第24話 始まる遠征。その裏で――――
場所は大きく変わり、ここはとある封印の御所。例の、邪神が封印されている場所である。
現在邪神は、封印術式を施された扉の奥にいる。扉の奥は別次元へと繋がっていて、邪神はその別次元に封印されていた。
そしてその封印が今、弱まっている。
(どこだここは? 今はどういう状況だ?)
封印の劣化によって意識が覚醒した邪神は、現在の状況を把握する。意識はあるものの、指1本すら動かせない。
(チッ、まだ体は封印されてやがるか………ん?)
邪神は、別次元同士を繋ぐ扉の存在に気付く。扉は封印が施されているものの、劣化している。その封印を強化するように、覚えのある ”神力” が注がれていた。
(この神力、クラヴィアか。って事は………成程。無駄な足掻きをしやがるぜ。神殿の眷属共でも差し向けて再封印するつもりだろうが、もう手遅れよ。眷属持ってんのは、俺達も同じだからな。精々その時まで、ありもしない希望に縋り付いているが良いさ)
邪神は心の中でニヤリと笑い、封印から解き放たれるのを虎視眈々と待ち続ける………。
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出撃の当日――――
パフィオの街は朝から騒がしかった。特に慌ただしいのは北門。王国騎士団に冒険者、そして今回の花形である神殿騎士団。邪神の再封印に関わる全戦力が、北門に集結していたからだ。今回集まったのは、B~Aランクの冒険者が約1000人。王都常駐の王国騎士団が約1000名。そして神殿騎士団だが――――本当に神託通り、世界中の騎士団が集まりその数は3万を越えていた。
「皆、静粛に! 出撃前に、ゴルドフ枢機卿よりお言葉をいただく。心して聞くように!」
今回、神殿騎士団の総指揮を任されたマイナが声を張り上げる。その声には強者特有の迫力があり、それまで雑談していた者達が一斉に口を閉じた。
「では枢機卿、お願いします」
「うむ。………皆の者! 今回は突然の召集にもかかわらず、よくぞ集まってくれた! これより我らが向かうは、嘗て世界を恐怖のドン底に陥れた、邪神の一柱が封じられし御所。そこで邪神の封印をより強固な物とするのが、我らの使命である!」
邪神という言葉に、その場の緊張感が高まる。
「邪神の力は、クラヴィア様をも追い詰める程強大だ。封印されているとは言え、その封印が緩んでいる以上、何が起こるか分からない。もちろん、皆の命の保証も出来ん。改めて問う。それでも、私と共に着いて来てくれるか!?」
皆がシンと静まり返る中、真っ先に声を上げたのは、ウルクスだった。
「枢機卿殿! その邪神ってのが復活したら、少なくともこの街は滅ぶんだよな? この街は俺達の大事な場所だ。それを守る為だったら命張ってやるよ! だから、今更野暮な事聞くな! そうだろお前ら!?」
『ウオオオオオオオオオオオオ!!!!』
冒険者達が一斉に時の声を上げる。王国、神殿の両騎士団も負けじと時の声を上げた。ウルクスの一声で、その場にいた全員の緊張がほぐれ、一致団結の流れが出来た。
「皆の勇気、確かに受け取った! では、これより我らは北を目指す! 先程ウルクス殿が言った通り、我らが失敗すればこの街が滅ぶと思え!
では………出陣だ!」
『オオォォォォォォォォォ!!!!』
一斉に時の声を上げ、皆揃って北へと進軍を始める。邪神再封印の為の旅が、いよいよ始まったのだ。
そんな中、一華と改人は何をしていたかと言うと………
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「お姉ちゃん、これは?」
「残念、それはただの雑草」
「ちぇっ、またハズレか………」
あたしらは今、王都の東側にある草原で、薬草探しをしている。何でこんな事してるかって言うと――――
「緊急事態があるまで暇でしょうし、真っ当な初心者の依頼も受けてみませんか?」
って、ライルさんに提案されてさ。それでこのFランクの依頼を紹介してもらったんだ。内容は ”薬草探し”。その辺の雑草の中にも、実は薬になる草があるんだって。んで、それを20本集めたら依頼は完了。なんだけど………これがなっかなか見つからない。
「………ああん、もう! 薬草も雑草も見た目そっくりで、どっちがどっちかなんて分かんないよ!!」
「落ち着いて。ライルさんが言ってたでしょ?
