第57話:中二病の回避と『紅い煙』の建国宣言
前回、タケルの前に現れた二人の若き天才商人、レオンとアリア。
彼らと専属契約を結ぶにあたり、タケルたちはついに「ただの村」から「国家」へと昇格することになります。
そして、あの最強の防衛網計画が動き出します!
「――というわけでタケル様。我々がこの至高の品々を世界中の王侯貴族に売り込むにあたり、どうしても必要なものがあります」
カフェのテラス席。
俺が淹れたアールグレイのミルクティーを飲み、あまりの美味しさに昇天しかけていたレオンとアリアが、真剣な顔つきで身を乗り出してきた。
「必要なもの? 在庫なら職人たちに作らせてるぞ」
「いえ、品物ではありません。『ブランド(信用)』です」
「ブランド?」
俺が首を傾げると、皇国の令嬢商人アリアが補足した。
「ええ。どんなに素晴らしいドレスや武具でも、『魔の森の集落で作られました』では、各国の権力者たちに安く買い叩かれるか、最悪の場合『魔物の脅威だ』と討伐軍を向けられる口実になります。……我々には、『国家』という強力な後ろ盾が必要なのです」
なるほど。ただの「モンスターの村」の特産品として売るのではなく、「独立国家の最高級ブランド」として売り出せ、ということか。
「確かに、商人たちの言う通りですな。ただの村のままでは、周辺国の強欲なハイエナどもに不当な干渉を受けかねません」
横で聞いていたヴァイスが、眼鏡をクイッと押し上げて冷たい笑みを浮かべた。
「我々はこれから、各国のお金持ちを呼ぶ『VIPリゾート』を作ろうとしている。ここで最強の『大義名分』を掲げ、手出し無用と知らしめるべきでしょう」
「大義名分?」
「はい」と、クラウディアが真剣な顔で引き継いだ。「**『我が国は、この森の真なる支配者である古龍殿に認められ、その絶対的な庇護のもとに建国された不可侵の独立国家である』**と」
クラウディアの言葉に、レオンとアリアがハッと息を呑んだ。
「こ、古龍の庇護……!? そ、それなら帝国も皇国もうかつに手は出せません! 我が国に攻め込めば、伝説の厄災を真っ向から敵に回すことになりますから!」
「ええ。表向きは『絶対中立の自由貿易保護区』。しかしその実態は『古龍の逆鱗に守られた絶対防衛圏』。これ以上ない建国の理由ですわ」
「ふははっ! その通りじゃ! 我の庇護下にあると知れば、人間の塵芥どもなど恐れをなしてひれ伏すわ!」
俺の膝の上で丸くなっていた紅が、バッと立ち上がってふんぞり返った。
黒いゴシックドレスを着た幼女の姿だが、彼女から漏れ出る微かな『竜の威圧』に、レオンとアリアが「ひっ……!?」と悲鳴を上げて青ざめる。
「ふん。人間の小童と小娘よ。我の庭で商売を許された栄誉、せいぜいタケルのために粉骨砕身することじゃな!」
「あ、貴女様はまさか……伝説の……!?」
「おい紅、客を脅すな。ほら、おあずけしてたやつだ」
俺はふぅーっと、紅の顔に向かって紫煙を吹きかけてやった。
「んむっ……♡ はぁぁぁ……生き返るぅ……。我が名前を貸してやるのじゃから、今日は特別ボーナスじゃぞ、タケル……」
さっきまでの威厳はどこへやら、紅は俺の煙を吸い込んでトロンとした顔になり、再び俺の胸にすり寄ってスヤスヤと目を閉じた。
最強の古龍をペットのように扱う俺を見て、二人の商人は完全に魂が抜けたような顔になっている。
「さて、大義名分はそれでいくとして。……国の名前はどうする?」
「ふむ。この森の元主である紅殿の『紅』と、主の象徴である『煙』を合わせるのが筋でしょうな」
ヴァイスが芝居がかった声で両手を広げた。
