第58話:皇太子と聖女の驚愕(激震の世界①)
前回、タケルの中二病回避により誕生した『ローテン・ヘイズ連邦国』。
今回は、タケルの村から特産品を抱えて祖国へ帰った二人の商人、レオンとアリアのターンです。
彼らが持ち帰った「異次元の品」と「ヤバすぎる噂」が、ついに大国の上層部を物理的・精神的に揺るがします!
――北の軍事大国、ヴァルゴア帝国。
豪奢な装飾が施された第一皇太子の執務室に、大商会の三男坊であるレオンが極秘裏に招き入れられていた。
「よくぞ無事で戻った、レオン。……して、例の『禁忌の森』の調査はどうだった?」
執務机に座る金髪の青年――レオンの幼馴染であり、次期皇帝である第一皇太子が、真剣な面持ちで尋ねる。
現在、好戦的な現皇帝は、ドワーフを奪われた報復として『魔導殲滅軍』の派遣を企てている。皇太子はそれを危惧し、親友であるレオンに密偵を頼んでいたのだ。
「殿下。まずは報告より先に、こちらの品をご覧ください」
レオンは恭しく、一本の小刀と、よく冷えた木の実のジョッキを机に置いた。
ジョッキの中には、黄金色の液体――タケル特製の『極上ラガービール』が、シュワシュワと美しい泡を立てている。
「なんだこれは? 酒……か?」
「はい。まずは一口」
皇太子が訝しげにジョッキを煽る。
次の瞬間、彼の瞳が見開き、全身の毛穴がブワッと開いた。
「な、なんだこの暴力的なまでの美味さと喉越しは!? しかも、飲んだ傍から恐ろしいほど純度の高い魔力が体に満ちていく……! 宮廷の最高級ワインが泥水に思えるぞ!」
「……ええ。そしてこちらの小刀は、純度100%のミスリルで打たれた『ただの料理用包丁』です。殿下の護身用宝剣と打ち合わせてみてください」
「料理用だと? 馬鹿な。我が帝国の国宝を舐めるなよ」
皇太子が腰の宝剣を抜き、レオンが持ってきたミスリルの包丁と軽く刃を交えさせた。
――スゥンッ。
なんの抵抗もなかった。
帝国の国宝である宝剣は、まるで熱いナイフでバターを切ったかのように、音もなく真っ二つに両断され、床に転がった。
「「「…………」」」
執務室に、死のような沈黙が落ちる。
皇太子は震える手で、折れた宝剣とミスリルの包丁を交互に見比べた。
「レ、レオン……。帝国の技術を遥かに凌駕するこのオーパーツは、一体どこで……!?」
「殿下。我が帝国の武力など、あの森の前では児戯に等しいです。森の奥には、ドワーフや獣人たちを従え、この超技術を有する独立国家が建国されていました」
「ど、独立国家だと!?」
「はい。その名も――『ローテン・ヘイズ連邦国』。しかもあの国は、伝説の古龍の庇護下にあります。皇帝陛下の軍など差し向ければ、帝国ごと灰にされるでしょう」
古龍の庇護。その言葉に、皇太子の顔から完全に血の気が引いた。
もし父である皇帝が手を出せば、帝国は終わる。
「……父上の出兵は、私が派閥の全力をもって阻止する。絶対にだ」
皇太子は額の冷や汗を拭うと、机に残っていたビールを一気に飲み干した。
「ぷはぁっ! レオンよ、この酒の追加発注を頼む! そしてその『ローテン・ヘイズ』がVIP向けのリゾートを完成させた暁には……私がお忍びで視察に向かおう」
帝国の次期皇帝は、恐怖と、それ以上の「好奇心」に完全に魂を掴まれていた。
***
――同じ頃。西の宗教国家、聖法皇国エクレシア。
教会の地下深くに設けられた幽閉室では、一人の美しい少女がブツブツと呟いていた。
「ああっ、使徒様……。貴方様の吐くあの神聖な紫煙を、もう一度私に……すぅー、はぁー……」
「エリラ、相変わらず残念な状態ね……」
