワーフの魔導炉と蜘蛛の糸で作られた、あり得ない技術の結晶――宙に浮く『魔導飛行船』が停泊している。
「ふぅ……。結界の『基点』を作るのも一苦労だな。ソラとガルド親方に作らせた空飛ぶ船の乗り心地は悪くないが……おい紅、いつまで俺の膝で寝てるんだ」
「んむぅ……。上空は風が冷たいのじゃ……タケルの体温が一番じゃ……むにゃ」
男の膝の上では、黒いゴシックドレスを着た幼女(伝説の古龍)が、気持ちよさそうに丸まって熟睡している。
この男は、遥か遠方にある六つの都市に『魔力の結界』を張るために、試作段階の飛行船に乗って空路で視察に訪れていたのだ。
そして、その男の隣には――。
「ええいブドン殿、ファソ! 筋肉と勢いに頼りすぎです! ……こらファソ、泣かないの。タケル様が結界の基点を作ってくださったのですから、埃を立てないようにしなさい!」
図面を片手に、屈強なオークとドジっ子の娘を、呆れつつも優しい姉のような顔で叱る『金髪の女騎士』の姿があった。
「あ、あ、あぁ……」
ユリウスの目から、ボロボロと大粒の涙が溢れ出した。
王城で虐げられ、常に悲痛な顔をして死地に赴いた姉の姿はない。
そこには、タケルという絶対的な主の隣で、誰よりも生き生きと、最高に楽しそうに笑う『クラウディア』の姿があったのだ。
「姉上……っ!!」
ユリウスは剣を放り捨て、泥だらけのまま、姉のもとへ駆け出していった。
南のオーレリア王国のターンでした!
嫉妬で狂った「バカな第一王子(新王)」が討伐軍を出そうとする中、国を見限った「優秀な弟・ユリウス」がタケルの国へ到着しました。
筋肉の権化とドジっ子パイルバンカー(ファソ)が岩山を砕いて作る『演武都市(南の関所)』の絶望感と、そこでのクラウディアとの感動の再会です!
果たしてユリウスは、タケルのリゾートでどんな「オモテナシ」を受けるのか!?
次回、東の島国から「あの食材(米)」の匂いが……!?
お楽しみに!




