第22話 討伐報酬は宝の山
「いやぁ、色々世話になった。重ね重ね礼を言うよ」
「いえいえ、困った時はお互い様ですから」
「何かあればいつでも頼ってくれ。と言っても、俺達に何が出来るかは分からんが。っと、そろそろ行かないと」
「そうでしたね。それじゃあ――――」
「「またお会いしましょう!!」」
「あぁ、待た会おう!」
ゴドーさん達と別れて、あたしらは依頼の達成を報告する為に、一旦ギルドに戻った。相変わらず酒飲んでる人ばっかだけど、何だか慌ただしい空気になっている。
「何かあったのかな?」
「もしかして、さっきのあれじゃない? ほら、神殿が要請を出したっていう、封印の強化」
「でも、あれって騎士団に出された要請じゃなかったっけ?」
「一華さんの言う通り、王城にも騎士団への協力要請が来ました。ですが、ギルドにもそれが来たんですよ。Aランクの依頼として」
受付にいたライルさんがそう教えてくれた。Aランクって言ったら、上から3番目。確か報酬は最低でも金貨5枚、場合によっては金貨10枚だ。わざわざそんな高ランクの依頼として提示するなんて、その封印は神殿にとってよっぽど大事な物みたいだね。
「お帰りなさい、2人共。その様子だと、既にゴブリンの討伐は終わったようですね」
「はい。ちょっと数が多かったですけど」
「ご冗談を。せいぜい100体程度のゴブリンの群れでしょ?」
「いえ、1000は超えてました」
「………へ?」
「近くに巣があったんですよ」
あたしらは巣を見つけるまでの経緯と、巣に1000体近いゴブリンの軍団がいたことを説明した。あと、キングとクイーンがいた事もね。
「アイツら、僕達の事ねちっこい視線で見て来て、気持ち悪いんですよ!」
「ま、爆散させたので心配は要りませんけど。って、あれ?」
さっきまで慌ただしかったギルドが、いつの間にか静寂に包まれてる。
………もしかして、あたしら何かやっちゃいました?
「そ、その………ゴブリンキングの番を倒したように聞こえたのですが?」
「えぇ、そうですけど?」
「失礼ですが、証拠品などはお持ちですか?」
「あ、すいません忘れてました。幾つか足りないけど、耳を持って来たのでどうぞ」
あたしは『厄災解放』で、【厄災箱】から耳を全部取り出した。1000を超えるゴブリンの耳が、黒い穴から次々と落ちて来る。カウンターに出したけど乗り切る訳もなく、ほとんどは床に散らばった。
「こ、これは………全部ゴブリンの耳!? しかもこの色の深さ、上位種のホブゴブリンじゃないですか!!」
「あぁ、そういえばそんな事言われましたね」
「ごめんなさい、忘れてました」
「い、いえ。それは良いのですが、とんでもない数じゃないですか! ジェネラルもかなりの数混じってるし…………っ! ほ、本当に番までいる!!!?」
『ブーーーーーーーーー!!!!!』
うわっ、ちょっと! 何皆して噴き出してんの!? 噴水アートか!
