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取り込み中

 夢を見た。


 最初は、友達の友達のカウンセラーをした。資格は持ってない。ドラマの見よう見まねだった。そしたらなぜか人気が出て、新興宗教の教祖になった。大金持ちなので信者からお金を巻き上げる必要がないからか、信者はどんどん増えていった。


 ある日、俺は信者に言った。


「皆のもの、魔王を倒すのだ」


 信者たちは一斉に駆け出して行き、誰もいなくなった。すると、頭の中から声が聞こえてきた。


「いつまで寝ているのだ。目を覚ませ」



  ◇◇◇◇◇



 スッキリしない目覚めだが、昨日のことを思い出し、いきなり体温が上がった。とりあえず、顔の筋肉を緩ませながら朝のルーチンをこなした。もう昼近くのようだ。


 昨日はヘビーな一日だった。今日はとにかく休むことにする。魔族のせいで世界が滅ばなきゃ、ずーっとお休みなんだが。大金持ちだから働かなくていいし。


 休みとは言っても、夜にリーゼロッテに会いに行かなきゃいけないだろう。一昨年、会ったばかりだが、伯爵の脅威はなくなったと思われる事を報告したい。しかし、どう言おうか。盗みました。これはカッコ悪い。下手すると盗品……いや、戦利品を王国に没収されかねない。戦ってないけど。


「ペプ、問題発生だよ」


 ゲットした金貨でジャラジャラと遊びながらペプに相談してみた。ペプは金貨を手でちょいちょいと触ったが、興味がないようで、俺の肩によじ登り顎を舐め始めた。俺はペプの下腹部をこちょこちょした。


 ひとしきりペプといちゃついてから、お宝も気になるがその前に、マナが満タンなので骨のお友達を増やすことにした。


 IDEでスケルトンのパラメータを書き換える。魔法をドラッグドロップしてプロテクションをかける。同様に武器屋で買ってきた剣にプロテクションをかけて、それをスケルトンのスロットに入れる。少し時間を進めると武器を装備する。この手順でスケルトン兵士を十体追加した。元の五体もマナを注入しておき、計十五体の元気なお友達ができた。


 次に、やっぱり気になるお宝。宝箱は四つ、うち一つは金貨が詰まってる。俺の頭の中の残りの箱を調べてみる。ドキドキが止まらない。


——矢……?


 矢が一本だけ入ってる宝箱がある。いや、他に弦のようなものと、何かのからくりのようなものと……。


——罠か!


 蓋を開けると矢が飛んでくる宝箱か。危ない。伯爵のやつめ。


 残りの二箱には、金貨がギッシリ詰まっていた。何万枚あるんだろう? これだけあれば国が買えないかな? 島くらいは買えるかな? ここは地球みたいだから、ハワイを丸ごと買いたい。そもそも買うとかの前に、誰か住んでて支配してるのかな? カメハメハ大王かな? オアフ島だけ貰えればいいか。いや、誰か住んでるならバリ島とかあたってみるか。サンフランシスコの一角でもいいな。いや、やっぱり沖縄かな。日本だしな。


 って、移動手段も無いのに夢ばかり膨らむ。もしここがヨーロッパかアジアなら、南フランスまでは陸続きか。


「ペプ、妄想が止まらないよ」


 いったん落ち着いて、作業の続きをする。IDEを開いて、ゲットしたアイテムをざっと見てみる。


——マジックアイテムが無い……


 ジュエリーボックスの中のアクセサリー類も、剣も盾も、弓も矢も、何をモチーフにしたのか分からない銀細工も、誰をかたどったか分からない彫像は当たり前だが、一つもマジックアイテムが無い。


 これには少し落胆した。まあ、剣はそれなりに名剣のようだし、アクセサリーには自分でエンチャントすればいいし、あとは売って金にすればいいから、別にいいだろう。新しいエンチャント魔法が欲しかったが。


 そしてポーション、十本あるが、なんの効果か分からない。飲むのも怖いし、捨てようか。なんとなく、大した効果はなさそうな気がする。


 スクロールもしょぼい。アイスとファイアばかり。その中で一枚だけ、他とは羊皮紙の質感が違うスクロールがある。魔力が多く充填されている。よく見てみると、紙に文字が書かれている。


——インプラント

——金属に宝石を埋め込む

——埋め込みたい金属の上に宝石を置いて魔法を発動


 説明が書いてある。これはもしかして、宝石がめりこんだ不思議な決戦用ナイフに宝石を埋め込んだ魔法なのか? まあ、やってみないと分からないな。


 スクロールは一度使ったら消えてしまうから、インプラント魔法のコードを自分のIDEの魔法エリアにコピーした。


 お友達を増やすのにマナを使ってしまったので、試すのはまた後でにしよう。


——さて……


 ダンジョンに行く気分じゃないしな。まずはリリー……リーゼロッテに報告するか。なんて言うか決めてないけど。夜まで時間を潰すか。


 俺は森の奥へ入り、ハウスの中から窓を開け、ハウスの外で巨石をストレージから出し入れし、マナを使い果たして卒倒した。



  ◇◇◇◇◇



 目を覚まして外を見たら、だいぶ日が傾いていた。


 日が沈むまでまだ時間があるので、ペプと一緒にバーに顔を出した。



「タクヤ様、伯爵のお屋敷の件はお聞きになりましたか?」

 

——ギクッ!


