第28話 復活
少し時間を遡る――――
祭祀魔法の発動を確認したクラヴィアは、神力の放出を止め、それと同時に倒れこむ。
「はぁ、はぁ……………」
彼女の額には玉のような汗が浮かび、肩で息をする程に疲労が蓄積していた。そんな彼女にノクスエルが寄り添い、介抱する。
「お疲れさまでした。なんとか、間に合ったようですね」
「えぇ。神力使い切って、もう動けないわ」
神力――――魔力とは別の、神だけが持つ特別なエネルギー。これを消費する事で神は超常の術を行使する事が出来る。だが、今回のようにそれを使い過ぎた場合、車で言うガス欠状態となって、ある程度神力が回復するまで動けなくなってしまうのだ。
「でも、これで奴の復活は阻止できたわ。神力が回復したら、次の問題へ移りましょう」
「次? まだ何か問題が?」
「えぇ、実は――――ん?」
寝転がりつつモニターを眺めていたクラヴィアは、ふと、モニターに映ったロンに目を向ける。
「ノクスエル。アイツ、誰?」
「はい? あの眼鏡の男の事ですか?」
「えぇそうよ。アイツ誰なの?」
「確か、元は神殿に所属していた神官だと聞いておりますが、ご存じないのですか?」
「は? 神官? バカ言わないでよ。私、神官の子達の事は顔と名前全部覚えてるのよ? だから断言できるわ。アイツが神官だった事は一度もない」
「っ!? だとすると、あの者はいったい?」
「…………嫌な予感がするわね。ノクス、っ!!」
刹那、ロンが怨魂鎌を振るい、神官達を次々と殺していく姿がモニターに映る。あまりにも突然の事態に、クラヴィアも、ノクスエルも、何が起きたのかすぐには理解できなかった。
「み、皆…………?」
絞り出すようなクラヴィアの言葉は、誰にも届く事無く、真っ白な空間に溶けて消えた。
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突然のロンの裏切りにより、洞窟最奥は大混乱に陥った。
「落ち着け同士達よ! 集中を欠いてはならぬ!」
ゴルドフが必死に仲間達を落ち着かせようとするが、突然の事態に皆パニックに陥っており、説得は無意味だった。
「まったく、使えない奴らですね。この程度の連中に皆殺しにされるなんて」
「はぁ? へ…………? どうなってんだ?」
「まだ分からないんですか? まったく、下等種族は無能で困りますね。簡単な話ですよ。僕は最初からあなた達の敵だった。ただそれだけの事です」
「て、敵だと?」
「僕も邪神様の使徒なんですよ。それも、そこに転がってる死体共と違って、僕は本物です」
「本物? …………まさか君、悪魔族なのかい!?」
悪魔族とは?
それは、邪神が自身の眷属として生み出す生命体である。天使族・堕天使・妖魔族などとは、根本から対になる存在で、神の祝福を受ける種族全ての敵である。
「流石イスカさん。その通りです」
ロンが指を鳴らすと、彼の体が黒い旋風に包まれる。その旋風が晴れた時、そこにいたのは元のロンでは無かった。肌は褐色で髪は白く染まり、さらに頭には捻じ曲がった角が生えている。そして全身から、禍々しく強大な覇気が放出されていた。
「あぁ、あぁぁぁぁ…………!!!」
その姿を見た途端、ウルクスの顔が青ざめる。まるで、悪夢が現実になったかのような、絶望的な表情だった。
「っ! ヤバい! 見るなウルクス!」
「? …………あぁ、そういえば昔あなた達を襲ったのって、確か悪魔族でしたっけ? ソイツは人間風情に不意打ちで殺られる間抜けだったようですが、僕はそうはいきませんよ」
「ヒィッ!?」
ウルクスは床にへたりこみ、距離を取るように後退る。そんな彼を隣で支えるイスカだったが、彼女もまた恐怖でおしつぶされそうになっていた。
「まあ安心してください。別に今すぐどうこうしようってわけじゃないですから。先にやる事がありますから」
