第19話 いざ、冒険者デビュー!
「こちら、金貨10枚になります」
「わぁ、重たい………!」
「お姉ちゃん、無くさないでね?」
「もちろん!」
「では、次はモンスターの素材を納品していただきます。お手数ですが、地下までお越しください」
「「はーい!」」
契約を終えたあたしらは、ネルソン商会本店の地下に案内された。本店の地下にはモンスターを解体して素材を集める部屋があって、あたしらの持つ素材もそこに納品する事になった。
「そんじゃ、これ全部お願いします!」
あたしは【厄災箱】から、モンスター素材を取り出した。部屋にいた人達が皆腰抜かして倒れちゃったけど、モンスター素材の納品は完了。次はいよいよ冒険者ギルドだ!
「それではバッカス様、一華様たちをよろしくお願い致します」
「おう、任せとけ。報酬も貰ったし、きっちり届けてやるさ」
「「よろしくお願いします!」」
冒険者ギルド。どんな所か楽しみだ。
*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*
言い忘れてたけど、この王都パフィオの中心には、デカくてゴツい城がある。商会を出てその城に近付く方へ歩いて行くと、木造2階建ての建物が見えて来た。作りは普通だし外見も質素だけど、どこか荘厳な気配を感じる。
「ここが冒険社ギルドだ」
「ここで光希の情報が………!」
「あぁ。だがその前に、冒険者登録が必要だ。冒険者ギルドが情報を渡すのはギルドと懇意にしている出資者と、登録した冒険者だけだからな」
「じゃあ僕達、冒険者にならないといけないんですか?」
「そう不安そうな顔をするなよ、改人。書類に記入して、その情報を書き込んだカードを貰うだけだからさ。大した事はねぇよ」
へぇ、じゃあ大丈――――待って? こういうのって確か、フラグって言うんじゃ………?
「どうした一華ちゃん? 急に黙り込んじまって」
「………いえ、何でもないです」
ま、仮にフラグだったとしても、こうなりゃなるようになれだ。
「行くよ改人」
「う、うん………!」
あたしらは扉の取っ手を掴んで、一呼吸置いて目を瞑ったままギルドの扉を引いた。
バキッ――――
嫌な音がして目を空けてみると、目の前から扉が消えて、ギルドに大きな穴が空いている。中の人達のほとんどが、目と口を限界までかっ開いて驚愕の表情を作りながらこっちを見てる。そして、あたしらの手には、ギルドのドアが握られていた。
「「………あ」」
やっちまった。どうやら勢い余って、扉をひっぺがしてしまったみたいだ。
「あぁ………すまない。その扉は、押すんだ」
「「もう遅いですよ」」
ってか、そういう問題じゃないだろ。
「と、とりあえず、挨拶しよっか。ね?」
「そ、そうだね」
「「こんにちは~~………」」
『…………』
誰も返事をしてくれない。まぁそうだよね。いきなり軍服を着た子供2人が、扉ぶっ壊して現れたんだもんね。そりゃ言葉も失うよ………。
「………もしかして、冒険者志望の方ですか?」
少し経って、奥のカウンターっぽい所から、イケメンのお兄さんが声を掛けてくれた。
「あ、あぁ! そうなんだよライル! この2人の冒険者登録を頼むぜ」
「分かった。すぐに用意しよう。2人共こちらへ」
「「は、は~い………」」
あたしらがギルドに一歩足を踏み入れた瞬間――――
「ぷふっ!」
「「???」」
『ダァーハッハッハッ!!!』
突然、ギルド内部が笑いに包まれた。え、もしかして、あまりの恐怖で壊れちゃった? ど、どうしよう!?
「お姉ちゃん、この人達恐怖で壊れちゃったの?」
「かも、しんないね………」
「ちげぇよ(笑)。おいおいお前ら、そんな笑ってやるなよ」
「わりぃ。つい可笑しくなっちまってよ」
「急すぎて理解が追い付かなかったけど、あはは! 面白い子達ね! 登録してから問題起こす奴はごまんといるけど、まさか登録前に問題起こす奴がいるとはね!」
「しかもよりによってギルドの扉をぶっ壊すとはな! ほんと、どエラい新人が来たもんだぜ!」
なんだ、本当に可笑しくて笑ってたんだ。………ってか、そう考えると恥っず!
