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第18話 助けた商人に連れられて

あたしらは今、偶然助けた商人モンドさんの馬車に乗って、モンドさんの商会の本店を目指してる。店に着いたら契約書にサインして、それが終わったら冒険者ギルドに行くつもりだ。ギルドで情報を得る為にはギルドへの登録が必要みたいだからね。


「それにしても、馬車って遅いんですね」

「お姉ちゃん、あまりそういうのは………」

「っ! ご、ごめんなさい!」

「いえいえ、事実ですから。あなた方から見れば、我々の馬車などカタツムリ――――とまでは申しませんが、些かのんびりしていると感じるでしょうね」


まぁ、実際その通りだしね。今のあたしらは、軽く一飛びしただけで、数十キロ先まで飛ぶ事が出来る。その気になればリニアモーターカーよりも早く走れるんだから、馬が遅いと感じるのも無理はない。


「ところで、契約ってお金が必要なんですよね?」

「えぇ。さらに言えば情報も無料ではありません。別途情報料が必要となります。もちろん、専属契約を結んでいただく訳ですから、商会の商品の割引サービスはさせて頂きますよ」

「でも、よく考えたらあたし達、一文無しなんですけど………」

「心配は無用です。先程の単眼鬼王(サイクロプス・ロード)の素材をご提供いただければ大丈夫ですよ」

「「素材?」」

「えぇ。モンスターの中には、体の一部を武具の素材として利用する場合があります。特に、モンスターの体内で魔力が凝縮されて出来る ”魔石” は、魔道具の材料に欠かせません。………お二人共、それを分かって回収されたのでは?」

「いえ、まったく」

「バッカスさん達から『回収しとけ』って言われたので」


実はあたし、馬車に乗る前に単眼鬼(サイクロプス)風魔狼(ウィンドウルフ)の死体を、全部【厄災箱(パンドラボックス)】に仕舞ったんだ。モンスターの死体を持ち運ぶなんてあんまやりたくなかったけど、バッカスさん達がやたら進めてくるから、仕方なく収納したんだよね。何でそんな事言ってくんのか疑問だったけど、成程、モンスターって売れるんだ。


「取り合えず、さっきの奴らの素材全部売れば、契約料には足りますか?」

「えぇ、それならば十分足りますよ。商会に着きましたら、契約の折にそちらは買い取らせていただきます」

「ありがとうございます! ――――っ!」


上の方から殺気を感じる。かなりの数だ。しかも、どんどんこっちに近付いてる。


「皆さん。敵です」

「まぁ、またですの?」

「今回の旅では、モンスターとよく出会うな」


気配からして、敵勢力はバッカスさん達4人を遥かに上回る力を持ってる。あたしが1人で暴れるのが、一番被害が少なくて済むはず。


「バッカスさん達だと厳しそうなので、あたしが応戦します」

「俺らとしちゃあ複雑だが、確かにその通りだ。頼んだぜ!」

「了解!」


まずはとりあえず、『鑑定眼』だ!


「え~っと、コイツらは………翼蜥蜴(ワイバーン)、レベルは1000程度。主な攻撃方法は炎のブレスか」

「数は多いけど、僕達なら楽勝だね」

「一撃で仕留めてやろう。”空間境界”」


あたしが右手を翳すと、目の前に空間の裂け目が出来て、翼蜥蜴(ワイバーン)の群れがこっちに向かって来てる様子が確認できた。後は【歪曲改変(ディストーション)】の波動でも放てば、コイツら仲良くミンチに出来る。


「一華様、少々よろしいでしょうか?」

「何ですか?」

「モンスターの素材は、状態が良い物程高く売れます。そこで今回の翼蜥蜴(ワイバーン)なのですが、余裕があれば、なるべく傷を付けない方法で倒していただきたいのです。そうしていただければ、当商会で可能な限り高値で買い取らせていただきます。もちろん、状態が悪くてもそれなりの額で買い取りは致しますが、如何なされますか?」


………ある意味、挑戦状だね。

なるべく傷付ける事なく、最小限の力で急所を打ち抜いて倒す。それがあたしに出来るか否かって事だ。これは、やるしかない!


