第21話 ゴブリン殲滅 後編
「それじゃ、皆さんはここで待っててください」
「分かった」
ゴドーさん達を入口で待たせて、あたしと改人は早速洞穴に入った。洞穴は下り坂になっていて、かなり薄暗かった。
「気を付けて改人。視界が悪いし、何があるか分からない。それに、ここはもう敵陣。いつ戦闘が始まってもおかしくないからね」
「うん。分かった」
しばらく進んで行くと、洞穴の奥に強い明かりが見えた。ゴブリンの気配はあの明かりが漏れる部屋から感じる。どうやら、そこが下り坂の終着点らしい。
「気配がいっぱいある。あれ全部ゴブリンなんだよね?」
「その通り。んで、コイツら全部倒すのがあたしらの役目。弱いとは言え数が多い。油断しちゃダメだよ」
「ラジャ!」
ま、この程度の奴らじゃ、どう頑張ってもあたしらに掠り傷すら負わせられないけどね。
そうこうしてる内に、あたしらは洞穴の終着点に着いた。そこには広くて明るい部屋があって、1000近いゴブリン達が整列している。部屋の奥の一段高い所に玉座が2つあって、そこに一際デカいゴブリンが2人鎮座していた。あれがキングとクイーンに違いない!
「ン? 何ダ、貴様ラハ?」
「イッタイ、何ノ用カシラ?」
「「喋った!?」」
片言だけど、どうやら喋る事が出来るらしい。言葉が通じるって事は、話し合いで解決できたりするかな? とりあえず穏便に済ませる方向で頑張ってみよう。
「え~、すいません。あたし、一華って言います。こっちは弟の改人。ちょっとお願いがありまして、ここから南に行った所の街道に手を出すの、止めてもらえませんか?」
「お願いします。皆困ってるんです」
「ソウカ。分カッタ」
あれ、これはもしかして、交渉成り――――
「デ? 何故ソレデ俺達ガ、襲撃ヲ止メル必要ガアルンダ?」
「人間如キガ、私達ニ命令スルンジャナイヨ」
「ソノ思イ上ガリ、死ヲ持ッテ贖ウガ良イ。オ前ラ、ソイツラヲ殺セ!」
『ギィーーーー!!』
「「………ですよね~~」」
やっぱダメか。しょうがない。皆纏めてぶっ飛ばして――――
「お姉ちゃん。ここは僕に任せて!」
「改人?」
「僕はお姉ちゃんの守護騎士なんだから、この程度の敵は僕が引き受けるよ」
「おぉ、頼もしい事言うじゃん。んじゃ、お願いするね」
「ラジャ! おいで、皆!」
改人がエクスカリバーを掲げて招集を掛けると、1000を超える剣達が召喚される。剣達は突撃してきたゴブリン達に降り注いで、一瞬で軍隊を壊滅させた。残すはキングとクイーンのみ!
「ッ!!!? マ、マサカ、一瞬デ手下共ガ殺ラレルトハ………!」
「どうする? 素直に首を差し出してくれると助かるんだけど」
「誰ガソンナ事ヲ! アナタ、コウナッタラ!」
「ウム、アレヲ使ウゾ!」
「「”あれ”?」」
何か隠し玉でも持ってんのコイツら?
「「ギフト【眷属吸収】!!」」
「「っ!!」」
キングとクイーンのレベルが、急速に上がっていく。対面した時は2000くらいだったレベルが、4000、5000と上がって行って………終いには9999まで到達した。
「え、どうなってんの?」
「グフハハハ! 驚イタカ? コレガ、俺達ガ授カッタ祝福、【眷属吸収】ノチカラダ!」
「アンタ達ニ倒サレタ奴ラモ含メテ、世界中ノ眷属共ヲ皆取リ込ンデ、ソノチカラヲ自分ノ物ニスル事ガ出来ルノ。オ陰デレベルガ9999マデ上ガッタワ! 眷属共ハ皆死ンジャッタケド」
「大シタ問題ジャナイ。ソンナ物、マタ増ヤセバ良イ」
「レベル9999って、レベル2000からそこまで行くには、もの凄い量の経験値が必要な筈………!」
「いったい、どれだけのゴブリンを犠牲にしたんだ!?」
「サァ? ドノ位カシラ?」
「眷属ノ事ナド知ッタ事デハ無イワ」
「そんな………! ひどい! ひどすぎるよ!!」
「この、外道共め………!」
王たる者が民に奉仕するどころか、民から全てを奪うなんて! ………プッツンいっちゃったわ。コイツら、自分の手でぶっ飛ばさないと気が済まない!