本物の薬草は微弱な魔力を持ってるって」
「でも、魔力って言っても蟻レベルなんでしょ? そんな微弱な魔力しか持ってない草を、どうやったら見つけられるの?」
「そうだなぁ………あ、【境界】で ”可視” と ”不可視” の境界を操って、小さな魔力だけ見えるようにすれば良いんじゃない?」
「そっか! それじゃあ、”視覚境界”! ――――っ!? うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ど、どうしたの!?」
「真っ暗になった! 何も見えない!」
「っ!!」
しまった! 魔力だけ見えるって事は、魔力以外何も見えなくなっちゃうんだ! 今の改人には、魔力を持たないあたしの事も見えてない! 真っ暗な世界で1人ぼっちに………!
「こ、怖いよお姉ちゃん! どこにいるの!?」
「大丈夫! あたしはここにいるよ!」
あたしは改人を安心させる為に、改人の両手を思い切り握りしめた。
「それより、早く境界を解除するんだ!」
「う、うん! 解除! ………あ、見えたぁ(泣)!」
境界を解除した途端、改人はあたしに泣きついて来た。
「うわ~ん! 怖かったよぉ~~!!」
「お~、よしよし。ごめんね、怖い思いさせて」
今までの会話で気付いたんだけど、改人は生きた年数は千年越えでも、精神年齢はまだ10歳のままなんだ。10歳の子がいきなり真っ暗な世界に1人閉じ込められて、どれだけ不安だったか………。悪い事しちゃったな。
「お姉ちゃん」
「何、改人?」
「しばらく抱き着いてて良い?」
「もちろん。怖くなくなるまで抱き着いてて良いよ」
「いや、それもあるけど、もう一度 ”視覚境界” を使いたいんだ。さっきは真っ暗って言っちゃったけど、魔力っぽい物が青白く光って見えたんだよ。しかも凄く小さかった。きっと、あれが薬草だよ」
「でも、そんな事したら、また――――」
「大丈夫! 1度経験済みだし、今度はお姉ちゃんがすぐ傍にいるんだから、何も怖い事なんて無いよ」
「改人………分かった。しっかり抱きしめてるから、安心して」
「ありがとう。それじゃもう一回、”視覚境界”!」
再び、改人は真っ暗な世界に入った。
「見えた。僕からから見て右の方に、青白い小さな光が沢山ある」
「よし。そんじゃ次は、その光だけこっちに持ってきて見て」
「オッケー、”空間境界・自動転送型”」
改人が技を発動した直後、あたしらの周りに草が20本程出現した。良く見ると、どの草も魔力を宿してる。これが薬草で間違いない。
「改人、もう境界を解除して良いよ」
「分かった」
境界を解除して、改人はこっちに戻ってきた。
「これが薬草?」
「多分ね。取り敢えず持って帰って見てもらおう」
「うん!」
「そんじゃ、”境界門”」
”境界門” は、アネリルスの ”魔界門” を元にした、門型の ”空間境界” だ。無理やり空間の裂け目を開く ”空間境界” よりも、しっかりとした門の形にするこっちの技の方が、体力や気力の消耗が少なく済む。
「っ!? 一華さんに、改人さん!? もう戻られたんですか!?」
”境界門” の先はギルドの受付。戻ってくるなりライルさんが、驚きの声を上げて迎えてくれた。
「ただいま、ライルさん。多分、薬草20本集まったんで持ってきました」
「確認お願いします」
あたしらは両手に抱えた薬草をライルさんに渡した。
「え、え~と………に、20本全て薬草ですね。薬草は集めにくくて大変なのに、よくこんなに早く集められましたね?」
「実は、ちょっとした裏技を見つけまして。お陰で一気に20本集まり集まりました」
「な、成程………?」
若干納得してなさそうだけど、ライルさんはそれで通してくれた。
「では、こちらが今回の報酬になります」
「「………………」」
報酬として貰えたのは、銅貨50枚だけ。金貨とか銀貨に慣れ過ぎてたあたしらとしては、かなり少ない報酬だと感じる。でもまぁ、考えてみればあっちの方が異常だったんだもんね。普通はこれぐらいって事か。
「それから、お2人が出掛けている間に手続きが完了致しまして、お二人の正式な昇格が決まりました」
「昇格?」
「多分、ゴブリン討伐したやつじゃない?」
あぁ、そういえばそんな話があったっけ? 確かDランクに昇格だろうとかなんとか。
「もしや、お忘れでした?」
「すいません。それで、ランクは幾つになったんですか? やっぱりDランクですか?」
「結論から申し上げますと、Cランクです」
し、Cランク? Dランクじゃないの?
