コテージ
目が覚めて、朝のルーチンをこなす。昨夜は宴会のあとは、いつも通り村はずれの森でストレージハウスに入った。ペプを撫でながら寝た。知らないうちに相当飲んだらしい。かなり二日酔いだ。
夢の中で何か敵の集団と戦った気がする。よく覚えてない。
スパーをお休みにして朝風呂に入る。こういうのは良くない。世界の滅亡の心配がなくなるまでは、二日酔いでスパーリングをサボるほど飲んじゃダメだ。まあ、たまにはいいか。
「ペプー、いいお湯だよー」
「ナア……」
いつものことだがペプは無理矢理お風呂に連れてこられて困っている。
風呂のあと村に顔を出すと、ニンニクの茎が枯れて、収穫時になっていた。
二房を俺の食用に確保して、他はまた畑を作って植えて、乾燥した黒いやつを粉々にして撒いて、ヒール水をかけた。昆虫の死骸は直接栄養になるわけではない。ミミズや微生物に食べられて肥料に変えられる。今すぐには効果は出ないが、畑の存続に必要なはずだ。畑に撒く前に別の場所で肥料を作るのが正しいやり方のようだが、めんどくさいからいいだろう。ヒール水があれば枯れそうにない。
肥料にするものは先に発酵させたほうがいいはず。発酵を促進できればいろいろなものが捗る。パンのふくらまし、調味料、そして酒。魔法でできないだろうか? 発酵魔法ってのはちょっと聞いたことがない。発酵っていうのは物を腐敗させることだから、毒魔法? 違うか。
この辺の知識は俺にはない。カリウムが必要とか連作とか窒素とか大事らしいが、覚えていないのかそもそも学んでないのか。とにかく有機物を腐りすぎないように発酵させればいいはずなんだが。
「タクヤ、コテージができた」
「早かったな」
「簡単でいいと言うからな」
コテージは、木材で作った床の四隅に柱を立て、天井も柱だけのすかすかな木組みだ。これをストレージハウスの小屋の隣に隣接して置く。
底に穴を開けた木箱に土を入れ、村に生えていたテキトウな草を植えてヒール水をかけた。小屋の外側の壁にライトのエンチャントをして、一日中光るようにしておく。これでストレージハウスで植物が栽培できる。
目的は空気清浄だ。毎朝のルーチンで空気を入れ替えているが、植物があったら入れ替えができなくても少しは安心だろうと考えた。いや、実際のところ気休めだということは理解している。プラント一つじゃ全然足りないことも。観葉植物みたいなものだ。
そういえば元の世界で、違法の気持ちよくなる葉っぱを、他人に見つからないように室内でこうやって栽培するってネットで見たことがある。図らずもそういう環境を作ってしまった。
違法の葉っぱはともかく、何か役に立ちそうな植物を植えようか。今は実験的に雑草を植えたが、見栄えがいい観葉植物をヒール水で促成栽培して街で売ってもいい。なんとなく文化的に売れそうな感じはしないが。ちょっと歩けばそこら中に植物が生えている生活環境にあえて植物を置こうとは思わないだろう。
だが、なんとかして南国の珍しい植物が入手できれば売れる可能性はある。元の世界でも、都会の一軒家の庭に椰子の木を植えるお宅が結構あった。実際は椰子の木に似たなんとかっていう寒くても大丈夫なやつだっけ。
野菜を育てるのもいいかも知れない。ニンニクでもいいし、フルーツみたいなものでもいい。俺のイメージではやっぱトマトだ。あとナスもあるが、俺はナスが苦手だ。
トマトはこの世界で売ってるのを見たことがない。生態系は元の世界とほぼ同じなのでどこかにあるはずだ。南の方だろうか? 入手して栽培すればひと財産になるどころか、独占すれば城が立つな。
ということで南の方に旅に出たい。海は飛行で越えられるだろうか? それよりボートを作って、シュートでモーターボート風にして海を渡るのがいいだろうか? そもそも自力で行かなくても船とか出てないだろうか? それなら貿易品がもっと流通してても良さそうだ。
そもそも、旅に出る時間的余裕はない。強くなって魔族を倒さないと。元の世界でも、温泉に行きたい、海に行きたい、世界遺産を見に行きたい、海の幸を食べに行きたい、と思ってても忙殺されてできなかった。こっちでも同じか……。
エリックのお隣さんから、昨日の大イノシシから作ったウインナーをもらった。元の世界では大好物だった。ウインナーと目玉焼きとご飯と味噌汁が標準的な朝飯だった。この世界のウインナーは味がかなり違う。ご飯に合う感じではない。そもそも元の世界でも、本場のウインナーがウリのビアホールと、おれんちの近所のスーパーで売ってるものとでは全然違った。まあそういうもんか。
お米も食べたいな。時代的に品種改良が進んでいないはずだから、元の世界で俺が食べていたものと全く同じお米は食べられないんだろうけど、日本の米が恋しい。
どうしたことか、今日はやたらと元の世界のことを思い出している。主に食べ物のことだ。二日酔いと関係があるのか? そんなことはないか。
村にいるとまた夜に宴会になりそうなので、ヨーギの町に行くことにする。
出る前に、芋を植えてヒール水で促成栽培させる。冬が近いらしい。まあ、この村は肉の備蓄がたくさんあるから飢えることはないか。
そういえば昔、ジャガイモはアメリカ産だからヨーロッパには無かったという話をテレビで見た記憶がある。ジャーマンポテトに関してはドイツ料理ではないとか言ってた。それは置いといて、ここの人々が中世ヨーロッパっぽいから、この場所はヨーロッパのどこかだと考えている。ジャガイモがあるということは、アメリカ大陸から持ってきた人がいるという事だ。カリブ海、いつか行きたい。原住民がいるのかな。モンスターだらけだったりして。いやs、冗談じゃなくありえる……。
ヨーギの町へは飛行で移動した。途中の森で骨先生とスパーをした。今朝はだるくてサボった筋トレもちゃんとやって、ヨーギ近くについてからシャワーを浴びてスッキリした。夕方になっていた。
広場の露店で食料を買い、一通りの店を周って居酒屋に入った。店ではイグレヴ王国との戦争の話で持ちきりだ。王都では傭兵を募集しているという。勝手にやってろとは思うが、エリース村や冒険者ギルドの人たち、シンシアの街の人たちの事を思えば、隣国が攻めてきたら防戦には参加するんだろうと覚悟している。国王はともかくリーゼロッテには元気でいてもらいたいし。
ルスランの居場所が分かれば俺の方から攻め込んでもいい。ゲリラ戦と言うか暗殺だ。今のままじゃ勝てるかどうか不安なのでもうちょっと準備してからの方がいいが。シスターに聞けばあいつの居場所がわかるだろうか? そもそもシスターは、なぜ俺に襲撃の事を伝えに来たのだろうか? シスターはイグレヴ王国側の人間なんだよな……? 違うのかな?
考えてもわからないので、居酒屋を出て町外れの森でハウスに入り、エンチャントでマナを使い果たして、ペプと一緒に寝た。
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次回配信は10/7です。




