第20話 ゴブリン殲滅 前編
ライルさんからの依頼で、あたしらはゴブリン群団の討伐の依頼を引き受ける事になった。早速行きたい所だけど、まずはバッカスさん達にお礼を言わなくちゃね。
「バッカスさん、それに皆さんも。ここまで連れてきてくれて、ありがとうございます」
「良いって事よ。しっかり報酬も貰ってるしな」
バッカスさんが、お金が沢山入った袋を見せてくる。
「ところで、早速依頼を受けたのか?」
「はい、これからゴブリンの討伐に行く所です」
「この依頼を達成すれば、情報がもっといっぱい手に入るようになるんです」
「成程、あなた達が探してる人を見つけるには、まずは情報が必要だものね。情報を貰えるってんなら、そりゃあやらない訳にはいかないよね」
「お2人なら心配は要らないとは思いますが、無事をお祈りします」
「頑張ってこい」
「「はい!」」
そんじゃ早速、ゴブリン退治に行きますか!
*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*
依頼書によると、討伐を依頼されたゴブリン達がいるのは、王都の西側にある街道沿いの森。依頼達成条件は、全てのゴブリンの討伐。倒したゴブリンの死体は焼却処分するみたいけど、片耳だけは証拠品として残しておかないといけないらしい。
「また ”指魔弾” に頼るか」
今のあたしは力が強すぎて、原型を留めて敵を倒せる技が限られてる。基本は ”災禍魔槍” を使った槍技を使う事になるだろうけど、それでも強すぎる時は ”指魔弾” に頼るしかない。
………因みにケラウノスとグングニルは、今回全く手伝ってくれないみたい。訳を聞いたら『こんな雑魚共の相手をしたら品位が下がる』だってさ。
「あ、お姉ちゃん。この辺りじゃない?」
街道を西にしばらく進んで行くと、鎧を着た兵士っぽい人達が集まってるのが見えた。多分、規制線を張ってるんだね。雰囲気が物々しいし、ここがゴブリンの出現場所と視て間違いないね。
「あの~、すみません。ギルドの依頼でゴブリンを討伐に来た者ですが、ここがそうですか?」
「そうだが、君ら見ない顔だな。新入りか?」
「はい。一華って言います。こっちは弟の改人です」
「よろしくお願いします」
「俺はここで指揮を執ってるゴドーってもんだ。それで、君達はゴブリンを討伐に来たと言ったが………本当に出来るのか?」
「と言うと?」
「君達はどう見ても子供だろう。特に少年など、軍服に不釣り合いな程幼いじゃないか。こう言っちゃ悪いが、とても君達がアイツらを倒せるようには見えないんだが………」
「むぅ、失礼ですね。僕達こう見えて、か――――」
「あーーー、あはは、そうですよね~~。まぁでも大丈夫ですよ。どうにかなりますから」
あっぶね~~! 改人の奴、今さらっと ”神” って名乗ろうとしてた。んな事したら余計怪しまれる!