「どうしてDじゃないんですか?」
「バッカスさんからお聞きしたんですが、お二人は王を含む単眼鬼の群れも討伐したそうですね」
「えぇ。まぁ」
「実はあの単眼鬼達は、一週間程前からこの街で、Sランクの依頼として掲示していた討伐対象なんです」
え!? そうなの!?
「バッカスさん達、何も言ってませんでしたけど?」
「彼らは一週間前から、モンドさんの護衛依頼を受けていましたからね。この依頼の事を知らずに戻って来てしまったのです。もっとも、そのせいで彼らを危険にさらしてしまいましたが」
成程、情報伝達が上手くいってなかったのか。それで単眼鬼達のいる所に突っ込んじゃって、追われてる所をあたしらが助けた。とまぁ、流れとしてはこんな感じかな。
「単眼鬼王はSランクのモンスター。それが5体の単眼鬼を従えていたとなれば、Sランク冒険者がチームを組んで討伐に向かわなければならないレベルの案件です。それをたった2人で成し遂げたのですから、Dランクで留める訳にはいきません。とは言え、Bランク以上への昇格には盗賊討伐の実績が必要になります。その為、なんとか限界一杯のCまで上げた、という話だそうです」
へぇ、そんな規定あったんだ。というかモンスターがいる世界で盗賊とかいんの? 迷惑な話だね。
「そういう訳ですので、ランク昇格の手続きをさせていただきます。お2人共、冒険者カードはお持ちですね?」
「「はい」」
「では、少々お預かりします」
あたしらがカードを渡すと、ライルさんは近くに置いてあった水晶にカードを翳す。すると水晶が光って、カードの色が変わり始めた。
「どうぞ」
しばらくして返してもらったカードは、色が白から銅色に変わって、さらに右上のFの文字がCに変わっていた。改人のカードも同様だった。
「これで手続きは完了です。今日よりお2人はCランク冒険者となります。おめでとうございます!」
ギルド中の人達が、一斉に拍手をしてくれた。例の護衛依頼でギルドにいる人の数がかなり減っているのに、その音はギルド内で大きく響いた。正直ランク上げは、より情報を手に入りやすくする為の手段くらいにしか考えてなかったけど、こうやって祝福して貰えると結構嬉しい。
「お姉ちゃん、やったね!」
「………そうだね。皆さん、ありがとうございます!」
あたしらが頭を下げると、拍手はより一層大きくなった。拍手はかなり長い間続いた。
「そうだライルさん。地図ってどうなってますか?」
光希かもしれない人がいるという、イセルス王国のギルド。そこへ行く為に必要な地図を昨日貰おうとしたんだけど………残念ながら、昨日は在庫切れだった。『明日には届くかもしれない』ってライルさんは言ってたけど、どうかな?
「はい、用意できましたよ。こちらをどうぞ」
ライルさんが渡してくれたのは、動物の皮っぽい物に掛かれた地図だった。ギルドの場所が赤い点で示されている。ご丁寧にギルドのある場所の名前も一緒に書いてくれてる。
「この点滅してる青い点は何ですか?」
「それは現在位置を示しています。地図が動くと、青い点も自動で動くんです」
「「っ!!?」」
「ははは、皆さん驚かれるんですよ。現在位置を示してくれる魔法の地図。最近ギルドと懇意にさせていただいている、魔道具士の方が提供してくださったんです」
要はこれ、グー〇ルマ〇プみたいな物だよね? こんな物まであるなんて、異世界結構進んでんな!