「決定です。我が国の名は――『クリムゾン・ヘイズ連邦国』! おお……なんと恐ろしく、かつ絶対的な響きでしょうか! これなら帝国の愚図どもも震え上がるはず――」
「ダサい」
「……はい?」
「いや、なんか中二病くさくて恥ずかしいわ、それ。俺が中学生の時にノートに書いてた黒歴史の必殺技みたいで嫌だ。却下」
俺が即答すると、ヴァイスが「ちゅうにびょう……?」と固まった。
「ぬ? なんじゃタケル、ちゅうにびょうとは。悪くない響きじゃと思うが……」
「お前は寝てろ。……そうだなぁ。少し響きを渋くして、ドイツ語風に『ローテン』にしてみるか? 『ローテン・ヘイズ(紅い煙)連邦国』。うん、これならリゾートの高級ブランドっぽくて悪くない」
「おお……ローテン・ヘイズ! 素晴らしい響きです、タケル様!」
俺の適当なネーミングに、我に返ったレオンとアリアが目を輝かせて拍手した。
こうして、世界を揺るがす超巨大国家『ローテン・ヘイズ連邦国』の名前は、俺の中二病回避という極めて個人的な理由で決定した。
***
「よし、国名と大義名分も決まった。これで心置きなく商売ができるな」
「はいっ! ローテン・ヘイズ連邦国の名と、この至高の品々、必ずや帝国の皇太子殿下に届けてみせます!」
「私も! 皇国の貴族たちを全員、このブランドの虜にしてみせますわ!」
二人の若き大商人は、ミスリルの包丁や銀の糸のドレス、そして大量の美容ポーションを抱え、意気揚々とそれぞれの祖国へ帰っていった。
彼らの背中を見送った後、俺は隣に立つクラウディアとヴァイスに視線を向けた。
「さて。あいつらが外でド派手に宣伝して回る以上、俺たちも『防衛網』を本格的に作らないとな」
「はい。以前お話しした、首都を六方向から守る『ヘキサゴン・ゲート(六芒星防衛網)』構想ですね」
クラウディアが広げた羊皮紙の地図には、中央の『首都』を取り囲むように、六つの防衛都市(関所)の予定地が記されていた。
「これより、各部隊の長を『領主』として六方向に派遣します。
北の帝国方面には、ラシ殿とガルド親方の『要塞都市』。
南の王国方面には、ファソ殿とブドン殿の『演武都市』。
東にはミファ殿の『港町』。西の皇国方面にはレミ殿とザッハ殿の『宗教都市』。
北東にはソラ殿の『学術都市』。南西にはシド殿の『遊園地』……」
「これらが完成すれば、主の絶対領域は完璧なものとなるでしょう」
ヴァイスが地図を見下ろし、満足げに頷いた。
クラウディアの完璧な布陣図を見て、俺はニヤリと笑ってタバコに火をつけた。
ふぅーっ、と紫煙を空へ吐き出す。
「よし。お前ら、ちょっとその辺の六方向に、俺たちの庭を作ってこい」
「「「ははっ!! 主様の御心のままに!!」」」
俺の号令に、集まった兄弟たちや部族の長が一斉に平伏した。
中央の俺たちは、最強のオモテナシで各国のVIPを取り込む『リゾート開発』を。
外周のあいつらは、近づく軍隊を文字通りすり潰す『絶対防衛都市』の建設を。
ついに建国された古龍の国『ローテン・ヘイズ連邦国』は、世界中の国家を相手取った、容赦のない「文化と防衛の侵略」を同時に開始したのだった。
タケルの中二病回避により、国名が『ローテン・ヘイズ連邦国』に決定しました!(笑)
そして大義名分は「古龍に認められ、庇護された国」。
商人たちも、膝の上でふんぞり返る紅(古龍)を見て震え上がっていましたね。
そして、ついに動き出した【ヘキサゴン・ゲート構想】。
各方面に散った子供たちと部族の長が、それぞれの特色を活かしたヤバすぎる街(関所)を爆速で作り始めます。
次回、レオンとアリアが持ち帰った特産品が、帝国と皇国の上層部を物理的&精神的に揺るがします!
お楽しみに!




