エルヒュ
目が覚めて、朝のルーチンをきちんとこなし、骨先生たちとスパーをして、シャワーを浴びた。
森に出て実験をする。
ストレージから大木を出し、地面に置く。スケルトンを一体出して斧を渡し、
「切れ」
と命令したら、顎をカクカク鳴らしたあと、斧で木を切り始めた。やたらとペースが速い。
俺がやるとしたら、斧を振り上げるときは下から横に回して背負い投げの要領で頭の上まで持ち上げる。斧を振り下ろす動きの逆をやると、腕にも腰にも負担が大きい。前のめりになっているので、片足を前に出して踏ん張るという無駄な動きになる。
それをスケルトンは振り上げて、切って、そのまま振り上げて、切ってと、まるでピストン運動のように斧を振り下ろす。数十秒で直径五十センチの大木を切り終えた。
五十センチの太さでどんどん切れと言うと、顎をカクカク鳴らしたあと、黙々と作業に取り掛かった。まあ、そもそも喋れないんだけど。大木は数十分で丸太に変わった。
試しに俺も薪割りをしてみる。斧で丸太を縦に割るのだが、筋力アップのエンチャントのおかげか、かなりさくさくと割れる。試しに斧にプロテクションのエンチャントをすると、少し大げさだが、包丁で大根を切るようにさくさくと刃が通った。
——これじゃ筋トレにならないな……
まあ、エンチャントアイテムを外せばいいのだが……。
斧をスケルトンに渡し、薪割りをさせた。スケルトンはしゃがんだ姿勢でさくさくと薪を割っていき、八割ほど作業を終えたところで動きが止まった。
——マナ切れか……
設定値を最強にした、短時間しか保たないタイプのスケルトンだった。プロテクション斧があれば長時間タイプでも同じことが出来そうだ。しかしなあ、薪を作って売ってもあんまり儲からないんだよな。
作った薪は、ストレージに入れて真空乾燥させる。
別のスケルトンを出し、斧、プロテクションナイフ、彫刻刀、乾燥した木切れを渡す。以前に露天商で買った木彫の猫のオブジェを見せて、
「これと同じ物を掘れ」
と命令したら、顎をカクカク鳴らしたあと黙々と木を削り始めた。
三分ほどで一個完成した。どんどん作らせる。これにライトをエンチャントすれば売れる。薪より儲かる。ヒートをエンチャントしてみるのもいいかも知れない。いわゆる使い捨てカイロだ。チャージすればまた使えるけど。アイスのエンチャントもできる。いろいろ使えそうだが冬は要らないだろう。
犬のオブジェを掘れと言ったら固まって動かなくなった。猫でいいと言ったら作業を始めた。見たことないものはダメらしい。
スケルトンがこんなにも使えるとは。単純作業なら教えれば何でも出来そうだ。エリックがやってることを教えれば、木から家を作ることも出来るんじゃないのか。まあ、マナ効率が悪いからなんでもかんでもってわけにはいかない。
スケルトンが作業している間に、俺は鍋を火にかけて豚骨を煮込む。どっちもずっと見ている必要はないので、もう一回骨先生たちとスパーをした。
スパーは対人戦をイメージする。崩して隙をついて大技に繋げる。例えば、ジャブパンチを当ててから脚にストレージショット、ローキックがヒットしたらロックフォール、ロングメイスで距離を取って、カウンターのブラインドとかだ。
ふと思ったが、こんなに苦労して倒す敵って人間しかいない。ジャイアントやトロールやオーガは結局のところ力と力のぶつかり合いか、遠くからこっそりファイアボールを撃つかだ。
人間にも遠くからファイアボールを撃てばいいのか。先手必勝だ。索敵して破壊、それが一番いいのか。まあ、基本はやられたらやり返すスタイルなのでそういうわけにはいかないが。
スパーが終わる頃には猫の置物が三十個できていた。
スパーの後は王都の近くまで飛び、シャワーを浴びてから、ペプを連れて街を歩いた。飛んでる間はちょくちょく心臓がきゅっとなって嫌な汗が出る。飛んだ後にシャワーを浴びるのが効率的だ。
もう日が暮れそうなのでバーに行った。
「タクヤ殿、待っていましたぞ」
髭も髪も白い大柄な騎士が俺をロックオンした。王女の護衛の、確かクンツだ。プレートアーマーでなく簡素な鎧を着ているが、間違いなく騎士だとわかる独特の風貌だ。温和そうだが怒らせると怖いイメージだ。