「因みに、拡大縮小も出来ますよ。老眼の方にも優しい設計です」
「「マジか!!」」
もしかしたらその魔道具士、あたしらと同じ異世界人なのかも。一度会って話を聞いてみたい。
「ありがとうございます、ライルさん! こんな便利な物をいただいてしまって」
「いえいえ。お2人の活躍に対する、正当な報酬ですから。報酬と言えば、貨幣の方もなるべく早くご用意させていただきますので!」
「「よろしくお願いします!」」
よし、ギルドでの用事は済んだ。次はネルソン商会で情報収集といこう!
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ネルソン商会に着くと、モリスさんが出迎えてくれた。
「お待ちしておりました、一華様、改人様。旦那様と奥様の元へご案内します。どうぞこちらへ」
モリスさんに案内されて、2階のモンドさんの部屋に着く。中に入ると、モンドさんとマリアさんが出迎えてくれた。
「一華様。改人様。ようこそおいでくださいました」
「立ち話も難ですから、どうぞお座りください」
ソファーを勧められて、あたしらは席に着く。すかさずモリスさんが紅茶を用意してくれた。
「では、私は仕事がありますので、これにて」
モリスさんが退室した所で、あたしらは早速話を始めた。
「昨日は、ホブゴブリンのキング、クイーンの魔石をご提供いただき、誠にありがとうございました」
「いえいえこちらこそ、情報収集を手伝っていただいて、ありがとうございます」
本当に、この人には感謝しかない。右も左も分からない状態で、ただ闇雲に光希を探そうとしてたあたし達に知恵をくれたのがこの人だ。もちろん打算もあるんだろうけど、それでもこの人に助けられた事に変わりはない。しかもその後も情報収集して助けてくれるし、感謝してもしきれないよ。
「それで、昨日話したイセルス王国の事なんですけど、何か情報は入りましたか?」
「いえ、イセルス王国に関しては、特にこれと言って新しい情報は入っておりません。情勢は安定していて、他国からの侵略なども受けておらず、戦争を仕掛ける素振りも無いようで、平和そのものです」
「良かった。取り敢えずイセルス王国は平和なんですね」
「はい。それと、一華様から頂いた情報を元にこちらで独自に捜索を行った結果、例の、昨日冒険者登録をした少女3人組を発見したそうです」
「本当ですか!? その3人は、どんな様子でした!? 怪我とかしてませんか!? そもそも本人で間違いないですか!!?」
「お姉ちゃん、落ち着いて! モンドさんも困ってるよ?」
「っ!」
しまった。つい感情的に………。
「すいません。取り乱しました」
「無理もありません。大切なご親友が見つかったかもしれないのですから。まずその3人ですが、特徴などが事前に頂いた情報と9割合致しておりました。恐らくご本人で間違いないでしょう」
「…………っ!!」
「報告によれば、3人共健康そのものだそうです。特にこれと言って、不調は見受けられませんでした。ただ、スミス様なのですが、必死の形相でギルドの職員に何かを懇願していたそうです。何を懇願していたのかまでは掴めませんでしたが」
「懇願………もしかして、光希さんも?」
「多分ね。光希も探してるんだ。あたしの事」
しかもあの子は、あたしと違って頭を使うタイプだ。まずは情報収集から。自力でその結論に辿り着いても不思議じゃない。あっちもあっちで、あたしの事を探してくれてる。この指名依頼が終わり次第、即刻会いに行かなくちゃ!