「うぅ………」
改人なんて、顔真っ赤にして体中から湯気が立ってるし。ま、それはあたしもなんだけどね。あ~あ、最初は完全に失敗だ。
そんな羞恥地獄を抜けてカウンターに辿り着くと、さっきのライルって人が応対してくれた。
「さて、お2人は冒険者志望ということですが、冒険者がどういう存在かは知っていますか?」
「え~と………」
「全然です」
「そもそも冒険者と言うのは、我々ギルドが発注した依頼をこなしていく便利屋のようなものです。依頼はあそこの掲示板に貼られていますので、そちらをご覧ください」
右の壁の方を見ると、紙がビッシリ貼り付けられたボードがある。あの1つ1つが依頼ってわけか。
「もちろんその中にはモンスターの討伐も含まれていますから、一定以上の実力は確実に必要になります。………もっとも、お2人にはそんな心配無用でしょうけど」
「「ははは………」」
自分でもびっくりするくらい、乾いた笑いが出た。
「冒険者は、実績に応じてランク分けされています。ランクは下からF, E, D, C, B, A, S, SSとランク分けされております。お2人は初めてですので、ランクFからのスタートになります」
「おいおい、強化魔法まで掛けてあるギルドのドアを引っぺがせる奴らが、Fランクからってどういう事だよ。どうみてもソイツら、Fランクに収まる器じゃねぇだろ」
「そうよ! 絶対おかしいわ! せめてDランクからスタートさせるべきよ!」
周りから、あたしらのFランクからのスタートに対する抗議が殺到する。
「すみません。こればかりは規則なので、例外は認められません」
「ちっ、融通の利かねぇ奴らだぜ」
「頭カチコチにも程がある」
「ぼ、僕だって本当は――――」
「皆さん、僕達は大丈夫ですから。落ち着いてください」
「し、しかしよ………」
「あ~、確かにあたしらは強いっすよ。でも冒険者って、強さだけで成り立たないんじゃないっすか?」
「っ! た、確かに」
「あたしら基本戦いしか出来ないんで、そういう意味じゃ皆さんから学ぶ事が沢山ありますから。駆け出しのFランクくらいが妥当ですよ」
「それに、ランクって上げられるんですよね、ライルさん?」
「えぇ、順当に依頼をこなして、条件を満たせばランクアップは可能です」
「ほら。今はFでも、いずれ上に行く事は可能ですから、特別扱いなんて無くても大丈夫ですよ。でも、皆さんが応援してくれて嬉しいです。ありがとうございます!」
改人が綺麗なお辞儀を見せる。弟だけにそんな事をやらせる訳にはいかない。あたしも大慌てで頭を下げた。
「い、良い子………! 強い上にピュアボーイだなんて………!」
「よっしゃ、こうなったらしっかり指導してやるから、覚悟しとけ!」
「薬草の事なら私に聞いて頂戴。お姉さんがミッチリ教えてあげるから」
改人の誠実さに心打たれて人達が、口々に支援を名乗り出てくれた。ほんと、凄いよね改人は。ただ誠実に、ひたむきに生きる。これって凄く難しい事なのに、改人はそれが出来てる。権能やギフトの力は人の器によるって話だけど、改人のこういう所を見ると、【境界】のあの無茶苦茶な強さも納得だ。
「コホン! え~、話が逸れましたが、お2人共Fランクからのスタートと言う事で、よろしいですね?」
「「はい!」」
「では、こちらの水晶に触れてください」
「何ですこれ?」
「名前と顔を記録できる魔道具ですよ。レベルやスキルと言った個人情報は調べられませんのでご安心を」
あ、それ調べられたらヤバかったかも。今後はそういうのにも気を付けないとだね。もしあたしらの本当の力がバレたら、化け物扱いされちゃうもの。
「んじゃ、まずはあたしから」
あたしが右手で水晶に触れると、水晶が突然光り出して、白いカードのような物が出てきた。
「こちらをどうぞ」
カードにはあたしの顔写真と名前が記録されていた。右上にFの文字が書いてあるのは、Fランクだって証明だろうね。
「次は僕だね」
改人も水晶に触れて、同じようにカードが発行された。取り敢えず、冒険者としての一歩は踏み出せたかな。
「これにて、登録は完了となります。イチカ=センバ様、カイト=サカイダ様。我々、イゴール王国冒険者ギルド本部は、お2人を歓迎します」
良かった、無事冒険者になる事が出来た。そんじゃ早速――――
「おいおい、どうなってんだこりゃ? 扉がぶっ壊れてんじゃねーか! 襲撃か!?」
早速光希の情報を探ろうとして、誰かがギルドに入ってきた。扉(跡地)の方を見ると、お洒落な赤いジャケットを着た大男がいた。しかもただの大男じゃない。体は人型だけど顔は狼そのもので、腕や足には真っ白な毛が生えてる。手には爪も生えてるし、なんなら尻尾もある。
………もしかしてこの人、クラヴィアが言ってた異種族?