「だ、大丈夫ですか皆さん!?」
『お前らこそ大丈夫だったか!?』
「「っ!!」」
「ゴブリンキングの番って言やぁ、すげぇ数の手下共を引き連れてるって話だろ? それをたった2人で、番諸共倒しちまったのか!?」
「あ、あたしが倒したのはキングだけなんで、ほとんどこの子1人でやったようなものですけど」
『何ぃーーーーーーーーー!!!?』
目が飛び出そうなくらい驚いた直後、皆が一斉に改人を取り囲んだ。
「お前すげーな!」
「まだ小さいのにやるじゃん!」
「どんな訓練を積んだんだ!?」
「お、お姉ちゃん! 助けて!」
あらら、質問攻めにされて動けなくなっちゃってるよ。
「あの! 改人も困ってるんで、離してもらって良いですか?」
「おぉ、こりゃすまない」
「あまりにも興奮して、つい我を忘れちまった」
改人を取り囲んでいた人達が、さぁっと退いていった。
「それで、ライルさん。依頼も達成しましたし、例の報酬は貰えるって事で良いんですよね?」
「えぇ、もちろん。こちらをどうぞ」
そう言ってライルさんは、黒いカードを2枚渡して来た。
「これは?」
「ギルドの持つ情報を、機密事項に関わる物を除いて全て閲覧できるカードです」
エッグいもんをサラッと渡すじゃん。
「良いんですか? 機密事項は見られないとは言え、それ以外の情報はあたしらに筒抜けになるって事ですけど?」
「お二人は情報を欲し、その為に私が提示した条件を達成してくれました。それに対する正当な報酬です。いえ、それどころか、あなた方は我々が見逃していたモンスター達も倒してくれた」
そこで、ライルさんの表情が変わった。
「今回、ホブゴブリンの巣の発見が遅れたのは、我々ギルドの怠慢によるもの。このまま何も知らなかったら、下手すれば死者が出ていたかもしれない。それを未然に防いでくれた事、心よりお礼申し上げます」
ライルさんが深々と頭を下げてくる。どうしよう。こういうの慣れてないから、気恥ずかしいな。
「頭を上げてください。あたしらはただ、ギルドの依頼をこなしただけですから。それよりも、このカードってどうやって使うんですか?」
「頭の中で知りたい事を思い浮かべて頂ければ、それに沿った情報をご提供できます」
何それ、すっごい便利じゃん! 要は検索ワード打ち込むと、それと合致する情報が出てくるようなもんでしょ? 宝の山じゃん! やっぱ新人にホイホイ渡して良いもんじゃ無いって。
でも逆に言えば、それだけギルドがあたしらに期待してくれてるって事。もちろんお礼の意味もあるんだろうけど、それだけで渡すにはあまりにもオーバースペックな代物だ。もちろん最優先は光希の捜索だけど、期待に見合う働きはしないとね!
「因みに、紛失された場合は再発行は出来ません。また、情報漏洩で処罰の対象ともなりますので、取り扱いには十分ご注意ください」
「あ、はい」
………最初に言っとくべき事じゃない、それ?
「それと、今回のキング、クイーンを含めた巣の討伐についてですが、慰謝料も含めて別途報酬を検討させていただきますので、しばらくお時間をいただけますでしょうか?」
「それは全然大丈夫です。一番欲しかった物は手に入ったので」
「ありがとうございます。ではまず前金として、こちらの金貨10枚をお納めください」
また金貨10枚!? しかも前金って事は、本報酬はもっと上って事だよね? こんな調子でお金貰ってたら、光希と再会する前に富豪になっちゃうじゃん。
「あ、ありがとうございます………」
「あれ、ご不満でしたか?」
「いえいえ全然!」
寧ろ多すぎて怖いくらいです………(-_-;)
「では、これにて今回の依頼は完了となります。先程も申し上げましたが、残りの報酬はまた後程、改めてお渡しさせていただきます。そして――――誠に申し訳ないのですが、続けて指名依頼を受けていただけませんか?」
「「指名依頼?」」
「先程もお話しましたが、現在ギルドには神殿からの依頼が届いております。その関係で現在B、Aランクの冒険者に、招集を掛けているんです。お二人への指名依頼は、この招集に応じて神殿に力を貸して頂く事。どうか、お願いできませんでしょうか?」
「えっと、そもそもの話、何で新人のあたしらにそんな話を?」
「神殿が我々に要求しているのは、”封印の御所までの護衛”。有体に言ってしまえば、目的地までの護衛を冒険者に任せたいという事です。お二人の実力ならば可能だと思うのですが、いかがでしょうか?」
「う~ん………」
まぁ、神様でも出てこない限り、戦闘で勝つのは楽勝だ。でも、守れるかどうかは別の話。前に父さんが言ってたんだけど、こういう護衛とかで一番重要なのは観察力、そして事態の未然防止。あたしはそういうのやった事ないし、多分護衛は向かないと思う。それに、今回に限っては別の懸念もあるしね。
「おいおいライル。いくら何でも新人に護衛を任せるのは無茶じゃねぇか?」
後ろから声がして振り返ると、ウルクスさんがいた。
「あ、ウルクスさん」
「よぉ、お二人さん。さっきぶりだな。ライル。コイツらのランクって今はどんなだ?」
「現状はFランクですが、先程ホブゴブリンの巣を壊滅させたそうなので、最低でもDランクまでは上がるでしょう」
「っ! そりゃあ大したもんだ。ま、俺達でも出来るけどな!」
いちいちイキってくるなこの人。
「だがよ、行ってもDランクって事は、コイツらには高ランク冒険者の ”箔” がねぇって事だろ? どんなに実力があろうと、箔の無い奴を神殿の連中は信じるのか?」
「っ!!」
………え? あたし耳おかしくなった? 今何かすっごいまともな事言った気がしたけど?