「改人、あんたはクイーンを。キングはあたしがぶっ飛ばす!!」
「ぐす………ラジャ!」
「ハッ! 今ノ俺達ニ敵ウトデモ思ッテイルノカ! 最早貴様ラニ勝目ハ無イ。降参スレバ、ペットトシテ飼ッテヤルゾ?」
「2人共、ターップリ可愛ガッテアゲルワヨ?
ブッ壊レルマデネ」
コイツら、改人の事まで狙って………!
「ふざけんな!」
「ぶっ飛ばす!」
あたしらはキング達に突撃を仕掛けた。
「「ッ!?」」
面食らった様子の2人だったけど、レベル9999の力を活かして、ギリギリで致命傷を躱した。けど――――
「「甘い!」」
「グアッ!!」
「ヌグォッ!!?」
1発躱しただけじゃ意味はない。あたしらは攻撃の勢いをそのままに回し蹴りをぶちかまして、キング共をぶっ飛ばしてやった。
「ウゥ………!」
「グゥ………!」
流石にレベル9999は伊達じゃないね。洞窟が崩壊しないよう加減したけど、その範囲内で本気で蹴り飛ばしたのに、まだ生きてる。
「コ、コノ速度………貴様ラモ、レベル9999ナノカ!?」
「いんや、もっと上だよ」
「バカヲ言ウナ! レベルノ最大値ハ9999の筈ダ! ソレヨリ上ダトシタラ、ソレハ神ノ――――」
突然、キング共の顔が真っ青になった。
「マ、マサカ、ソンナ………!」
「ア、アナタ達………! モシカシテ、神ナノ?」
「あ、気付いた? まぁ新人だけど、あたしら一応神様だよ」
「「………………ッ!!!!」」
あたしの返事に、キング共はガタガタと震え始めた。
「お姉ちゃん、バレちゃったけど良いの?」
「別に良いんじゃない? どうせぶっ飛ばすんだし」
「あ、そっか!」
「そんじゃ、トドメ行くよ?」
「ラジャ!」
相手はシ〇ッカーっぽいし、トドメって言ったらやっぱあれだよね!
「「とうっ!」」
あたしらはその場で跳躍してキング共に接近する。そして空中で姿勢を変えて、奴らに向けて思い切り飛び蹴りを放つ!
「ヒィッ!?」
「ニ、逃ゲロ!」
あ、逃げ出した。でももう遅い!
「「ていやぁーーーーーーー!!!!」」
「「グギャァァァァァァァァ!!!!」」
飛び蹴りを喰らったキング共は、弾丸のように吹っ飛んで洞穴の壁にめり込む。そして、
――――ドォォォォォォォォォン!!
凄まじい轟音と共に、謎の大爆発を起こした。
「気配が全部消えたよ!」
「これで全員倒せたみたいだね」
加えて【歪曲改変】を発動しておいたお陰で、耳と魔石だけは無事にあたしらの手元にある。最初に倒した奴らのも回収したし、これでギルドの情報をもっとたくさん手に入れられる!