「それから、無礼を承知で尾行させていただいた結果、御三方がモンスターと戦闘になった場面を目撃したそうです」
尾行………。あまり良い感じはしないけど、この際そんな事は言ってられない。
「どんな戦いだったか、教えていただけますか?」
「もちろんです。敵は500体程のゴブリンの群れ。ジェネラル5体が後方から指揮していたそうで、レベル50~300程度。対して三人は全員レベル1。とても戦いにならないと判断し救出しようとしたのですが、それは無用でした。信じ難い話ですが、たった3人で敵を殲滅してしまったからです」
たった3人で、500体ものゴブリンを? しかもレベルで圧倒的に負けてて? いくら光希がいるとは言え、何にも無しでそんな事が出来るとは思えない。明らかにギフトの力が関わってるな。
「3人のそれぞれの戦闘スタイルって、分かりますか?」
「はい、既に調査済みです。まず糸川様は、報告によると糸を武器としているようです」
「糸?」
「より正確に言えば、指から出した糸をナイフ状にして、それを投擲していたとの事です。そしてこのナイフは特殊な物らしく、ゴブリンに当たっても傷を付けずにすり抜けていたと聞いています」
「って事は、殺傷能力は無いんですか?」
「いえそれが、ナイフが通り抜けたゴブリンは間違いなく死亡していたようです。血の一滴も流さずに」
相手の体をすり抜けて、傷も付けずに敵を殺した? 毒とかじゃ説明がつかない。その糸ナイフ、いったいどうなってんだろう?
「続いて天野様。こちらは何と、あの天体魔法を使っていたそうです」
天体魔法? あぁ、クラヴィアが言ってたやつか。
「お姉ちゃん、天体魔法って?」
「あたしも良く知らないんだけど、確か超級魔法とかいうやつでしたっけ?」
「魔法については、マリアの方が詳しいでしょう。マリア、頼めるか?」
「えぇもちろん。一華様がおっしゃる通り、天体魔法は人1人が扱える領域を超えた超級魔法の一種。宇宙に干渉して宇宙規模の事象を引き起こす魔法で、”神の御業” とも言われていますわ。本来ならば宮廷魔導士クラスが20人以上集まって、犠牲を出して漸く一発発動できるかどうかという魔法なんですの。それをたった1人で発動していたなんて、正直信じられませんわ」
そんなやばかったんだ、天体魔法って。改めてギフトが反則なのが良く分かったわ。
「ですがさらに驚くべきは、それを連発していた事。わたくしも報告を聞きましたが、超重力で敵を圧し潰したり、満点の星空を描き出して流星を降らせるなど、様々な天体魔法を次々と発動していたそうですの。これが事実なら、魔法界隈を根本から揺るがす大天才の誕生ですわ」
「ただ、まだまだ制御は乏しいようで、技が拡散して破壊の範囲が広がってしまっていたそうです」
ま、そりゃそうでしょ。そんな大きな力、寧ろすぐ使いこなせって言う方が酷だ。とは言え光希と一緒にいるなら、光希が巻き込まれないようになる早で使いこなしてもらいたいけど。
「そして最後にスミス様ですが………この方、何者なんですか?」
逆に質問された!?
え、何したの? 何やらかしたの光希さん!?
「光希はあたしの親友で、強くて頭が良い所以外は普通の人間ですけど?」
「とても普通とは思えませんね。報告を聞く限りスミス様は、糸川様や天野様の2人と比べても、頭1つ飛びぬけて強いんですよ。彼女の武器は刀なのですが、その刀に手を掛けて居合の構えを取った直後、彼女の姿が消えたそうです。それと同時に、50体近いゴブリン達が首を刎ねられて死亡。調査員達が再びスミス様を見つけた時、彼女は既にジェネラル達の懐に迫っていました」
「「…………え?」」
いや、ちょっと待って。無茶苦茶すぎない? 元の世界にいた頃から、光希は信じられない速度で間合いを詰めてくるし、居合切りに関しちゃもう目で追えない速度だ。でも、一瞬で50人切りまで出来る程じゃなかったはず。ギフトの力、じゃないな。光希のギフト【光神】と【多次元存在】は、どっちも強力だけど肉体を強化するような物には見えない。………もしかして、レベルのせい? フォルの話じゃ、レベルは『敵を倒す度に強くなる神の特性』が元らしいけど………倒すと強くなるだけじゃないのかも。思えばフォル達と戦った時、あたしはレベル1だったのに、その時点でいつもより体が軽かった。もしかしたら、レベル自体に何か力が宿ってて、その影響で元々高かった光希のステータスが上昇してるのかも。まだ予測でしかないけど、これが一番しっくりくる。