「無理にイレギュラーを認めてコイツらを参加させたら、チーム内で不和を招きかねない。ただの討伐ならまだ良いが、今回は難易度の高い護衛任務だ。内部抗争が起こるのはマズいんじゃねーか?」
き、聞き間違いじゃない! この人、あたしが思ってたのと全く同じ事言ってる! ただのイキり野郎だと思ってたけど、結構まともな所あんじゃん。
「確かに、ウルクスさんの言う通りですね。流石に無茶が過ぎました。お二人共、大変失礼しました」
「気にしないでください。あたしらとしては、依頼を拒否するつもりはありませんでしたから。ね?」
「お姉ちゃんの言う通りですよ」
「ま、もしどうしてもってんなら、連絡手段を持っとくのが良いんじゃねーか? ”何か不測の事態が起きたら、2人に救援信号を送る” 的な」
「成程、でしたらこれを」
今度は黒い板みたいな物を渡された。
「ギルド職員専用の通信端末です。耳に当てると、端末を持つ人同士で会話が出来ます」
完全にスマホじゃん。
でも確かにこれがあれば、何時でも救援要請を受けられる。しかもあたしらは空間転移が出来る訳だから、要請さえ受ければ現場に急行できるって寸法だ。
「何か、色々世話を焼いていただいて、ありがとうございます。この端末は責任持ってお預かりします。何かあったらすぐ呼んでください。すぐ向かいますから! 改人もそれで良い?」
「もちろん!」
「ありがとうございます! お二人が協力してくださって心強いですよ!」
「お、そうだ! そういや俺もその件で来たんだった。ライル、俺達『白き牙』も、神殿の奴らの警護に加わるぜ」
「え、よろしいんですか? あなたは確か――――」
「その封印が解けたら、この国が滅ぶんだろ? イゴール王国は俺様達の大切な拠点なんだ。それを守ってくれるってんなら手伝うしかねぇだろ」
「ウルクスさん………分かりました。手続きを進めておきますね。では、私は業務がありますので、これで」
そう言ってライルさんは、カウンターの奥に姿を消した。
「ほんじゃ、俺ももう行くわ」
「もう行っちゃうんですか?」
「色々準備があんだよ。じゃあ、またどこかでな」
「えぇ、また」
「また会いましょう!」
ウルクスさんはこっちに手を振りつつ、未だに壊れたままの扉を潜って街へと乗り出した。ウルクスさんを見送ったあたしらは、早速黒いカードを使ってみる事にした。
「え~と、こんな感じかな?」
まずは、あたしと改人を ”念話” で繋いで、お互いに情報を即座に共有できるようにする。そんであたしは頭の中で ”スミス光希の居場所が知りたい” って念じてみた。
そしたら――――
《検索中――――スミス光希の情報は、機密事項のため開示できません》
って、頭の中で返事が来た。成程、ジェ○ニみたいな感じなんだね。
んで、いきなり機密事項に引っ掛かったんだけど、どういう事?