「それにしても、どうしてゴブリンがギフトを持ってたんだろう?」
「さあ? 物好きな神様でもいたんじゃない? あたしだったらゴメンだけど」
「僕もだよ。こんな奴らにギフトをあげるなんて、いったいその神様は何を考えてるんだろう?」
「ま、細かい事を気にしてもしょうがないよ。それより、手に入れるもんは手に入れたし、早く帰ろ!」
「そうだね! ゴドーさんだって心配してるもんね!」
「帰ったら情報貰って、魔石換金して、そんで今日はおいしい物でも食べよっか!」
「うん!」
そうしてあたしらは、洞穴を後にした。
*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*
洞窟から出てくると、ゴドーさんと兵士さん達が待っていた。
「「ただいまーー!!」」
「おぉ、戻ったか。随分早いお帰りだな」
「えぇ、もう討伐は終了したので」
「終わった? おいおい、何を言って――――」
「「じゃーん!!」」
『っ!!?』
「巣穴にいたゴブリンの片耳全部と、ゴブリンキングの魔石です!」
「これで信じてくれますよね?」
『………』
ゴドーさん達は文字通り、開いた口が塞がらなくなってる。
「た、隊長! これは間違いなく、キングとクイーンの魔石です。しかも、ついさっき取れたばかりの物です!」
「って事は、キングの番を含むこの数のゴブリンを、たった2人で殲滅しちまったって事か?」
「いえ、あたしが倒したのはキングだけです。他は全部、改人が仕留めました」
「っ!? ほ、本当か!?」
「え、えぇ、まぁ………」
「凄いじゃないか!」
「これでまだ子供とは信じがたい」
「騎士団に勧誘したいくらいだ!」
「あ、ありがとう、ございます………」
改人の奴、耳まで真っ赤になっちゃってるよ。本当、可愛いんだから。
「そう照れる事ないよ。”僕はお姉ちゃんの守護騎士なんだから、この程度の敵は僕が引き受ける” って、頑張ってくれたじゃん。かっこよかったよ?」
「そ、そう? へへ、ありがとう」
「隊長!!」
そこへ、兵士さんの1人が大慌てで飛び込んで来た。
「どうした? そんなに慌てて」
「た、たった今、神殿より要請がありまして。神託を果たす為に、我ら王国騎士団にも協力願いたいとの事です!」
「ほう? お堅い神殿が俺達に協力を求めるなんて、余程の事態じゃねーか。何があった?」
「それが、神託により、彼の封印の強化を行うとの事です!」
「封印? まさか、あの!?」
「はい。どうやら封印が解けそうになっているようで………」
「だが良いタイミングだ。丁度問題のゴブリン共は、この2人が片付けてくれたしな。分かった、すぐに向かおう。準備を急げ!」
『はっ!!』
良く分かんないけど、何か大変な事になってるみたいだね。
「あの、ちょっと良いですか?」
「おぉ、一華ちゃん。どうした?」
「皆さんがこれから行くのって、どこですか?」
「王都にある神殿だが、それがどうした?」
「じゃあ、王都まであたしが送りますよ。それも今すぐに」
「は?」
”何言ってんだコイツ?” みたいな顔されたけど、問題ない。見てりゃ分かるから。
「まぁ、見ててください。”空間境界”!」
あたしが空間に裂け目を作ると、その先に王都の西側の門が見えた。
「そうか! その手があったか!」
「けど、良いのかい? 俺達も使わせてもらっちゃって」
「全然! 丁度あたしらも帰る所でしたから、ご一緒しますよ?」
「助かる! 何から何まで、本当にありがとう!」
「いえいえ、困った時は助け合わないと」
そしてあたしらは裂け目を潜って、王都西門へ向かった。
*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*
一華達が、ゴブリンの巣を壊滅させていた頃――――
王都パフィオの神殿は大騒ぎになっていた。
「急げ! 急げ!」
「各地の騎士団を、集めるんだ!」
ここはイゴール王国の王都パフィオに位置する、時空神クラヴィアを祀る神殿。この世界ではクラヴィアは守護神として祀られており、その信仰を絶やさないよう世界各地にクラヴィアを祀る神殿が設置されている。
そんな神殿には、時折神からの絶対命令である、”神託” が下る事がある。今回も神託が下った為、神殿は今てんてこまいとなっているのだ。
