ニンニク
西門から出て森に入り、骨先生たちとスパーをした。
骨先生二体を相手に、テントの支柱と素手とで、とにかく攻撃を当てる、敵の体制を崩すことに集中した。崩してストレージショットを死角から当てる、骨先生には意味がないが虚をついてブラインドを放つ、とにかくそういう練習をする。
残念だが自己流だ。工夫を重ねるしかない。例えば敵の左側面にわざとかわされそうな突きをすると、敵は避けて重心が右に移る。そこに二撃目の突きを当てる。さらに避けられたらどうする? どこに攻撃すればいい? そういうことを考えながらスパーリングする。
技を教えてくれる師匠がいなくても、俺の動きを学習するスパー相手がいるのは絶大なメリットのはずだ。
二〜三時間ほどスパーをしてシャワーを浴びた。次に訓練したいのは飛行だ。
一昨日の夜に発見した方法、アクセルで自分を撃ち出して、落ちる前にまた撃ち出して、その連続で空を飛んで移動する。
止まる時は反対方向にシュートをかける。パラシュートだ。違うか。そうやって勢いを殺して着地する。空中でいったん静止したと思ったのに着地すると脚に負荷がかかる。コントロールと慣れが必要だ。
着地の慣れも大事だが、とにかく空を飛ぶのが怖いのをなんとかしたい。一昨日は真夜中でよく見えなかったからなのか急いでいたからなのか、あまり恐怖を感じなかったが、元々かなりの高所恐怖症なので怖い。飛んでる時には脚に神経が通ってない気がする。先にトイレに行ってなかったら確実に漏らしてた。
脚に力が入らないから、着地の時に踏ん張れなくて転ぶ。しばらくはうまく歩けない。慣れるしかないかも知れない。
最悪、漏らしても風呂に入って着替えるだけで済むように、お気に入りのコートは脱いで、下着と膝丈シャツの村人スタイルで飛んでいる。飛んでることもあってお股がすーすーする。着地も必ず失敗するので、ブーツが傷つかないようにサンダルを履いている。
シュートやアクセルは、石を飛ばすには全くマナを消費しない。おそらく少し使っているが、回復量と相殺される程度だ。だが、人間一人を飛ばすとちょっとずつ減っていく。
人間と言っても俺自身だから飛ばせるのであって、生き物は飛ばせない。ストレージに入れられないものはダメだ。
自分ほどの重さを、もっと高速に飛ばそうとすると、指数関数的にマナの消費が大きくなる。コントロールも難しい。あまり速いと壁や地面に激突して簡単に死にそうだ。ほどほどかつ速い、ちょうどいい力加減で慣らす。
飛んでいても空気抵抗は意外と感じない。あることはあるし、髪もはためいているんだが、目を細める必要もなく、口を開けてもほっぺがびろびろしない。これはおそらくプロテクションの効果ではないかとおもっている。
ただ、髪が抜けないか心配だ。毎朝のヒールで頭皮もちゃんと若返っているのだろうか? 顔は若く見えても頭髪が薄いということは避けたい。なんならいっそ全ての頭髪が生えなくなればいい。それならそれで諦めがつく。
そんなことを考えながら飛んでいたら、エリース村に着く頃にはかなり恐怖心が和らいだ。
ガキの頃はこんなに高所恐怖症ではなかった。
おそらくだが、現実の俺の身体能力を理解するに従って、さらに加齢に伴う運動能力の低下によって、ああ、俺はここでバランスを崩したら落ちて死ぬかもなってシチュエーションを想像するにつれて高所恐怖症がひどくなっていった気がする。
だから逆に、どんな高いところから落ちても無事に着地できるということを理解すれば、恐怖心は無くなるはずだ。そう信じることにする。
エリース村にいきなり飛んで現れたら村人に驚かれる。俺はいったん地下神殿に寄ることにした。
地下神殿は特に変わることなく、いつも通りだ。インプ以外はスケルトンなので、みんな吸い込める。インプのような、ストレージに入らない生物がいるのがむしろ不思議に思える。新しいお友達候補をストレージに吸い込んだ。
最下層にたどり着いた。ここにはもう敵はいない。直径二メートルほどの召喚魔法陣が二つある。魔法陣の円周には魔石が埋まってる。おそらくここからインプやスケルトンが出てくるんだろう。魔術師ギルドにあった召喚魔法陣とは違うかもしれないし、同じかも知れない。ここの存在をヴァレリウスに伝えたかった。
魔法陣が何でできているか、書かれているのか、どういう仕組みなのか、そういうことはじっくり見てもさっぱり分からない。
円形に盛り上がった石に、魔法的な何かで魔法陣が書いてある。手で触れてみるとよりはっきりと浮かびあがり、IDEにコードがコピーされた。何かに使えるのだろうか?