「ここは、いいバーですな。さすがタクヤ殿。ここを連絡所にするとは目が肥えている。昨日、初めて来てすぐに気に入ってしまいましたぞ」
少し酔っているようだ。昨日も来たのか。
「すぐ会いに来い、と、王女からの伝言を伝えに来ました」
「クンツ殿、それを伝えるだけならマスターに伝言しておけば良かっただろう」
「伝言したがタクヤ殿は来なかっただろう?」
「いや、それを聞いたあとで襲撃騒ぎが……ってその後、会議の席で会っただろ、あんたも」
「姫は話ができなかったと残念がっているのでな。すぐに会いに行ってやってくだされ。そうしないとワシが毎晩ここにくる羽目になりますぞ」
「だから伝言すればいいのに。本当は飲みに来れて嬉しいんじゃないのか? 分かった。今から行くよ」
「あー、タクヤ殿。店の外に怪しい連中がいるから注意しなされ」
「え?」
「店の出口で待ち構えているようですぞ。三人、いや四人ですな」
——マジか……
ペプを店のカウンターの陰でハウスに入れて、俺は店を出た。
店の扉がバタンと閉まったら、左右から三人の男に刺された。一人には喉を掻き切られた。
おもちゃの木剣で思い切り腹を刺された、そんな痛みをコート越しに感じた。右脇腹の肝臓の位置と左側の心臓の位置。そして、食事用の、しかもステーキ用ではなくハンバーグ用のナイフで喉を掻っ切られたような感覚。ちょっと喉仏に当たって痛い。
正直言うとかなり油断してた。まだ一杯しか飲んでないシラフだと言うのに、こんなにがっつり刺されるなんて。まあ、もちろん全てプロテクションで防御してるから無傷なんだけど。
襲ってきた三人にはそれぞれロックフォールを落とすと倒れた。そして前方から何かの魔法が飛んできた。
「マジックミサイル」
——ストレージ
俺は飛んできた魔法をストレージに入れた。
「ば、馬鹿な……エルヒュのマジックミサイルだぞ……」
ビクターだ。性懲りもなく襲ってきたのか。なんか滑舌が悪い。ビクターの手元で何かが燃えたようだった。スクロールか? なんの魔法でもストレージに吸い込めば無問題だ。
——スリング!
ビクターの顎と下っ腹に石を当てた。また顎を砕いた。顎と下腹部とどっちが効いたのか分からないが、ビクターは気を失った。他には襲撃者はいないようだ。
俺は店の扉を開けてクンツに言う。
「クンツ殿、全部倒したから、連行を手伝ってくれないか?」
「仕方ないですな、今度奢ってくだされよ?」
——なんでだよ……こういうのお前の仕事じゃないのか……
俺が見張りで、クンツが衛兵を呼びに行った。その間に襲撃者を縄で縛る。魔法が使えるかも知れないので猿轡も噛ませる。対人用の小さめのロックフォールを落としたが、一人は首の骨が折れて瀕死だった。ヒール水を飲ませた。手を抜かずにぶん殴れば良かったか。まあ、別に死んでも良かったんだけど。
クンツは歩いて行ったが、衛兵はきびきびと走ってきて、男たちを連行して行った。俺も着いていった。
俺は王宮区画の城壁に繋がる衛兵詰所で、いきなり襲われたこと、三人の男はうろ覚えだがこいつらはフライターク伯爵の手下であることを説明すると、国王案件になり王城に行くことになった。
王城の衛兵詰所で待機していると、国王、宰相、リーゼロッテと護衛たちがやってきた。食事中だったとのこと。
リーゼロッテが国王に小声で囁いた。
「パパ、こいつら、あたしを誘拐したやつ」
「うん、死刑」
被害者の俺も加害者たちも、一言も発することなく刑が決まった。
連中は牢屋に、王様と宰相は執務室に行き、俺とリーゼロッテとカイとクンツが残った。談話室っぽい部屋に移動した。
「姫のご要望通り馳せ参じましたぞ」
「タクヤ、ふざけてるの? 事件のついでじゃない。でも良かった、スッキリしたわ」
「俺は襲われたんだがな……」
「あなた無傷じゃない。あいつらなんかどーってことないんでしょ」
確かにそうだが、ビクターが撃ったエルフの、いや、エルヒュのマジックミサイルってやつが気になる。囲んだ男たちを横着せずに一人一人きちんとぶん殴って仕留めてたら、その隙に謎のマジックミサイルが当たっていたかも知れない。
「で、呼び出した理由はなんだ?」
「あたしをダンジョンに連れて行きなさい」
「え?」
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