「その挑戦、受けて立ちますよ」

「流石は一華様。では、よろしくお願いします」


むむ? 何か笑ってるぞ? さてはこの人、あたしの人となりを見て、あたしならこう答えるって分かってたな? 食えない人だよ。


「……ま、いっか。そんじゃ、チマチマと1体ずつ倒していきますかね」

「でもお姉ちゃんの攻撃って、ほとんど天変地異クラスでしょ? アイツらの原型を留める事なんて出来るの?」

「………今さらっと恐ろしい事を聞いたような?」


あ~~、聞き間違いじゃないかな~~~?(棒)

ともかく、アイツらを綺麗な状態で倒す事は、決して不可能じゃない。


「手加減の方法はあるよ。見てて、”指魔弾(フィンガーショット)”」


子供がやるみたいに右手を銃の形にして、人差し指に魔力を集める。んでもってそれを打ち出してやると、1頭の翼蜥蜴(ワイバーン)が頭を貫かれて落下し始めた。


これまでのあたしの技は、大規模な破壊を齎す物ばっかりだった。けどこれなら、そこまで派手な破壊を齎す事なく敵を倒せる。魔力は有り余ってるし、なんなら使った傍から回復するし、いくらでも連射可能だ。


「続いて、【厄災箱(パンドラボックス)】!」


落ちていく翼蜥蜴(ワイバーン)の下に黒い穴を展開すれば、自動的に翼蜥蜴(ワイバーン)が【厄災箱(パンドラボックス)】に入って来る。こうすれば、翼蜥蜴(ワイバーン)をほとんど傷つける事なく回収する事が出来る。


「どんどん行くよ!」


指魔弾(フィンガーショット)” で打ち落として、【厄災箱(パンドラボックス)】にしまう。そんな事を繰り返して約5分後、翼蜥蜴(ワイバーン)を1匹残らず倒す事が出来た。


「見ましたモンドさん? 翼蜥蜴(ワイバーン)20匹。ちゃんと買い取って下さいね?」

「えぇ、もちろん。喜んで買い取らせていただきます」


よし、お小遣いゲット! 後で改人と一緒に美味しい物でも食べに行こう!


「皆様、目的地が見えて来たようです」

「「デッカーーーい!!」」


モリスさんに言われて窓の外の景色を見てみると、超デカくて立派な石造りの壁が見えてきた。


「あそこに商会があるんですか?」

「えぇ。こちら、イゴール(・・・・)王国の王都 ”パフィオ” に、我らがネルソン商会も本店を構えさせていただいております。この先にある検問所を通過すれば、本店までもう少しです」

「「検問所?」」

「あの壁の下の所に、幾つか検問所という物がありましてね。外から来た者に犯罪歴などが無いか、衛兵達が調べているのです。その際、身分証が必要になるのですが………」

「身分証?」

「お姉ちゃん、”みぶんしょー” って?」

「自分の身分を証明する為のカード、かな?」


でも、この世界でのあたしらの身分なんて、無いも同じだ。どうしよう。


「その、あたし達、身分証が無くて………」

「そういう事でしたら、検問所で仮身分証の発行が可能です。費用は私が負担致しましょう」

「良いんですか?」

「ありがとうございます!」

「いえいえ。これも未来への投資と思えば、安い物です」


そう言って、モンドさんはまた強かな笑みを浮かべた。




*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*




検問所でのやり取りは、すんなりと進んだ。


「お、モンドさん! いつもお世話になっております!」

「こちらこそ、いつもご贔屓にしていただき、誠にありがとうございます」


どうやらこの人、衛兵達と顔馴染みみたいで、あたしらの為に顔を利かせてくれたんだ。お陰で身分証の発行もすぐに終わって、思っていたよりずっと早く街に入る事が出来た。


「さてと。そんじゃ、俺達はここまでかな」


急にバッカスさんがそんな事を言い出した。


「ここまでって、どういう事ですか?」

「俺達は冒険者ギルドで依頼を受けて、この街までモンドさんの護衛についてたわけよ。んで、もう街には着いたわけだし、任務完了って事でギルドに報告に行こうと思ってな」


そっか。この人達って冒険者だったんだ。言われてみれば、確かに定住してるって感じじゃないよね。冒険者ギルドについても結構詳しく知ってたし。


「そんじゃモンドさん。がめつくて悪いが、証明書を――――」

「その事なのですが、もう少し我々と共に来ていただけませんか? もちろん、別途追加料金はお支払い致します」

「ほう? それまたどういうわけだ?」

「一華様、改人様。お2人は我々と契約を為された後、冒険者ギルドへ向かう予定ではありませんか?」

「え? まぁ、そうですけど」

「その際、案内してくれる方がいた方が、心強いのでは?」

「「あ………」」

「成程、それを俺達に頼みたいってわけか」

「別にそんなの、お金貰わなくてもやりますよ?」

「いえいえ、これは心証の問題です。たとえ簡単な仕事であっても、皆様に追加の仕事を頼んでいるのは事実。なれば、皆様が報酬を得るのは当然の権利でございますから」


へぇ、超誠実じゃん。


「良いぜ。その依頼、引き受けた」

「ありがとうございます」

「あたしからも、ありがとうございます」

「よせよ。俺はあんたらに返しきれない恩があるんだからよ」


また言ってるよ。本当に、そんな風に気負わなくて良いのに。


「では、早速商会へ移動致しましょう。どうぞこちらへ」


どうやらモリスさんが案内してくれるみたい。後に続いて歩きながら、さりげなく周りを見渡してみた。


街は活気に溢れてて、あちこちで騒がしい音が聞こえてくる。人々の顔に陰りはない。市民がこれだけ豊かに暮らせてるって事は、良い統治者に恵まれてるって事かな?