《改人、あたしらが神様なのはなるべく秘密にね》
《ご、ごめんなさい………》
《改人が謝る事じゃないよ。先にあたしが言っとけば良かった。ごめんね》
《大丈夫だよ。僕もこれから気を付けるね》
「どうにかと言うがな………やはり信じられん。ギルドの連中め、失敗続きだからと人材派遣が適当になってるんじゃないか?」
「そんな事ないと思いますよ?」
「寧ろライルさんは、真面目に考えた上であたし達2人を送り込んだと思いますけど?」
「やれやれ、真面目に考えて君達を送り込んだのなら、ライルさんも曇ったな。ともかく、君達のような子供を、この戦場に巻き込む訳にはいかん。下がってなさい」
「え、いや、それは――――」
「隊長! 奴らが来ました!」
兵士の1人が大声を上げた途端。森から何かが出てきた。
「ギギィ!」
「ギギギィ!」
数はざっと見て100くらい。人間っぽいフォルムに緑色の肌、目は黄色で口には牙がズラリと並んでる。アイツらがゴブリンか。
「また来やがったか、ゴブリン共め!」
「た、隊長! ジェネラルも来ます!」
「何!?」
その言葉通り、今度は身長3メートルはある一際大きなゴブリンが現れた。他の奴らとは格が違う。コイツがゴブリンジェネラルで間違いないね。
「ゴブリンがレベル500~1000くらいで、ジェネラルがレベル1500くらいか。割と強いですね」
「そうなんだ。本来ゴブリンはレベル50程度。ジェネラルでも300くらいだ。なのにコイツらのレベルはその数倍。恐らくゴブリンの上位種、ホブゴブリンって奴だ」
『鑑定眼』でちゃんと見てみると、確かにホブゴブリンって表示される。説明文によれば、ゴブリンの中から稀に生まれる上位種らしい。それが100もいて、率いてる奴もホブゴブリン。それなりの手強さだね。
「ギギィッ!!」
『ギィーーー!!』
ジェネラルが指示っぽい動きをすると、ゴブリン達がシ〇ッカーみたいなポーズを取って、一斉に襲い掛かって来た。
「来たぞ! 迎え撃てぇ!」
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』
対するこっち側も、ゴドーさんの指揮で兵士達が迎え撃つ。でも、ここにいる兵士達のレベルは、いってもせいぜい500程度。しかも10人くらいしかいない。ホブゴブリンの集団にはとても太刀打ち出来そうもない。
「ダメです! 守り切れません!」
「怯むな! お前達の故郷が、今どういう状況なのかを思い出せ!」
『!!!』
「街道沿いにコイツらが現れるようになったせいで、最近は西からの商人が減ってしまった。モンドさんが頑張ってくれてはいるが、このままでは王都の財政が破綻するのは時間の問題だ! 何としても、コイツらは討伐しなければならんのだ! 今日こそコイツらとの戦いに、決着を付けるぞ!」
そう叫ぶと、ゴドーさんも腰の剣を抜いて、ゴブリンの群団に斬りかかった。途端に兵士達の志気も上がって、ゴブリン達を押し返し始めた。
それにしても、随分困ってるみたいだ。これは早急に対応しないとだね。
「ゴドーさん、あたし達も戦います!」
「は? 冗談はよせ! コイツらは子供が勝てる相手じゃない!」
「子供子供って、子供舐めすぎじゃないっすか?」
「何?」
「心配してくれて、ありがとうございます。でもゴドーさん。僕達、普通の子供じゃないんです。それを今から、お見せします」
そう言って、改人がスッと指で線を引くと、いきなり5体のゴブリンの首が一斉に切られた。
『っ!!?』
『ッ!!?』
兵士とゴブリン、双方共に驚愕の表情を浮かべて固まってる。………そりゃあ、指で線引いただけで首が飛んだら、そうなるよね。
「どうですか? 僕達なら指だけで、”首と胴を泣き別れ” に出来ますよ!」
『首と胴を泣き別れ!!!?』
怖い怖い怖い!! 良い笑顔でなんて事言うのこの子!! とても10歳の言動とは――――あ、実際は1000歳越えだっけ? って、そんな事どうでも良いんじゃ!
「か、改人!? くれぐれも、遊びでやらないようにね!?」
「何言ってんのさ? そんな事しないよ! もう二度と、徒に命を奪うのなんて、ごめんだからね!」
「………そうだね、愚問だった」
「それはそうと、早くコイツら倒して、街道の平和を取り戻さなくちゃ!」
「だね! あたしが右から行く。改人は左から!」
「ラジャ!」
あたしは ”災禍魔槍” を、改人はエクスカリバーとスヴェルを手にゴブリン軍団に突っ込んだ。
「ギ、ギギィッ!!!」
『ギィーーー!!』
本能的に危機を感じたのか、再びジェネラルが指示を出す。ゴブリン達はその指示に忠実に従って、あたしらに迫ってきた。
「温い温い」
「それで全速力なの?」
あたしらはゴブリン達の側面に移動して、左右から同時に一突きした。一撃でその場に衝撃波が発生して、ゴブリン達はその衝撃波でミンチになって、後には血溜まりだけが残った。
「「後はお前だけだ!」」
「ギィ………ギギィィィィィ!!!!」
最早勝ち目が無いと悟って、ジェネラルが逃げ出した。でも残念。逃がす気は無いんだよね。
「改人、やっちゃって!」
「ラジャ! ”断頭境界”!」
技名こっわ。
「ギィ………!」
”断頭境界” を食らったジェネラルは、呻き声のような物を上げて絶命した。これで依頼は完了! あれ、でもな~んか忘れてるような………?