《何で光希の情報が機密事項なわけ?》
《え、機密事項だったの?》
《うん、何か知らんけどそうみたい》
《それって、変じゃない?》
《何が?》
《機密事項って事は、ギルドは光希さんの情報を持ってるわけだよね? この世界に来たばかりの人の情報が、どうしてギルドにあるの?》
《っ! 確かに………》
光希が糸川さん、天野さんとこの世界に来た(と、思われる)時間から、まだ3時間くらいしか経っていない。にも関わらず、ギルドが光希の情報を持ってる理由があるとすれば………そっか! 冒険者登録!
《ねぇ、”冒険者の情報は機密事項になってる?”》
《検索中――――冒険者の情報は、冒険者ギルドの最重要機密として、厳重に保管されています》
《やっぱり!》
これはもう間違いない。光希はこの3時間のどこかで、冒険者登録を完了させたんだ!
《そういえばクラヴィアの奴、『街に着いたら冒険者ギルドで冒険者登録をしろ』って言ってたな。》
《クラヴィア?》
《あたしらをこの世界に送り込んだ、破廉恥な女神だよ。ともかく、光希はちゃんと生きてて、そんで冒険者になってるって事が分かった。ひとまず前進だね》
《でも、だとしたらこのカードを使って、光希さんの情報を手に入れる事は出来ないんでしょ? また振り出しに戻っちゃった………》
《そうでも無いんじゃない?》
《え?》
《光希個人の事は機密事項だけど、光希と同じ特徴の人達を探すだけなら、制限に引っ掛からないんじゃないかな?》
《そっか! 流石お姉ちゃん!》
《いやいや、改人が機密事項の違和感に気付いてくれなかったら、そもそもここまで辿り着けなかったよ。ありがとね》
《へへ、どういたしまして》
《そんじゃ早速、”2~3時間前から今まで、金髪のポニーテールの女の子が出入りしたギルドはある?”》
《検索中――――全世界24215棟のギルド会館全てに、金髪のポニーテールの少女の入館記録があります》
え、全部に履歴あんの!? たった3時間で? この世界の金髪ポニーテール率たっか!
《じゃあ、”金髪ポニーテールと、ピンクのショートヘアと、黒髪セミロングの女の子3人組が一緒に入った所は”?」
《検索中――――ここより西の大陸にある、イセルス王国王都テミラの冒険者ギルドに、入館記録があります》
一か所に絞られた! これは大分可能性高い!
《イセルス王国の王都テミラ………! ”映像とかってある?”》
《検索中――――防犯用魔導水晶に、映像記録が残されています。ただし、機密事項の為お見せする事は出来ません》
まぁ、流石にそうだよね………。
《じゃあさ、”テミラのギルドの場所が分かる物とか無い?”》
《検索中――――冒険者ギルド本部、及び支部の場所を示した地図があります。ギルドの受付にて無償で提供されていますので、そちらへどうぞ》
《分かった! ありがとう!》
《検索中―――― ”ありがとう” の返しは ”どういたしまして” と判明。故に申し上げます。どういたしまして》
こ、こんな機械的な ”どういたしまして” は初めてだ………。
気を取り直して、取り敢えず受付に行かないと! そんで地図を手に入れたら早速テミラに――――ってしまった! さっき神殿に協力するって言っちゃったんだった! 約束した以上しばらくこの街から離れられないし、かと言って今更キャンセルも出来ないし………あぁ~~しくった! あんな簡単に引き受けるんじゃなかった!
「お、お姉ちゃん、大丈夫?」
「しくった~~、完全にしくったぁ~~! 折角光希達の居場所の手掛かりが見つかったのに、しばらくここから離れられないなんて~~~~!!」
気付くとあたしはギルドの床に倒れ伏していた。でもどんなに悲観した所で、状況は変わらない。せめて今回の事を教訓にして、次に活かせるようにしよう。