ロンの視線の先では、生き残った神殿メンバーが必死にエネルギーを制御し、封印を行っている最中だった。それを一瞥したロンは、懐から小さな鍵を取り出す。
「まったくあの人達は。折角壊して頂いた封印を、勝手に治さないでもらいたい。行け、”破封の鍵”!」
ロンが手にした鍵を扉に投げつける。鍵が扉に触れた瞬間、扉は再構築された部分も含めて、木っ端微塵にくだけ散る。
「っ!? じ、邪神の封印が!!!!」
「嘘だろ!? いくら弱っていたとはいえ、ただのマジックアイテムにこの封印は――――」
「えぇ確かに。ですがこの ”破封の鍵” は、弱っていれば神の封印すらも破壊できるんですよ。1度だけの使い切りなのが難点ですがね」
「くっ、なんて都合の良い物を!」
「都合が良いついでに、その祭祀魔法も利用させていただきますよ。特殊スキル『反転』!」
ロンがスキルを発動すると、先程まで美しく輝いていたエネルギーが変質し、扉の奥へと向かって行く。扉の奥――――こことは別次元のその場所には、封印から解放されたばかりの邪神がいた。
「おぉ、おぉぉぉぉぉ!! 力が漲るぜぇ!!」
扉の奥から、身の毛もよだつ邪神の声が響く。邪神を封じる為のエネルギーを浴びているにもかかわらず、邪神の力は弱まるどころか上昇を初めていた。
「どうなっている!? 何故邪神の力が上昇するのだ!?」
「”封神祭壇” の効果を反転させてもらいました。ついでに祭祀魔法の主導権も僕に移譲させていただきましたので、悪しからず。あ、それと魔力はそちら持ちって事で」
「ふざけるな! そんな事は断じて――――」
「雑魚が指示しないでください」
「ぐぁっ!!」
ロンが怨魂鎌を振るい、赤黒い刃を飛ばしてゴルドフの右腕を切り飛ばす。その光景に、イスカが悲痛な叫びを上げた。
「ゴルドフさん!」
「私の事は良い! それよりも、その悪魔はどうにかならんか!?」
「ウルクスがこの状態じゃ、とても…………」
「う、うぅ…………!」
ウルクスは、過去に悪魔族に襲われたトラウマがフラッシュバックし、床に蹲って完全に動けなくなってしまっている。
「ぷふっ、無様ですね。レベル2000だの ”勇者ノ器” だの、普段あんなにイキってるくせに肝心な時に役に立たないなんて。与えられた力に頼り切りだから、そんな間抜けの役立たずになるんですよ。ぷふふふふ!」
「…………おい、取り消せ」
「はい?」
「その言葉を今すぐ取り消せ!」
瞳に烈火の如き怒りを滾らせて、イスカがロンを睨みつける。しかしロンは涼しい顔をして受け流していた。
「はぁ、また雑魚に指示された。気分悪いので殺しますね」
気晴らしの感覚でロンはイスカに赤黒い刃を放つ。これにウルクスが反応し、イスカを抱えて刃を躱した。しかし、依然としてウルクスの顔色は悪い。
「ふぅ~、ふぅ~…………!」
「ウルクス!」
「あ、まだ動けたんですか。こういうのを見ると、何時まで避けられるか試した後で、持ち帰って死ぬまで嬲り続けたくなりますが…………今はそれよりも、邪神様の復活ですね。って、おや? 雑談してる間に完全復活されたようですね」
扉があった場所には空間がひび割れたような穴が開いており、その穴から禍々しい力を宿した手が伸びる。手は壁を掴むように穴の縁を掴むと、穴を押し広げ始める。
「い、いかん! 邪神が来る! こうなったら、せめて神聖魔法で妨害を――――」
「誰がそれを許可しました?」
再び怨魂鎌が振るわれ、赤黒い刃が神殿メンバーに襲い掛かり、次々と人が切られていく。
「っ!」
「ゴルドフさん!」
ゴルドフも危うく殺されそうになったが、イスカが寸での所で救出する。しかし、邪神の動きは止まらない。
「ウォォォオォォォォォォ!!!!!!」
紙に空いた穴を破り広げるようにして穴を広げ、邪神が穴を潜って別次元から脱出する。
――――かの始祖神やクラヴィアを始めとした神々が、決死の想いで封印した邪神が、今、目覚めた。