 もう噂になってるのか……? そういえば、扉を開けっ放しというか、扉をストレージに入れたままだ。それですぐバレたのか。しらばっくれて聞いてみる。


「何があった?」

「お屋敷が燃えました」

「え?」

「今朝早く、不審火により、お屋敷が全焼しました。」

「え? え?」


——俺は火は点けてないぞ……


「噂では、黒い修道服の女性が逃げていくのが目撃されたとか」


——シスターか……


 俺は酔っぱらわないように、いつもの蒸留酒ではなく、エールを注文した。


 ペプをカウンターの上に寝かせた。ちょっとゆっくり考えてみる。



 噂が正しければ、シスターがゾンビを倒し、火をつけたと考えて、間違いないだろう。シスターの今までの言動と行動パターンからすれば、ごくごく自然とも思える。


 しかし、俺が忍び込んでゾンビを発見し、放置してドアを開けっ放しで出てきたそのすぐ後に、シスターが同じく屋敷に侵入して、ゾンビを倒して火をつけたのは、偶然にしては出来過ぎている。


 俺が尾行されていた? けど、屋敷の中までは尾行されてない。なにしろ屋根から忍び込んだから。同じ事が出来るとは思えない。


 屋敷に侵入するところまで尾行されてたとして、中にゾンビがいるのはどうやって知った? 俺がこっそり忍び込んだから、面白そうだから入ってみよう!みたいな。そんなわけないだろう。ゾンビがいると知ってて入ったんだ。


 じゃあ、どうして俺が侵入するまで入らなかった? ゾンビはおそらくかなり以前からずっと同じ所にいたのに。重い金属扉があって入れないのを知ってた? いやいや、扉を開けたからシスターがゾンビの存在を知った、もしくは、俺がゾンビを発見したからシスターがなんらかの方法で知ったと考えるべきだろう。



 俺は自分の手足に何か繫がってないか見てみた。魔法の何かが付いてて俺の居場所が丸わかりだったり、俺が見た映像がどこかに転送されたりしてないだろうか? 何も付いてなさそうだが、魔法かスキルで監視されてると考えるのが自然か。そんな魔法あるのかな?


 便利だから何でも魔法魔法と考えてしまう。しかし、俺のえげつない便利さのストレージ魔法のことを考えたら、それこそ世界中の人間がどこにいて何を見てるか分かるような魔法があってもおかしくない。


 今この世界で使われている魔法は、シスターが言うには現実的なものばかりで、火をつけるとか冷たくするとかそういう系統だけだけど、俺のストレージ魔法、リリーのアーティファクト、地下神殿の結界、そもそも俺がこの世界に呼び出された召喚魔法など、自然物理の理の範疇外の魔法は実在する。


 シスターも、例えばユニークスキルとかで、そういう特別な魔法が使えてもおかしくないし、その可能性は高い。


 そういうふうに考えるのは、今回の件だけじゃなく、シスターがいつも俺を探しだしたことや、なぜかゾンビの居場所を知っていたことからだ。洞窟のゾンビなんか、伯爵の手下の小男かヴィクターを監視してないと発見できない。


 まあ、物理的に監視するって方法もあるんだが。そう考えると透明になれる魔法かなんかで今もその辺にいて、俺を監視してるのかも知れない。それだと地下室のゾンビをどうやって見つけたかって話になる。



 考えても結論は出ない。そろそろいい時間になってきた、リーゼロッテに会いに行こうか。


「マスター、また来る」


 俺はペプを抱き、バーを出て歩いた。王宮区画の壁をアクセルで飛び越える。初めてのアクセル体験で、ペプが驚いて暴れるかと思ったら無反応だった。助かる。



 王宮へ着いた。リーゼロッテの部屋の窓が開いていたので、アクセルで入ろうと思ったが、さすがにレディーの部屋にノック無しでいきなり入るのは失礼だろうと思い、梯子をかけて登った。


 ペプを抱いたままでも梯子を難なく登れるバランス感は、日頃の鍛錬と敏捷性アップのマジックアイテムのおかげだ。開いてる木の扉を二回ノックして窓から覗き込んだ。


「リーゼロッテ、いるか?」

「何者だ!」


——!!!


 部屋にいた大柄な騎士風の男が剣を抜いた。剣士風の男が、窓の横まで滑るように移動してきて、いつの間に抜いたのか、短剣を逆手に持って構えている。


 剣士の顔、五つの刀傷に見覚えがある。魔術師ギルドで会った、リーゼロッテの護衛の騎士だ。俺の顔を見て剣を止めたようだ。知った顔じゃなきゃ刺されていたかも。


 部屋の中には他に、帯剣している男女が一人ずつと、頭髪が薄くてギラギラした目をしているおっさんと、若干派手目な洋服を着たやたらと存在感のある初老の男と、リーゼロッテがいた。何やら立ち話をしていたようだ。


「すまない、取り込み中のようだな。また来る」

「待ちなさい。取り込み中なのは貴方が来たからじゃない。逃げないで」


 バッドタイミング……?


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