「この国の王様って、どんな人ですか?」

「国民の利益を常に考え国中を駆け周り、種族間による差別の撤廃も進めておられる人格者でございます。ただ、やはり一国の王として、強かな面もお持ちです」


ってことはこの人、王様と会った事あるんだ。というより、多分定期的に会ってるなこれ。

………ほんと、モンドさんって何者なんだろう?


「確かに街の様子を見ると、そんな感じですよね。活気もあるし、表情も明るいし」

「えぇ。もっとも、他の地域ではそう上手くはいかないようですが」

「どうしてですか?」

「この国はかなりの広さですからね。王都を中心として周りの領土を切り分けて、それぞれの領土に領主を送り統治させております。ですがその中には欲に溺れ、不正を働いて私腹を肥やし、民を苦しめている者も少なからずいるようです。そうした者達を罰する為に ”監査局” が設置されているのですが、その監査局の中にも、欲に溺れる者が極少数いるようで………」

「一筋縄では、いかないんですね」


そういえば母さんも言ってた。組織ってのは巨大化する程、足並みを揃えるのが難しくなるって。成程、こういう事だったんだね。


「おっと、そうこうしている内に見えてきましたぞ」

「え、これ、ですか?」

「えぇ、こちらが当商会の本店にして、商会の総本部でございます」


そこにあったのは、デッカイお屋敷みたいな建物だった。デザインは質素だけど、所々高級感のある装飾みたいなのが施されてるし、今ももの凄い人で賑わってる。あたし含めて、ネルソン夫妻とモリスさんを除く全員が、その規模に圧倒された。


《お姉ちゃん、これ本当に店なの?》

《あたしもそれ思ったけど、こんだけ人の出入りが激しいって事は店で間違いないよ》

《総本部ってのも間違いないよね。かなり強力な結界が張られてるし》

《だね。幾つか強そうな奴の気配も感じるし、防御態勢も万全を期してるみたいだね》


「さぁ皆様、こちらへどうぞ」


あたし達は建物の中に案内されて、モンドさんの応接室があるらしい最上階を目指す。途中、すれ違った店員の人達が『いらっしゃいませ!』って挨拶されたけど、その店員さん達の礼がもう完璧だった。教育が行き届いてる事が良く分かる。

―――な~んて考えながら登ってたら、いつの間にかモンドさんの部屋の前まで来てた。


「着きましたぞ。どうぞ、中へお入りください。モリス、皆様に紅茶と焼き菓子を」

「畏まりました」


お、お菓子………!


《お姉ちゃん、涎が垂れてるよ》

《っ! す、すいません………》


ヤバいヤバい。甘味の事聞いただけで口元が緩むのは、あたしの悪い癖だ。


部屋に通されたあたしらは、中心のテーブルの両サイドに配置されたソファに腰掛ける。その正面にモンドさんとマリアさんが座って、バッカスさん達が机から少し離れた所に座った。そして、モリスさんが用意してくれた紅茶と焼き菓子をつまみにして、いよいよ契約の話が始まった。


「モリス、契約書は?」

「こちらに」


モリスさんが、字がびっしり書かれた紙を出してきた。多分契約の内容が書いてあるんだろうけど、困った事に読めない。そりゃそうだよね。異世界の文字だもん。日本人のあたしと改人に、これが読めるわけがない。


《仕方ない、『鑑定眼』》


あたしは自分と改人に『鑑定眼』を使って、契約書に書かれた文字を見てみた。すると、文字が日本語に見えるようになって、ちゃんと読めるようになった。


「ではこれから、当商会との専属契約について、ご説明させていただきます。内容としましては、こちらからは当商会の全商品の割引及び有事の際のサポートの確約、そして可能な限りの情報の提供をさせていただきます。お客様にはお買い物の際に当商会を優先していただき、商会への便宜を図っていただきます」

「『期限内に最低〇〇個商品を買って欲しい』みたいなのはありませんか?」

「ありません。大事なのは当商会と繋がりを持って頂く事ですから。そのような義務はありません」


良かった。武器防具を定期的に購入っていうのだけは勘弁してほしかったからさ、その点は安心だね。


「それから契約にあたり、お2人には契約金としてそれぞれ金貨1枚をお支払いいただく事となります」

「「金貨?」」


詳しく聞いてみると、この世界のお金は価値の高い順に、白金貨、金貨、銀貨、銅貨と区分けされてて、それぞれの間に100倍の価値の違いがあるらしい。つまり、例えば銀貨だったら1枚で銅貨100枚と同じ価値で、金貨は1枚で銀貨100枚と同じ価値だ。それを1枚ずつって事は結構な値段になるけど、足りるかな?


