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第56話:麗しのショーウィンドウと二人の商人(商業区開発②)

前回、男たちのロマンが詰まったドワーフとゴブリンのお店がオープンしました。

今回は女性陣のターン! 美しすぎるドレスと癒やしの空間が誕生します。

そして森の奥底では、全く別の目的を持った「二人の若者」が、タケルの都市を目指して別々のルートを必死に進んでいました。彼らの運命の出会いとは……?

ドワーフの武具屋とゴブリンの家具屋が大盛況を見せる中、商業区の向かい側では、女性陣による華やかなお店が次々とオープンしていた。


「さあ皆様! アラクネ・ブティック『銀の糸』、堂々のオープンですわ!」


シルヴィが優雅にお辞儀をすると、集まっていた人間の冒険者や獣人たちから歓声が上がった。

 ガラス張りの美しいショーウィンドウには、彼女と娘たちが最高級の蜘蛛のシルクで織り上げたドレスや、軽くて頑丈な防刃服がズラリと並んでいる。


「本日のモデルは、オークのマイアーレさんと、獣人のニアさんです☆」


次女のミファが司会を務め、店の前で即席のファッションショーが始まった。

 純白のドレスに身を包み、はにかむマイアーレ。露出度高めの動きやすい戦闘服を着て、元気いっぱいにポーズを決めるニア。

 そのあまりの美しさと破壊力に、ガレイス卿をはじめとする人間の騎士たちが、次々と鼻血を出して倒れていく。


「……お前ら、国の威信はどうした」

「タ、タケル殿……この村は、我々にとって刺激が強すぎます……!」


俺は倒れた騎士たちを呆れ顔で見下ろしつつ、隣の店舗へ移動した。

 そこは、ドライアドのリーフたちが営む『森のカフェ&薬局』だ。


「タケル様、お待ちしておりました。特製の『もぎたてフルーツパフェ』です」

「おお、美味そうだな。……ん? こっちの小瓶は?」

「それは長女のレミ様が魔法を込めた『特製・美容ポーション』です。これを塗れば、どんな荒れたお肌も一瞬で赤ちゃんのようになりますよ」


その言葉を聞いた瞬間だった。


「……ほ、本当ですか!? あの野営続きで荒れ果てた私の肌が……!」

「クラウディア様!? 顔がマジです!」


普段はクールな元王女のクラウディアが、血眼になって薬局のカウンターに身を乗り出してきたのだ。さらにはマイアーレたちオーク娘や獣人の女性陣まで殺到し、恐ろしい熱気となっている。


「まあ、カフェのほうも負けてられないな。俺も『新商品』を持ってきたぞ」


俺は懐から、タッパーに入った**「肉厚のシイタケ」**を取り出した。

 俺のプライベート空間である「奥の院(洞窟)」の湿気を利用し、俺の魔力をたっぷり吸わせてこっそり栽培した『魔法の原木シイタケ』だ。

 こいつを店の前の七輪で炙り、少しだけ醤油を垂らす。


ジュウゥゥゥ……ッ。


暴力的なまでの「旨味」の香りが、メインストリートを一瞬で支配した。


「な、なんだこの食欲をそそる香りは……!?」

「パパ! それ僕にもちょうだい!」


ファッションショーを見ていた客たちまで、シイタケの香りに釣られてカフェの前に大行列を作り始めてしまった。

 衣・食・住、そして美。

 俺たちの街の商業区は、完全に世界最高峰のショッピングモールとして完成しつつあった。


***


――そんな平和な街の騒ぎから少し離れた、南の防衛ゲート(ファソの断層)の前。

 鬱蒼とした森の茂みが、二箇所同時にガサリと揺れた。


「ハァ……ハァ……! よ、ようやく抜けたぞ! 古龍の森を……!」

「ゼェ、ハァ……! 聞いていたよりずっと魔物が少ないわね。結界のおかげかしら……!」


茂みから飛び出してきたのは、ボロボロの服を着た二人の人間だった。

 右から飛び出したのは、帝国製の高級な外套を泥だらけにした、金髪の若い男。

 左から飛び出したのは、皇国の意匠が施されたローブを破いた、勝気な瞳の若い女。


彼らは別々のルートから、文字通り命がけでこの森を走破してきたのだ。

 そして、ゲートの入り口に同時に足を一歩踏み出し――。


ゴツンッ!!