地下神殿を出て、ペプと一緒に森の小道を歩いてエリース村に到着した。エリザベスがいる。
「タクヤ殿! 久しいな!」
「やあ、エリザベス。その後どうだ? 問題ないか?」
「村の人たちには良くしてもらってる。大きな問題はない。こんなに幸せでいいのだろうか?」
「いいに決まってるだろう。ところで、ニンニクは苦手か?」
「苦手ではないが、どうした?」
「俺が前にいた国では、吸血鬼はニンニクが苦手と信じられていた。苦手じゃなきゃいいんだ」
俺はエリザベスにニンニクを手渡したが、全然大丈夫なようだ。
「この国ではニンニクの流通量が少ない。ビジネスチャンスかと思ってな」
俺は荒れ地を耕し、そんなに広くない畑を作り、ニンニクを一欠片ずつ埋めてヒール水をかけた。
そんなことをしていたらエリックがやってきた。
「やあエリック、変わりないか?」
「ちょっと見てくれ、ブドウの生育が悪くなったようなんだ」
案内されて見に行く。確かに元気がない。
「土が痩せたんじゃないかと思うんだ」
以前から疑問に感じていた。ヒール水をかけて成長促進しても、栄養は土から吸うんじゃないだろうか? 栄養を根こそぎ吸い上げてしまったら土がダメになるのも早そうだ。
「肥料が要るか」
「そうなんだタクヤ。畑を増やしたけど肥料が足りなくてな」
「昆虫の死骸でいいか?」
俺はストレージの中にある、黒いやつとかカマドウマとかの死骸を真空乾燥して、畑の一角に出した。
「おお、すごいな。なんか素材になりそうなものもあるが、もらっていいか?」
脚や甲殻の事らしい。死骸は乾燥してるから、砕いてそのまま畑に撒けばいいはずだとのこと。
「動物の糞が一番いいんだが」
と言われて、ヨーギのダンジョンに蝙蝠の糞の山があるのを思い出した。なるべくならストレージに入れたくないんだが、役に立つなら持ってくるか……。
ヒールで促成栽培するにも肥料が必要だというのは勉強になった。
「ところでエリック、この前作ってもらった小屋に、コテージみたいなものを付け加えたいんだが」
エリックは二つ返事で引き受けてくれた。
日が暮れてきた。今日はエリース村で一泊する。ストレージからテーブルとホットプレートと大きな鍋を出して、先日作ったブイヨンをベースに鶏肉と塩漬けニシンを煮込む。匂いを嗅ぎつけて村人が集まってくる。そしていつも通り宴会になった。
◇◇◇◇◇
目が覚めて、朝のルーチンをこなし、森の中で骨先生たちとスパーをした。そしてゆっくり朝風呂に浸かった。
ニンニクを見に行くと、見事に青々とした茎が出ていた。収穫しようとしたら、村人の一人がまだ早いという。茎が枯れてから収穫するものらしい。
俺はエリザベスに、収穫したら王都のパスタ屋に売り込みに行けと教えた。
エリックはすでにコテージの制作に着手していた。作業場にストレージに入れていた大木を三本出す。大木はエリックがデカいのこぎりで切って、木材にして乾燥させ、家具の材料にする。木材にならない余った木の欠片は薪になる。
薪はパン窯やオーブンで高熱を出すために大量に消費するので、単価が安くても需要がある。だから薪を使わずに高熱を出せる俺の炎熱石はコスパがいいんじゃないかと思ったが、この村には窯がない。小さいパン窯があるにはあるんだが、火力が必要なふっくらしたパンは焼けず、しっとりしたパンしか作れないとのこと。ヨーギにはパン窯がある。エリース村には窯を作れる人間がいないらしい。あのドームの天井が難点だよな。
ドームは諦めて、一枚岩で作ればいいだろうか? レンガは街で売ってるのを見た。レンガで壁を作って、天井は石にするとかどうだろう。まあ、誰か作れる人を探してお金を払って作ってもらう方がいいか。
ふと思ったんだが、スケルトンが薪を作れないだろうか? スケルトンに薪を作らせて、ストレージに集めて、必要なら真空乾燥して、街に売りに行けばいい。単価は安いが楽ちんな商売になりそうだ。
俺が筋トレ目的で木を切ってもいい。しかし、切り株に薪を立てるという地味な作業はあまりやりたくない。そこだけスケルトンに任せられないだろうか? っていうか、命令すれば大抵のことができるんじゃないだろうか?