「あたしらが倒したモンスターを買い取ってくれるって話でしたけど、それで幾らくらいになります?」

「そうですね。まず風魔狼(ウィンドウルフ)ですが、こちらは少々状態が悪いので1頭で銅貨10枚。30頭いましたので銀貨3枚と言った所でしょう。翼蜥蜴(ワイバーン)は状態も良く、魔石もありますから1頭につき銀貨5枚。20頭ですから合計で金貨1枚になりますね。単眼鬼(サイクロプス)は魔石のみの買い取りとなりますが、その魔石のみで金貨1枚。5体なので金貨5枚になります。そして、本命の単眼鬼王(サイクロプス・ロード)ですが………こちら、魔石1つで金貨50枚となります」

「「ご、50枚!?」」

「魔石は、魔道具(マジックアイテム)魔法武具(マジックウェポン)。全部合わせますと、銀貨が3枚と金貨が56枚になりますね。こちらから契約金の金貨2枚を引いた、金貨54枚と銀貨3枚が、お二人へお支払いする合計金額となります」


銅貨にすると約54万枚! すっご! いきなり超金持ちになれんじゃん!


「ただ、流石に大金ですし、今後どうなるかも分かりませんので、取り急ぎお渡し出来るのは金貨10枚となります。残りのお支払いはまた後日となりますが、それでもよろしいですか?」

「大丈夫ですよ」

「ありがとうございます。後程、モンスターの素材は買い取らせていただきますので、よろしくお願いします。それでは、契約書の方にサインを」

「分かりました」


念の為に隅々まで契約書を見てみたけど、特にこれと言って怪しい点もない。あたしらは安心して契約書にサインした。


「これにて、専属契約は完了となります。契約書はこちらで厳重に保管させていただきますのでご安心を」

「念のため、コピーを1枚貰っといて良いですか?」

「えぇ、構いませんよ」

「ありがとうございます」


モンドさんを疑う訳じゃないけど、『何かあった時に必要になるかもしれないから、契約書のコピーは必ず貰え』って、母さんから口酸っぱく言われてきたからね。ちゃんと取っておかないと。


「では、前金のお支払いを済ませてしまいましょう。モリス、金貨10枚の用意を」

「はい、ただいま」


モリスさんが金貨10枚持ってくるまでの間に、あたしは早速光希の情報を求める事にした。


「それで早速なんですけど、情報いただいても良いですか?」

「えぇ、もちろん。お答え出来る範囲であれば」

「ありがとうございます。それじゃあ、光希=スミスって言う金髪の女の子の情報はありませんか? あたしと同じくらいの背丈と年齢で、髪型はポニーテール。刀が得意で、その腕は達人級です。後、髪の色の事に触れられると、めっちゃキレます」

「金髪の少女はいくらでもいますが、刀を持つ少女ですか。そう言った話は入っておりませんな。マリア、お前は何か聞いているか?」

「いえ。残念ながら、まったく」

「そうですか………」


考えてみれば、クラヴィアに飛ばされてあたしは4日経ったけど、光希はこっちに来てまだ1時間くらいしか経っていない。流石にたったの1時間じゃ情報は入らないか。


「ねぇ、一華さん? その光希さんだけど、他の方とは一緒じゃないの?」

「え~と、”ユリ=イトカワ” って子と、”ミソラ=アマノ” って子と一緒です。優里は髪が短くてピンク色で、背丈もあたしより一回り小さいです。美空は髪が黒のセミロングで、背が高かったです。2人共あたしと同じくらいの年齢でした」

「では、その子達の行方も一緒に探れば、案外すぐに見つかるのではなくて?」

「成程。では、それらの情報を元に、我々の方でも該当者がいないか探ってみましょう。冒険者ギルドにも依頼しておきます」

「え、本当ですか!? ありがとうございます!」


残念ながら有力な情報は得られなかったけど、光希を探し出す手立てが出来た! 一歩前進だね!


「それじゃあ、今度は冒険者ギルドに行こうか」

「そうだね。あっちはあっちで情報が集まってるって言ってたもんね」

「諸々準備したら、ギルドへ行こう!」

『おーーーー!!!!』

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