正義
ダンジョンの外に出るとすでに日は落ちていた。
俺はやるべきことをさっさと片付けようと思い、黒装束セットに着替え、伯爵の屋敷へ向かった。やることとは、漠然としているが、伯爵のゾンビ活動を止めることだ。とりあえず屋敷に侵入し、ゾンビを作っている何か探そうと思う。
屋敷を外から見ると、二階の、恐らく廊下のものだと思われる明かりが窓から漏れている。よく考えたらガラス窓だ。どうやって作ったんだろう? 土魔法でしか作れないらしい。王宮は木の窓だった。伯爵って何の商売をしてるか知らないが、相当金を持ってるのか?
——さて、目当ての物はどこにあるのかな……
俺は隠密の指輪を嵌めて、屋敷の壁沿いの見張りが立っている正門とは反対側に向かって歩き、適当な所でアクセルで壁を乗り越えて庭に入った。アクセル超便利。
満月に近い月が登っていることも手伝って、庭からは屋敷の外観がよく見える。リリーが捕まった時には屋敷を眺める余裕はなかった。改めてしっかり見てみるとなかなか立派な建物だ。
部屋は、窓の数から推察すると、一階に七部屋、二階に八部屋あるようだ。石造りの白い壁、三角の屋根に、丸い塔のようなものが左右の端に一つずつ建っている。こういうのは映画なんかでよく見たが、なんのためにあるんだろう? やっぱ攻められた時に弓を射るためだよな。ここ、攻められるのか? 飾り? っていうか、そこ怪しくないか? なんとなく大事なものがあるような気がする。
——あそこから入ってみるか
俺は、見つからないように壁に沿って屋敷まで行き、屋根の上へアクセルした。屋根は見かけよりも角度が急で、立つとバランスを崩して落ちそうになる。おまけに屋根はどうやら木造のようだ。瓦?を踏んだらミシッて音がした。まあいい、誰もこんなとこ登らないだろうってところの方が、見つかるリスクが減る。
塔の木窓を枠ごとストレージに入れて、空いた窓から中に入った。暗いので最低光量の光る石ころを出す。ぼんやり光る石ころに照らされたものは……弓矢が三セットだけだった。
——ここじゃないのか……
なんとなくだが、部屋は何か大事なものを置いておく雰囲気ではない。もう一箇所の尖塔も同じだろう。俺は屋敷を探索することにした。念の為、スリープの杖を右手に装備する。
石造りの螺旋階段を一歩一歩、音を立てないようにゆっくり降りていく。隠密の指輪を着けているが、音を立てたらどうなるんだろう? やっぱ気付かれるのかな……?
二階に着いた。廊下を慎重に伺い、誰もいないのを確認して廊下に出た。右の壁にはランプが並んで点いている。左側には扉が八個並んでいて、その先はここと同じく尖塔の螺旋階段のようだ。尖塔は屋敷の階段の役割があるのか。
俺は螺旋階段を降りて、一階に着いた。廊下には誰もいないが、どこかの部屋から人の声が漏れている。二階よりも照明が多く、明るい。廊下の左側には扉が六枚並んでいて、右側の中ほどには玄関があるようだ。
話し声が気になる。ビクターのやつは魔法が使えるまで回復してるだろうか? 伯爵はお咎めなしになって高笑いしてるのだろうか?
しかし、それよりも気になるのが、螺旋階段が更に下に続いていることだ。地下がある。俺やリリーが閉じ込められていたのはこの屋敷ではなく、離れの地下牢だ。では、ここの地下には何があるのか。
——降りてみるか
降りた先には、鉄の扉があった。俺が余裕で通れる大きさで、中を伺える窓は無い。
——ふむ
入ってみなきゃわからないな。俺は扉をストレージに吸い込んだ。
——うおっ!!!
部屋の中に人が立っていた。びっくりして声が出そうになった。少し跳び上がった。
人……に見えたものはゾンビだった。麻袋が頭に被せられている。とりあえず動かないようなのでいったんスルーして部屋を見回した。
部屋は六畳程度の広さ、他にドアや窓はない。壁に沿ってコの字型に棚が並んでいる。そして、棚の上と下に宝箱、宝石箱、武具、アクセサリー、ポーション、スクロール、何かの彫像や金細工銀細工ガラス細工、金塊が置いてある。
——ゴクッ……
俺がツバを飲み込む音が聞こえた。四つの宝箱のうち、一つは蓋が開いていて、中には箱に半分くらいまで金貨が入っている。
——これは……伯爵の全財産だろうか……?
活動資金だろうか? これがなくなると、もうビクターや手下を雇えなくなり、悪事が働けなくなるだろうか?
——これらを没収するのが正義……?
間違いない……間違いない!
——ストレージ!!!
俺はこの部屋にあるゾンビ以外の全てをストレージに吸い込んだ。伯爵には殺されかけたんだ。俺の命の対価には全然足りないが、慰謝料としてもらっておく。盗むわけじゃない。無理矢理、慰謝料を頂くだけだ。よしっ!
自分を納得させるように言い訳を考えたが、後ろめたさは全くなかった。気分はウハウハだが、だんだん怖くなってきた。
——よし、帰る
階段を二段抜かしで、音を立てないように駆け上がり、尖塔の窓から外に出て、屋根から壁の上、壁の上から道路にアクセルで飛んで、そのまま街の外まで走って逃げた。所々アクセルを使ったので、とんでもない速さで移動した。今の気分に合っていると思った。森でハウスに駆け込んだ。
「ペプ! ペプ! 大金持ちだよ!」
「ナア!」
ストレージに何が入っているか、考えるだけで把握できるが、金貨の枚数は数えないと分からない。とにかく大量だ。数千枚はある。
金塊はいわゆるインゴットだ。元の世界にあった、と言っても実物は見たことないが、台形じゃなくて直方体になっている。豆腐っぽいが豆腐とは硬さと重さが全然違う。角が尖っていて怪我しそうだ。
他は……もう、興奮してて分からない!
ペプにご飯をあげるのを忘れてて、床に胡座をかいて上を向いて座ってる俺の膝にペプが執拗に頭突きをした。
いったん冷静になって、ペプにご飯と水をやり、俺も夜食にスープを食べた後に、ジンロックを飲み始めたが、変な笑いが込み上げてきて全く落ち着かない。もし宝くじに当たってたらこんな感情なんだろうか。
心がざわざわしてて、ゲットしたものも冷静に調べられない。いったん寝よう。
俺はスリープをかけて寝ようとしたが、集中できなくて眠れない。スリープの杖を頭に当てて眠りに落ちた。




