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売り買い

 熟睡した。夢は見なかった。朝のルーチンをこなす。街中なのでスパーは無し。


 筋トレのメニューを変える。今までは腕立てと腹筋だけだった。今日からは岩を使って負荷を増やすのと、スクワットと、岩をダンベルに見立てた腕の筋トレを追加する。持ちにくいのでちゃんとしたダンベルが欲しい。


 うっかり故障してもヒールで治せるのでかなり高負荷にする。しかし腰だけはヤバそうなので注意だ。やっちまうと癖になって何回も繰り返すと聞いた。ヒールで直ぐに治るだろうが……。


「ちょっと待って、腰が……ヒール……うん、治った」

「お前また腰か。ダンジョンに来て何回目だよ」


みたいなことになったら怖い。想像するだけで怖い。

 


 IDEを開き、ファイアショットとアイスショットのエンチャントをしたマジックスタッフを三本ずつ作る。魔法道具屋から軍に流れるだろう。ささやかながら魔法兵に転属する元魔術師ギルド員を応援したい。もちろん対価は頂くけど。



 エミリーにあげたプロテクションのエンチャントはものすごい効果があった。もちろん俺も使っているので効果を実感している。プロテクションがあればどんなヘタレ冒険者も一流の仲間入りできるだろう。もちろんマナの充填を欠かさなければだが。


 プロテクションのアクセサリーを作って冒険者ギルドや魔道具ショップから市場に流すことも何度か考えた。しかし、それはやめた方がいいような気がしている。理由ははっきりしないが、ゲームチェンジャーになっていろんなバランスを崩すかも知れない。特に戦争に関して。


 本気でダンジョンを攻略して魔族を倒そうと思ってる冒険者にプレゼントするのはやぶさかではないんだけどな。エミリーがそう考えているかどうかは分からないが……。



 そしてルスランに全く攻撃が当たらなかった件。俺は今、全身の敏捷性をアップする指輪を着けている。それでも完全に避けられた。筋トレで基礎体力を鍛えるのはもちろんだが、魔法効果で身体能力を強化できるならそうしたい。


 それと、ゲットしてある筋力増強の魔法だ。一カ所に付呪できる強化は一つだけ、なので、全身に敏捷性をアップしたら筋力増強はできない。だが、プロテクションと耐熱のように、一つの魔方に複数のコードを組み合わせればできるんじゃないだろうか?


 敏捷性も筋力もプログラムコードは、前段階――メイン――後段階、の三ブロックでできている。前段階と後段階に書いてあることはよく分からない。マナの残量チェックとか効果範囲関連のこととか書いてある気がする。筋力のコードのメインブロックをコピーして、敏捷性のコードのメインブロックの後にペーストする。敏捷性は、元々発見したときの効果の二倍に設定していたが、三倍に設定することにする。これ以上はマナ効率が悪くなる。


 敏捷性アップの指輪のエンチャントを敏捷性&筋力アップの効果に書き換える。そしてマナを充填する。


――速く強くなった気がする


 はっきりと感じた。成功だ。敏捷性アップの時はマナは一週間程度は保つくらいだったが、強化した指輪は三~四日程度しか保たないようだ。そこで指輪に宝石を追加する。


――インプラント


 指輪に付いているメインの赤い石の左右に、同じ色合いの小さい赤い宝石を二つ埋め込んだ。マナの充填量は約二.五倍になった。毎日充填すればこんなに増やさなくてもいいんだが、俺はそういうマメな性格ではない。できれば毎晩寝る前に充填したいが、酔っ払ってすぐ忘れる。なので、マナに余裕があるときはちょくちょく補充するように心がけようか。



 すぐにスパーをしたいが、街を出る前にいつもの用事を済ませる。


 まずは市場に行き、食事を買う。アイス魔法のおかげで、内陸のシンシアでも生魚が売ってる。塩漬けの魚はペプに食べさせられない。多めに買ってバッグに入れる。他には塩分控えめの燻製肉ショップがお気に入りだ。商業区画の店の方が美味いし種類も豊富だが、そっちは塩分が多い。人間向けだ。人間の中でも酒飲み向けなのかも知れない。ペプが食べたいと言ってる気がするので、干し肉をひとかけらあげた。俺の肩の上ではぐはぐ言ってる。


 次にお気に入りのスープ屋に寄って、ボウルにスープを入れてもらう。三杯買う。大食いと思われている。怪しまれないように、雑貨屋で最近見つけた蓋付きのボウルに入れてもらい、縦に積んでカバンに入れる。しばらく歩いてるうちにカバンの中が空になる仕組みだ。実際のところ、怪しまれてるだろうか?