これはすぐにでも検証してみよう。だが、今は……。
「エリック、でっかいイノシシがあるんだ」
「任せろ」
即答だった。任せろというが主担当はエリックのお隣さんだ。牙がドリルの大イノシシをドシンと出した。お隣さんは近所の人たちを呼びに走っていった。急なことで迷惑をかけたらしい。先に村のみんなに話をしておけばよかった……。だが、だんだん人が集まってきて、朝から祭になった。
俺の取り分は肉の半分と言ってある。残り半分の肉と皮や骨や内臓は、解体してくれるエリース村の人たちのものだ。内臓をもらっても俺にはソーセージは作れない。あ、豚骨は少しもらうことにしよう。ドリルも念のため俺がもらうことにする。
イノシシの血を抜きながら村人は誰がどの部位を持って行って何に加工するか詳しく相談している。
冬が来るらしい。この辺ではあまり雪は積もらないらしいのだが、まあこの時代だ、越冬は命懸けだ。エリザベスたちも話の輪に入ってる。歯に牙が生えている女性たちが村に溶け込めているか心配だった。牙だけじゃない、大昔の貴族出身なため、容姿も立ち振る舞いも村人とは違う。しかし問題ないようなので一安心だ。
森の中でもう一度ハウスに入る。ペプとランチを食べてからIDEを開く。
作りたい魔法がある。マジックアローが敵に刺さってからマジックミサイルの爆発をするやつ。または炎熱爆発と冷気爆発。
武器屋で買った矢にそういうエンチャントができるんだから、マジックアローで同じ仕組みの魔法が作れるはず。
爆発の矢のコードをベースにしようかと思ったが、マジックミサイルにする。マジックミサイルは、ミサイルと言いつつ実はファイアボールと同じボール状で飛んでいく。その部分をマジックアローのアローに書き換える。ミサイルの爆発の手前に、爆発の矢で使ったタイムラグのコードを挟む。
マジックアローとマジックミサイルは、マナを変質させない純粋魔力でできている。だから魔法生物にはかなり効くが、生物学的に魔法エネルギーに頼らないで生きる人間や猫のような動物にはほとんど効かない。
純粋魔力の爆発も相当威力があるが、炎熱爆発や冷気爆発に変えると物理的なダメージになってより効果的じゃないかと考えて作ってみた。実際コードを書き換えて作ってみると、変えるんじゃなくて混ぜることができた。つまり魔法的にも物理的にもダメージが入る。
早速、マジックスタッフにエンチャントして、可哀想な犬に試し撃ちをする。
——ボゴッ!
可哀想な犬に刺さったマジックアローは、一拍置いて低い音で爆発し、可哀想な犬を大破させた。破片は焼け焦げている。数十秒かけて骨の破片が集まり、元通りに近いオオカミの形を形成したが、焦げた骨片はくっつかず、俺がパンチすると簡単にボロボロになった。
それでもマナがある限りは元の形にくっつこうとする。一応元の形になるが、ところどころ欠損している。
スケルトンがこういう風に修復不能になるのは一つ勉強になった。今後スケルトンにはプロテクション&耐熱をエンチャントすることにしよう。
俺は新しい魔法をファイアミサイル、アイスミサイルと名付けた。結構マナを食うが、魔法の杖にエンチャントして、充填しつつストレージに百発ずつ仕込んだ。
仕込みが終わったら日が暮れそうになっていた。俺は村に戻った。今日も宴会だ。