「おぉ、ウルクス! 戻ったのか!」
「んな事より何だこれは!? 賊にでも入られたのか!?」
「いや、これは今日入った新人達がやったんだ」
「新人?」
「そこの軍服の子達だよ。女の子の方が一華で、男の子の方が改人。お二人さん、この人はAランク冒険者パーティ『白き牙』のリーダー、Aランク冒険者のウルクスだよ。すごく珍しい白狼の獣人で、ここパフィオの冒険者ギルドの稼ぎ頭なの。2人から見たら先輩だし、経験も豊富だから挨拶した方が良いよ」
ウルクスが視線をこっちに向けて来た。Aランクと呼ばれるだけあって眼光はかなり鋭い。それなりに威圧感もある。でも、アネリルスと比べたら全然弱い。
「どうも、一華です」
「弟の改人です。よろしくお願いします」
「俺はウルクスだ。にしても、軍服のくせに随分ひ弱そうな奴らだな」
「いきなり失礼じゃないっすか?」
「悪ぃな、あんまりにも小っせぇからよ。強くなりてーんだったら、俺みたくもっとデカくなるこった。ま、俺には絶対勝てないけどな! ガッハハハ!」
なんだコイツ、いきなりマウント取って来やがって。感じ悪っ。
「いやいやウルクス、コイツら多分相当強ぇぜ? 表の扉見ただろ?」
「はんっ! あんな扉くらい、俺だってその気になりゃぶっ壊せるさ。そんだけの力があるのは認めるが、俺には及ばねぇよ」
「それは、そうだが………」
「そんな事より、依頼の品を持ってきたぜ。風魔狼の魔石10個。これで良いよな?」
「えぇ、ありがとうございます」
「これくらい楽勝さ。報酬良いか?」
「少々お待ちを………どうぞ、報酬の銀貨50枚です」
「あんがとさん。んじゃ、またな」
「ありがとうございます」
「「…………」」
《あの人偉そうな事言ってたのに、倒したの風魔狼なんだね。僕達は単眼鬼達倒したのに》
《まぁ稼ぎ方は人それぞれって事でしょ。無理して強すぎる相手狙って、返り討ちにあうよりずっと賢い生き方だよ》
でも妙ではある。ウルクスは見た感じ、レベル2000はある。なのにわざわざレベル500の風魔狼を狙うなんて、どういう事なんだろう? 掲示板を見ると、レベル1000のモンスターの討伐依頼とかもある。ウルクスならそのくらい簡単にこなせそうなのに………。
《ま、どーでも良いや。今はそんな事より、光希の情報だ》
突然の乱入者で有耶無耶になってたけど、今度こそ光希に関係する情報を探らなくちゃ。
「あの、ライルさん。ちょっと良いですか?」
「はい、何でしょうか?」
「実はあたし達、人を探してまして」
あたしはモンドさんにしたような説明をライルさんにした。んで、光希達3人の特徴に合致する人物の情報が無いか聞いてみたんだけど………。
「そのような人物の情報は入っていませんね」
「そうですか………」
どうやら、空振りだったみたいだ。
「ですが、他のギルドには情報が入っているかもしれません。各ギルドに頂いた情報を共有して、それに合致する人物の目撃情報が無いか探る事も出来ますが、如何されますか?」
「早速お願いします!」
「お願いします!」
「ちなみに、費用として金貨1枚が必要ですが――――」
「「こちらをどうぞ!!」」
モンドさんから貰った金貨10枚の内の1枚をライルさんに差し出した。金貨1枚くらい問題ない。情報が最優先だ!
「分かりました。すぐに各地のギルドに問い合わせましょう」
「ありがとうございます!」
「よろしくお願いします!」
「ところで、お2人は依頼は受けられますよね?」
「まぁ、そうですね。稼ぎも必要ですし、登録した以上は」
「でしたら、こちらの依頼を受けていただけませんか?」
「「??」」
ライルさんがカウンターの下から、1枚の紙きれを取り出した。内容は平原のゴブリン達の討伐。ゴブリンジェネラルって言う上位種が率いる群れらしいけど、どうしてこれをあたしらに?
「あの、これBランクの依頼ですよね? あたしら登録初日のFランクですけど、大丈夫なんですか?」
そう聞くと、ライルさんは少し迷った後に、ヒソヒソ声でこんな事を話し始めた。
「本来Fランクが受けられるのはEランクの依頼までなのですが、今回は私の口利きで通しておきます。こう見えて、僕は人を見る目が優れていまして。なので分かるんです。お二人はこの場の誰よりも強い。それこそ、ウルクスさんですら足元にも及ばない程に」
「そんな事は、って言いたいけど、戦闘力に限ればそうですね」
「そんな2人だからこそ、この依頼をお願いしたいんです。この依頼、実は失敗が続いていまして。そろそろAランクの依頼に引き上げる所なんです」
「因みに、ウルクスさんには頼まないんですか?」
「その………ウルクスさんは、Bランクまでの依頼しか受けませんので………」
は? 自分のランクより1つ下のランクに収まった依頼しか受けないって事? 自分強いアピールしといて、ほんとに何なんだよアイツ。
「受けて頂ければ、Aランクの依頼としての報酬をお出しします。ついでにランクの引き上げと、ギルドの持つ情報の閲覧を、一部ではありますが許可致します」
「え、見られない情報とかあるんですか?」
「はい、機密情報もありますので………。でもそうでない物であれば、閲覧できるよう手配することは可能です」
「分かりました。その依頼、引き受けます」
「ありがとうございます。では、どうぞよろしくお願いします」
こうして、あたし達の初任務が決定した。
「気合い入れてくよ!」
「「おーーーー!!」」