 次に服屋に寄り、洗濯に出していたものを受け取り、代わりに新しく洗濯するバッグを渡す。端布をあるだけ買う。

 

 次に貴金属店に古金貨を売った。それと、ダンジョンで拾った宝石の原石を何個かカッティングを依頼した。結構金はかかる。しかしカッティングした方がマナの充填量が大きい。確実に効果が出ると思われる大きめでマナ充填量の多い原石を選んで依頼した。


 次は魔法道具屋だ。魔女っ子がいる。さっき作ったマジックスタッフを六本売った。軍団長がむかつくから武器は売らない。金貨が足りないから現物交換でいいかと聞かれたが、めぼしいものがなかったので、支払いは後日でいいと言った。どうせすぐ軍が買い取ってくれる。金はすぐ出来るだろう。


 次は武器屋。エンチャント用の武器とマジックスタッフ、矢とボルトを買った。それと、注文していた黒のロングメイスが出来ていた。これは嬉しい。武器屋を出て、すぐプロテクションをエンチャントした。傷が付くと嫌だ。


 街に来るたびにこんな感じで物を大量に売り買いしている。いったい街の人にどう思われているだろう? 猫戦士として名前が知られてるようだが……。



 最後に冒険者ギルドに行く。ギルドホールにエミリーがいた。


「タクヤさん、おはようございます。さっきヴァレリウスが来ました。国を出て、強さを探しに行くと言ってました」

「そうか、さみしくなるな」


 ルスランにギルドを壊滅されたのがショックだったのか。


「ところでエミリーは冒険者ギルドに転属になったが、実際ここで何やるんだ?」

「基本的には他の冒険者と一緒のようです。人気がない依頼をこなすとか、情報収集とか、ちょっとマナのチャージをするとか、そんな感じです。フィリーネおばさんのコネを頼って軍属を免れたっていうのが本当のところです。ビアンカも冒険者としての実績があるから冒険者ギルドの所属になりました」

「他には冒険者になった人はいないのか?」

「いません。もともと魔術師ギルド員で冒険者になる人はあまりいないんです。ギルドで魔法の修行をするとマナ切れで何もできなくなります。ですので、ギルドで寝泊まりして修行する人と、冒険者がメインでギルドのサービスを利用する人に分かれるんです」

「ビアンカは特別なのか?」

「彼女は超優秀なんです。マナも多くて、アイスボールも使えますし」

「エミリーも使えなかったっけ?」

「あたしは、魔法の杖がないと使えません……」


 つまり、ビアンカとエミリーだけが優秀なのか。


「あ、タクヤさんとダンジョンに潜るのは優先していいと言われてます」


 ……逃げられない……。



「タクヤさんに聞こうと思ってたんですけど、タクヤさんって、剣とか棒とか誰に教わったんですか?」

「独学だ」

「え? そうなんですか? 練習はどうしてるんですか?」

「先生みたいな人を相手に組手をしたりしてる」

「どんな人ですか? 紹介してもらえませんか?」

「エミリーも会ったことがあるが……」

「え? そんな人いますか? ペプちゃん……?」

「いや、その人は骨先生と呼んでる」

「……! ドン引きです……」


 スケルトンはそんなにダメか……。やっぱ人骨だからか……。多分、本当の人骨じゃないと思うんだが……。


「強くなりたいのか」

「当たり前じゃないですか。タクヤさんに頂いた盾とメイスをもっと上手く使えるようになりたいです」

「盾とメイスのスタイルでいくのか。誰かに教えてもらえるなら剣が良さそうだが」

「剣もいいですね。でも、剣と魔法の杖の持ち替えが大変そうです。メイスの方がさっと持ち替えられます」


 魔法の杖か。いっそ魔法の杖で殴ればいいのか。いや、ちょっと思いついたぞ。


「先生の件はギルドに頼むんだな。俺のは自己流だから良くないだろう」


 俺のやり方は目潰しとか使うからな……。



 ギルドの受付が空いたので受子ちゃんに話しかけた。


「討伐クエストの懸賞をかけたいんだ」

「ありがとうございますー。懸賞はなんですかー?」

「ファイアボールのマジックスタッフだ」


 詳しく話そうとしたらレオが入ってきた。


「兄さん、久しぶり、何してるの?」

「厄介なモンスターがいたから懸賞をかけようと思ってな」

「へええ、敵は?」

「マンティコアだ。フォートモーラー地下十階の守護モンスターだ」

「兄さんすげえな。そんなとこまで行ってきたのか」

「ああ。十二階のバルログを倒してきた」


 アーベルが割り込んできた。


「なあタクヤァ、そのクエスト、俺らも挑戦していいかぁ?」

「いいぞ」

「兄さんはなんで倒せなかったんだ?」

「マンティコアが空中を飛び回ったまま降りて来なかったんだ」

「マジかぁ、そのパターンかぁ」

「アーベルは、ワイバーンの時はどうやったんだ? そいつも飛んでたんだろ?」

「あんま速くなかったからぁ、レオのクロスボウとビアンカのアイスショットで落としてぇ、俺の剣で、こう、こうして、こういう風にバッサリぃ」


 落とすところが聞きたかったので、剣で斬る様子はどうでもいい……。


「じゃあ苦労するかもな。バサバサ飛び回ってたぞ」

「でも、ファイアボールの杖はビアンカがめちゃめちゃ欲しがってる。アーベル、やるだけやってみようぜ」

「そうだなぁ。行ってみようかぁ」


 俺はマンティコアの容姿や、ダンジョンの構造などを受子ちゃんとアーベルたちと、集まってきた他の冒険者たちに話した。魔術師向けの懸賞だけじゃやる気が出ないかと思って、金貨四枚も追加した。マンティコアを倒さずにお宝だけ拾ってきたので、そのくらい出さないと悪い気がしたからだ……。



 次はフォートモーラーがブームになるのかな。俺はキャッスルヒルパートを攻略しようか。だがその前に少し休む。エリース村に顔を出そうかな。


 エミリーとペプと一緒にランチを食べたあと、エミリーと別れて街の西門へ向かった。




いつもお読みいただきありがとうございます。

次回は10/3の配信です。

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