「………あぁ! しまった! 討伐証明で耳持って帰んなきゃなのに、ミンチにしちゃった!」
「ど、どうしようお姉ちゃん!? これじゃあ情報貰えないよ………」
「いや、落ち着こう。最初の5体とジェネラルは原型残ってる。取り敢えずコイツらの耳は持って帰ろう。それと、この血溜まりから耳の破片も出来る限り集めて持って帰れば、何とかなるはず!」
「そ、そうだね! じゃあまず耳を取って、それから――――」
「あ~~、君達。ちょっと良いかな?」
「あ、ゴドーさん!」
やっべ、そういえば止められてたのに勝手に動いちゃったんだった。
「ごめんなさい、勝手に動いちゃって………」
「いや、それは良いんだ。それよりも討伐証明についてだが、ジェネラルと残り5体の耳だけで大丈夫だぞ?」
「え、そうなんですか?」
「あぁ。残りの奴らの討伐については、俺達全員が目撃してるからな。何か聞かれたら、俺達が証人だと言ってくれ」
「「ありがとうございます!」」
「礼を言うのはこっちさ。まさか、俺達を悩ませていたあのゴブリン共を、たった2人で倒しちまうとはな。さっきは疑ったりしてすまなかった。そして、アイツらを討伐してくれた事、感謝するよ」
ゴドーさんと兵士さん達が、一斉に頭を下げて来た。最近、頭下げられる事多いよね。
「いえ、そんな。あたしらは依頼を受けただけですから。ところで、ゴブリンジェネラルがゴブリンを率いて現れるのって、よくある事なんですか?」
「まさか! そもそもジェネラル自体珍しい存在だ。ましてやそれが部下を引き連れて自ら出撃だなんて、普通じゃ考えられない」
「じゃあ、ジェネラルの軍団が複数いるのって、どのくらい珍しいですか?」
「そんなのはもう異常事態としか言えないが………何故そんな事を聞くんだ?」
「だって、まだ森の中にジェネラルの軍団が複数潜んでますから」
『っ!!?』
全部で10団体。さっきの規模のゴブリンの軍団が、ここから10キロ離れた所に点在してる。それも、あたしらを囲むように。
「き、君! その話は本当なのか!?」
「えぇ、さっきから囲まれてますよ」
「そんな………!」
「もうおしまいだぁ!!!」
兵士さん達が絶望の表情を作る。でもこの程度、大した問題じゃない。
「改人、”空間境界” を開いて! あたしがぶち込む!」
「任せて! ”空間境界” 解放!」
その瞬間、あたしらの周りに10個の空間の裂け目が開かれる。そしてその先には、ジェネラルが率いるゴブリン軍団の姿が。
「ギッ!?」
「ギィッ!!!?」
2、3体くらい、こっちに気付いた奴がいた。けど、もう遅い!
「”指魔弾”!!」
指の先から放った魔力の弾丸が、ゴブリン達の脳天をぶち抜いていく。いくら手加減しているとはいえ、仮にも神のあたしの攻撃を、ゴブリンジェネラルが耐えられるはずもない。兵士さん達が死を覚悟する程のゴブリンの軍団は、ものの数秒で片付いた。
「改人、耳の回収と死体の焼却、お願いして良い?」
「ラジャ!」
改人が術を発動すると、いきなり大量のゴブリンの耳が目の前に降り注ぎ始める。そんで残った死体は、何の前触れも無く突然燃え始めた。
「き、急に空間が裂けたと思ったら、ゴブリン共が皆死んで、耳が降って来て、燃えた………? どうなってんだこりゃ?」
「あぁ、改人は空間を操れるんです。その力の応用で、耳だけ切り取ってこっちに転送したり、目にした空間に火を付ける事も出来るんですよ」
「マ、マジか………」
ゴドーさんが言葉を失う。これでも大分ナーフな説明で、本当はそんなレベルの話じゃない。
改人が今やったのは、”理の歪曲”。【歪曲改変】が進化して発現した統合能力『摂理歪曲』で、本来ありえない事象を引き起こしたんだ。いきなり耳が集まったのは ”認識したら自動で耳が転送される” ように、死体が燃えたのは ”目に映ったら燃える” ように、改人がゴブリン達の死体の理を捻じ曲げたから。本当に、末恐ろしい子だよ………。
「それにしても隊長。ジェネラルが同時にこんなに湧くなんて、おかしくないですか?」
「あぁ。コイツは、キングとクイーンの存在を疑わないといけなねぇな」
『っ!!!』
キングと、クイーン?