「ジェネラルも調査員も、何が起きたか分からず困惑してしまいました。その間にもスミス様の勢いは止まらず、再び姿を消したと思った直後、全てのジェネラルが首を飛ばされていたそうです。残されたゴブリン達は大混乱となり、がむしゃらに御三方に襲い掛かったようですが、全て御三方によって倒されたようです」
あたしも大概だけど、3人も3人でとんでもない力を得てるみたいだね。糸川さんのナイフは得体が知れないし、天野さんの魔法は単純に強い。でも、やっぱ一番凄いのは光希だ。だって話を聞く限り、光希はギフトを全く使ってない。レベルで強化された力を、今まで磨いて来た技術で最大限活かして、その力だけで敵を倒してる。これでギフトまで使い始めたら、どれだけ強くなるのか正直想像もつかない。滅多な事が無い限り3人が死ぬ事は無さそうだ。
「モンドさん。ありがとうございます。お陰で大分ゴールが見えてきました。それで、大変申し訳ないのですが、あたしが3人を見つけるまで、3人を見守っていただく事は可能ですか? もちろん、追加料金はお支払いします」
「かしこまりました。では、月に金貨1枚でいかがでしょう?」
金貨1枚。決して安く無いけど、背に腹は代えられない。
「分かりました。それで構いません」
「もし何かあれば、すぐに私共の手の者を派遣致します」
「どうか、3人の事、よろしくお願いします!」
「お、お願いします!」
「お任せください」
よし、打てるだけの手は打った。後は指名依頼が早く終わるように祈るしかない。
「そういえば、お2人は今回指名依頼を受注されているそうですね」
「っ! どこかでお話ししましたっけ?」
「いえ、風の噂でお聞きしました」
お洒落な言い回しするじゃん。ってか、依頼受けたの昨日なのにもう知ってるとか、耳早すぎないこの人?
「指名依頼が、どうかしましたか?」
「実はその件につきまして、不穏な動きがあるらしいのです」
「「不穏な動き?」」
「詳しい事はまだ分かりませんが、どうやら邪神の復活を目論む者共が動き出しているようです」
「「っ!!?」」
嘘でしょ? そんなはた迷惑な連中がいんの?
「邪神って、復活したら世界が滅ぶって言われてるんですよね? 何でわざわざ復活させようとするんですか?」
「もちろん、世界を滅ぼす為ですよ」
「いつの世も世界に不満を抱き、いっそ世界など滅んでしまえと考える愚か者はいるものですわ」
「滅べ、だって………?」
「「っ!!」」
改人が珍しく殺気を洩らし始めた。………そうか! 改人は人一倍命の重さを自覚している。 自分勝手な都合で世界を滅ぼそうとする輩なんて、改人が一番嫌いなタイプだ。
「世界には、大勢の人がいるんだよ? 今を懸命に生きている人達が、数えきれない程いる。なのに、個人的な不満で世界を滅ぼす? ………ふざけるな! 何で一部の人間の身勝手で、罪も無い人達が死ななきゃいけないんだ! そんな事があって良い訳ない!」
改人の殺気が強まってる! 頑張って抑えてるみたいだけど、耐性の無いモンドさん達にはこれでも相当キツいはず………!
「改人落ち着いて! モンドさんとマリアさんの前だよ!」
「っ! ご、ごめんなさい。モンドさん。マリアさん………」
「すいません。お見苦しい所をお見せしました」
「い、いえ、お気になさらず」
「私達は大丈夫ですわ」
ふぅ、優しい人達で良かった。でも、邪神を復活させようだなんて、そんなカルトみたいな連中を放って置くのはマズいな。
「モンドさん。この事はギルドには?」
「既に伝達済みです。現在、ギルドでも必至に情報を探っているようですが、未だその全容は掴めていません」
マジか。厄介だな。あたしが探した所で見つかるとは限らないし………これは最悪、邪神と戦う事も想定しておいた方が良いかも。