虚空に向かって深呼吸を繰り返す親友の『聖女エリラ』を見て、密かに忍び込んだ令嬢商人のアリアは、深々と溜息をついた。
エリラは以前、森から帰還して以来「使徒様」に心酔しすぎた結果、腐敗した教会の上層部から「魔物に洗脳された異端」として幽閉されていたのだ。
「エリラ、目を覚ましなさい! 使徒様から預かってきた『奇跡の品』を見せてあげるわ!」
アリアは風呂敷を解き、アラクネのシルヴィが織った『銀の糸のドレス』と、ドライアドのレミが作った『美容ポーション』を取り出した。
薄暗い地下室が、ドレスから放たれる神々しい光で真昼のように照らされる。
「こ、これは……! なんて純粋で高位な魔力……っ!」
エリラが目を見開いたその時だった。
「そこまでだ、アリア・バートン! 聖女に異端の品を近づけるとは、貴様も同罪だぞ!」
地下室の扉を蹴り破り、恰幅の良い腐敗司祭たちが数名の神殿騎士を連れて雪崩れ込んできた。
「ふん、その光る布も、怪しい薬も、教会が没収して浄化(私物化)してくれるわ! やっちまえ!」
司祭が杖を振り上げ、アリアに向けて強力な『拘束の光魔法』を放った。
――しかし。
パキィィィンッ!!
「「「なっ!?」」」
アリアが手に持っていた『銀の糸のドレス』が、魔法に自動反応。圧倒的な神聖力の壁を展開し、司祭の魔法をアッサリと弾き返してしまったのだ。
跳ね返った光魔法を食らい、司祭たちが無様に床へ転がる。
「ば、馬鹿な……我ら高位司祭の魔法が、ただの布切れに弾かれただと……!?」
「ただの布ではありませんわ」
アリアはドレスを誇らしげに掲げ、高らかに宣言した。
「これは、西の果てに新たに建国された**『ローテン・ヘイズ連邦国』**の国宝! 伝説の古龍の庇護を受け、本物の使徒様が起こした奇跡の証拠ですわ!」
「ろ、ローテン・ヘイズ……!?」
「ああっ! やはり使徒様は、私のために愛の国を……っ!♡」
司祭たちが震え上がる横で、エリラが両手を組んで完全にポンコツな勘違いを加速させていた。アリアは呆れつつも、司祭たちを見下ろして不敵に笑う。
「司祭様。この『奇跡の美容ポーション』と『絶対防御のドレス』……皇国の貴族令嬢たちが黙っているかしら? 私がこの品々を社交界に流せば、教会の権威など一瞬でひっくり返りますわよ」
美と若さを求める貴族令嬢の執念は、宗教の信仰心よりも遥かに恐ろしい。
アリアはこのオーバーテクノロジーの特産品を武器に、腐敗した教会を内部から乗っ取る決意を固めていた。
「待っててね、エリラ。私が教会の実権を握ったら、貴女を連れて『ローテン・ヘイズ』のリゾートへご挨拶に行くわよ!」
「はいっ! 使徒様、今すぐ参りますわぁぁぁ!」
かくして、二人の天才商人が放った「特産品」と「建国の噂」は、帝国と皇国の上層部を完全にパニックへと陥れた。
圧倒的な力の差を見せつけられた大国は、もはや『ローテン・ヘイズ連邦国』の動向から目を離すことができなくなっていた。
そしてその頃。
世界の激震などどこ吹く風のタケルの村では、周辺諸国を物理的に呑み込むための『6つのヤバすぎる関所』の建設が、爆速で進められていたのだった――。
世界激震編・第一弾!
レオンが持ち帰った「ビールと包丁(武力と食)」が帝国を圧倒し、アリアが持ち帰った「ドレスとポーション(神聖力と美)」が皇国を圧倒しました!
皇太子も聖女も、タケルのリゾートへ行く気満々です(笑)。
そして次回!
タケルの国を取り囲む「6つの関所」が形になり始めます。
南のオーレリア王国(クラウディアの祖国)では、偵察隊の報告を受けた「バカな新王」と「優秀な弟王子」が動き出し……!?
お楽しみに!