「何ですかそれ?」
「ゴブリンやホブゴブリンはな、時折ジェネラルの中から種を纏め上げる番いが生まれるんだよ。種の繁栄の為にな」
「それが、キングとクイーンですか?」
「あぁ。奴らはとにかく繁殖力が凄くてな、放っておくとジェネラルを含む数千のゴブリンの大軍勢が生まれる。もしも今の奴等が全てキング共が生み出した個体だとしたら、群れの規模は相当な物だ。多分どっかに巣があって、最低でも数百のゴブリン共が集結してるだろうな」
って事は、気配が集まってる所を探れば、巣を見つける事が出来るってわけか。………よし、どうせなら巣諸共潰しちゃおう! それで感謝されれば、もっといっぱい情報が貰えるかもしれない。ついでにパフェも貰えれば………あ、あくまでついでだからね?
「え~、気配は~っと」
『?』
「………あった! これだ!」
ここから北へ進んだ森の中に、それなりに強い気配が集まっている。数百規模の群れ。いや、数だけなら1000を越えててもおかしくない。
「皆さん。多分ですけど、ゴブリンの巣を発見しました」
「何、本当か!?」
「はい。何か洞穴みたいなのがあって、その奥にモンスターの気配が集まってる場所があります」
「じゃあ、早速突撃しようよ!」
「ま、待て! まさか、たった2人で巣に攻め込むつもりか!? それはダメだ! いくら君達が強くても、分が悪すぎる! 一度王都に戻って、ギルドと騎士団で合同討伐隊を編成しないと!」
「そこまでしなくても大丈夫ですよ。あたし達なら1人でも殲滅可能な規模です。何ならオーバーキルですよ」
「”おーばーきる” ? よく分からんが、ダメだ! 絶対に行くな!」
「じゃあ、30分だけ待っててもらえませんか?」
「30分だと?」
「はい、この程度の規模なら多分30分で片付くと思うので、それまでここで待っててほしいんです。戻ってこなかったら、討伐隊を呼んでください」
「………本気なんだな?」
「えぇ、もちろん」
「………分かった」
「た、隊長!? こんな子供を信じるんですか!?」
「お前も見ただろう? さっきの戦い、いや蹂躙を。はっきり言ってこの2人は、俺達がどうこう言える次元の強さじゃない。ならば、一旦2人に任せてみるのも手じゃないか?」
「それは………」
「ただし、ここで待っているつもりはない。君達がやられた場合、刺激されたゴブリン共が街へ攻め込んでくる可能性がある。故に、俺達は洞窟の入口で待機し、洞窟から出てくるゴブリンに備えるんだ。それで良いか?」
「あたしは別に」
「僕もです」
「お前達はどうだ?」
「………俺達は隊長の部下です。隊長の判断に従いますよ」
『おぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
やれやれ、結局全員で行く流れになっちゃったじゃん。そんなに心配しなくても大丈夫なのに。
「皆の者! 気合い入れろぉ!」
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』
しかもなんか勝手に盛り上がってるし。でも、それだけこの人達にとって、ゴブリンの王の番は厄介な存在って事だよね。これは、ちゃっちゃと終わらせないとだね。
「じゃあ、早速洞穴に向かいましょう。皆さん、しっかり着いて来てくださいね。改人」
「ラジャ! ”空間境界”!」
改人が空間の裂け目を開く。その先にあるのは、ゴブリンの巣があると思しき洞穴。近くで見ると余計に気配が強く感じられるけど、関係ない。あたしらはゴブリン討伐の為、裂け目を潜って洞穴へと向かった。