(まさか、例の封印が解けかかっているとは………)
――――遡る事30分前、この世界の全ての神殿に、クラヴィアの使いの天神ノクスエルが姿を現した。
《各地の神殿の管理者よ。急で悪いが、速やかに我の元へ集え!》
急な話ではあったが、ノクスエルからの話という事で、神殿側は即座に準備を整えた。
「ノクスエル様! 如何されましたか!?」
《諸君らに伝えねばならぬ事がある。イゴール王国王都近郊にて、邪神の封印が解けかかっている》
「何と!?」
「誠にございますか!?」
《現在、クラヴィア様が御自ら対応に当たられている。だが、術式の劣化が原因で、このままでは長くはもたん。そこで諸君らに、クラヴィア様からの神託を下す》
『………(ゴクッ)!』
《今すぐに、各神殿、教会の神殿騎士団を、イゴール王国・王都パフィオに向かわせよ! 特に、封印の術式を描ける者は、1人残らず向かわせるのだ!》
『はっ!』
《諸君らの行動に、この世界の存亡が掛かっている。それを肝に銘じ、心して掛かれ!!》
『父母なる神の、仰せのままに!』
そして各地の神殿、教会が騎士団派遣に動きだし、現在のてんてこまいな状況になった、というわけである。
「ゴルドフ枢機卿! 我ら、パフィオ神殿騎士団、出撃準備整いました! 何時でも動けます!」
「うむ、ご苦労。後は、各地の騎士団の到着を待つばかりか………」
ゴルドフと呼ばれた枢機卿の頬を、冷たい汗が流れる。報告に来た騎士団長の女はそれに気付き声を掛けた。
「不安でございますか?」
「な、何を言う!? クラヴィア様から頂いた勅命であるぞ! 喜びこそすれ、不安になる事などあるわけなかろう!」
「左様でございますか。私は先程から、震えが止まらないのですが………」
「………!」
”騎士団長” が弱みを見せる。その行いに、ゴルドフは驚きを禁じ得なかった。
「かつて、邪神はこの世界において悪逆の限りを尽くし、偉大なる始祖神様によって封印されたと聞いております。そしてその封印の際に、多くの犠牲が出たとも。クラヴィア様も瀕死の重症を負われ、一時はそのお命すら危ぶまれたとか」
「………そうだ。そしてその邪神が今、目覚めようとしている。故に我らは、何としても邪神の復活を阻止せねばならぬのだ」
「ですが! 邪神はクラヴィア様をも追い詰める程の力を持っているのでしょう!? 封印されているとはいえ、そんな恐ろしい怪物がいる場所へ向かうと思うと、私、怖くて………!!」
騎士団長は両腕で自分を抱きしめると、ブルブルと小刻みに震え始めた。
「マイナ騎士団長よ」
「は、はい!」
「………先程は強がったが、私も怖くてしょうがないのだ」
「っ!」
「だがそれ以上に、クラヴィア様から神託を頂けた事は、私にとって誇りなのだ。我らが最高神が、我らを信じて任務をくださった。私にとって、これ以上の幸福はない。故に、例えそれが茨の道であろうと、あの方の命とあらば、私は進むのみだ。お前だってそうだろう?」
「………はい!」
気付けば、マイナの震えは止まっていた。クラヴィアに対する彼女の信仰が如何に強いか、端から見てもハッキリと分かった。
「とは言え、やはり我々だけでは不安が残るのも事実。イゴール王国騎士団や、冒険者ギルドにも応援を要請するとしよう」
「よろしいのですか? 王国騎士団はともかく、冒険者の中にはクラヴィア様を嫌う者が数多くいますよ?」
「問題ない。あくまで頼みたいのは露払いだ。封印の御所までの道に、どのような妨害が仕掛けられているか分からんだろ? そこで消耗してしまっては意味がないからな」
「成程。報酬はいか程で?」
「1パーティー金貨10枚でどうだ? 普段から信徒達より、高い献金を巻き上げているのだ。そのくらいは余裕だろう?」
「ですね。分かりました。すぐに手配致します」
こうして神殿は、邪神の再封印の為に動き出す。各地から神殿騎士団の面々が集まり、現場となっているイゴール王国の騎士団、並びに冒険者ギルドにも救援要請を出した。後に、その両方が受け入れられ、準備は万事順調。これで邪神を必ず再封印できる。
――――その筈だった。
しかし邪神は、そう易々と封印を受け入れるつもりは無かった。