「いってぇ!!」

「きゃあっ! な、何よあんた! どこ見て歩いてるのよ!」

「そっちこそ急に飛び出してきやがって! 俺は急いでるんだ、邪魔するな!」


二人は頭を押さえながら、互いを睨みつけた。

 男の名はレオン。ヴァルゴア帝国の大商会の三男坊にして、皇太子の親友。

 女の名はアリア。聖法皇国エクレシアの新進気鋭の令嬢商人にして、聖女エリラの親友。


数日前、彼らは北のドワーフ王国に滞在していた。

 そこで偶然、剛鉄王が自慢していた『ミスリル包丁』と『極上のビール』を目撃。その圧倒的な品質に衝撃を受けた二人は、「この品を作った職人と真っ先に専属契約を結ぶ!」と決意し、互いの存在を知らぬまま、ほぼ同時にこの森へ駆け込んできたのだ。


「……ふん。その薄汚れた帝国のマント、あんた野蛮な北の商人ね? 悪いけど、この先の『奇跡の職人』と契約を結ぶのは、この私よ」

「ハッ! 世間知らずの西のお嬢様が、こんな魔境で商売できるか! 俺が帝国の全販路を使って、その品を世界に広めてやるんだよ!」


バチバチと火花を散らす二人。

 だが、彼らが口喧嘩をしながらふと顔を上げた――その瞬間だった。


「「…………え?」」


二人の口から、同時に間抜けな声が漏れた。

 彼らの目の前に広がっていたのは、恐ろしい魔族の村でも、むさ苦しい職人の工房でもなかった。


美しく舗装されたメインストリート。煌々と輝く魔石の街灯。

 ガラス張りのショーウィンドウに飾られた、眩いばかりの銀のドレス。

 そして、空を突くような白亜の巨城。


「な、なんだここは……!? 帝都の皇居より発展してるぞ……!」

「う、嘘でしょ……教会の聖堂より神聖な空気に満ちているわ……!」


あまりのカルチャーショックに、二人はその場にへたり込んでしまった。


「ん? なんだ、また迷い人か?」


言い争う声を聞きつけ、俺が七輪で焼いたシイタケをかじりながらゲートに近づいていく。

 その後ろには、ヴァイスとクラウディアが控えている。

 俺の顔を見た瞬間、令嬢商人のアリアが弾かれたように目を見開いた。


「(あ、あの無精髭で煙を吐いている男……間違いない! エリラを完全に骨抜きにしたという『使徒様』だわ!)」


一方のレオンは、俺の背後にある街の光景と、マイアーレが振っているミスリルのフライパンを見て、商人の魂を激しく震わせていた。

 二人は顔を見合わせると、まるでお互いに対抗するように、俺の足元へスライディング土下座を決めた。


「タケル様とお見受けします!! どうか、私を貴方様の専属商人にしてください!!」

「いいえ! 私を選んでください、使徒様! 皇国の貴族たちに、この至高のブランドを必ず売り込んでみせます!」


「……は?」


いきなり現れた若い男女に求婚(?)され、俺はくわえていたシイタケを落としそうになった。


「西と北の大商人が、同時に現れましたか」


ヴァイスが眼鏡をクイッと押し上げ、とんでもなく黒い笑みを浮かべた。


「主。彼らの身なりからして、各国の相当な上層部とパイプを持っています。……両方、使い潰しましょう」

「お前、本当に悪い顔するな……」


俺は溜息をつき、頭を下げ続ける二人の若き商人を見下ろした。


「……わかった、わかったから頭を上げろ。とりあえず、北の販路は兄ちゃん(レオン)に、西の販路は嬢ちゃん(アリア)に任せる。仲良くやれよ」

「「本当ですか!? ありがとうございます!!」」


表面上は俺に深く頭を下げつつ、立ち上がった二人は、互いを牽制するようにバチバチと視線で火花を散らしている。

「(西の小娘になんか負けるか。俺が帝国の販路で圧倒してやる)」

「(野蛮な北の男に出遅れるわけにはいかないわ。皇国の貴族たちを全員顧客にしてやるんだから)」


かくして、野心に燃える二人の若き天才商人が、我が国に転がり込んできたのだった。

女性陣のお店も大盛況! そしてタケルの謎のキノコ栽培も始まりました(笑)。

後半では、将来有望な二人の天才商人がついに合流!

帝国の皇太子と繋がるレオン、そして皇国の聖女と繋がるアリア。

バチバチのライバル関係から始まる二人の商人が、タケルの国をどうやって「世界ブランド」に押し上げていくのか。


次回、ついに彼らが持ち帰った品々が、各国の王族・貴族を震え上がらせます!

お楽しみに!

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