財産
バッドタイミング過ぎたが、リーゼロッテの引き止めに合い、逃げるわけにもいかなくなった。
仕方ないので窓から部屋に入る。ペプも一緒だ。
「こんばんは、リーゼロッテ殿下。タイミングが悪いようだが、出直したほうがいいだろう?」
「今、ちょうど貴方の話をしていたの。タイミングはバッチリよ。パパ、この人が例のタクヤさん。タクヤさん、こちらがパパよ」
存在感のあるおっさんをパパと紹介されたが、それって王様じゃん……そんな紹介でいいのかよ……。っていうか、娘の部屋に男がこっそり入り込むところを父親が見ていたシチュエーション……。
「初めまして、俺はタクヤ、冒険者だ。これはペプ、俺の愛猫だ」
「ナア」
「国王の御前であるぞ。頭を下げろ」
額から頭頂部まで髪の毛が薄いおっさんがギラギラした目で俺に命令した。なぜか分からないけどイラッとする。
「構わんよダミアン、彼は国民ではない。我が王国の客人だ」
王様から助け舟が出て、ほっとした。ダミアンはどうやら宰相かなんかのようだ。
「タクヤ殿、私がハロン王国の国王、デニス・ハロンだ。君の話は聞いている。誘拐されていた娘を救ってくれたそうだな。国王として、父親として礼を言わせてもらう。ありがとう」
「当然のことをしたまでだ」
誘拐されたのは俺をおびき出すためだしな……。
「ところで誘拐犯は、王女を誘拐した割には、ずいぶんと罪が軽いようだが」
「それなんだがな、リーゼロッテは変身のアーティファクトを使っていたから、フライターク伯爵は王女を誘拐したとは気づいてない。王女を誘拐されたとあっては王国としても外聞が悪い。だから隠しておこうと思ってな」
「そうか。しかしゾンビの件は聞いているんだろ? そっちもお咎めなしなのか?」
「軍備増強を命じたのは私だが、国民をゾンビに変えるのを許せるわけがない。伯爵家を取り潰しにしたいところではあるが、様々な事情によりそうもいかなかったのだ」
「事情?」
宰相ダミアンが口を挟む。
「簡単に言うと、伯爵の力が大きくなりすぎた」
「裏で悪事を働いていることは分かっていたが、軍備の増強が急務だったため多少のことには目を瞑っていた。だが、それを利用して力を蓄えてたのだ。王としては面目ない」
王様は悲しそうな顔をした。
召喚されたこととか戦争しようとしてることとか、王様は悪人なんじゃないかと思っていたが、会ってみると結構いい人のようだ。
「そんな時に伯爵の屋敷が全焼と聞いてな、娘と話してたところだ。タクヤ殿と話ができれば、今後の計画も立てやすいだろうとな」
「タクヤ、屋敷を燃やしたのはお前だろ?」
どうして王様からはタクヤ殿って呼ばれるのに、宰相は呼び捨てなんだよ……。
「いや、違う。俺ではない。犯人はシスターだ」
俺は、シスターっぽい格好をした女の依頼でちょくちょくゾンビを倒していたこと、その女がとにかく火を付けまくること、なぜか俺やゾンビの居場所を察知する能力があること、屋敷の火事の後に目撃されているらしいことを話した。
国王は目を瞑って、少し考えてから話しだした。
「なるほどな。シスターは伯爵の陰謀を邪魔していたわけだな」
宰相が相槌を打つ。
「そのようですな。イグレヴ王国の間者の可能性が高いと推考致します。伯爵が言うには、財産は全て屋敷に置いていたらしいのですが、焼け跡からは発見できなかったと報告を受けています。シスター一味が持ち去り、最悪イグレヴ王国に運ばれたと考えるべきかと」
「しかしな、検問を抜けて隣国に運び出せるとは思えぬ。まだ国内にあるか、伯爵が隠しているかだろう。国外に持ち出されるのはなんとしても止めなければ」
「伯爵の財産が敵国に渡れば、それを軍資金として我が国に攻め込んでくることは間違いありません。伯爵家が事実上取り潰しになったことだけでも開戦のきっかけになるやも知れません」
――汗が出てきた……
「あー、それなんだが、大丈夫だ。心配ない」
「タクヤ殿、どういうことかな?」
「俺が持ってる」
「……?」
「伯爵の財産は俺が持ってる」
「は?!」
みんなが驚いた顔で俺のことを見てる。
「リーゼロッテ殿下が誘拐されてもなんら制裁がなかったので、伯爵の暴走を止めるためにいろいろやったらこういう形になった」
「ナア」
ペプが鳴いた。そろそろ飽きてきたか。しかし今は軽く修羅場の真っ最中だ。
「タクヤ殿。それは王国に還元されるべきものである。返していただけるかな……?」
「……もちろんだ」
ここは一刻も早く戦利品を返した方がいい。ストレージのことがバレるが仕方ない。
俺は部屋に戦利品を全て並べた。
「「「……!!」」」
そりゃびっくりするよな。とんでもない量の財宝が突然出てきたら。
しばらく誰も動かなかった。
「タクヤ殿、これはいったい……?」
「昨夜、火事になる前に俺が確保しておいた」
「火事になるのを知っていたのかな?」
「いや、知らなかった。俺が忍び込んだ結果、シスターが何らかの方法でゾンビを察知して火を付けたと考えている」
「……?」
「資金が無くなれば活動できなくなるだろうと考えて、俺が奪った。今日ここにきたのはこれを国に返還する相談に来た」
本当は違うけどそういうことにしちゃえ。
「こんなに大量のものをどうやって……?」
「俺のユニークスキルだ。あんたたちはユニークスキル目当てに俺を別の世界から召喚したんだろう?」
「……」
宰相が宝箱の一つに近づき、開けた。
――ブン!
「ひっかかったな、それは罠だ」
場が凍り付いた……。
「コホン――伯爵が罠を仕掛けていた。矢は外してあるから大丈夫だ。それ以外の宝箱にはちゃんと中身が入ってる」
護衛の騎士たちが宝箱を開けて罠がないのを確認する。その後で、国王と宰相と、リーゼロッテまでが財宝を手に取って確かめている。
「本物ね」
あれか、突然出てきたから幻かと疑ってるのか。
「これは、タクヤ殿には礼を言わねばらなぬな」
国王はそう言うが、宰相は疑いの目で俺を見てる。まあ、しょうがない。できれば黙って懐に入れたかった。
「これでゾンビの事件は解決か?」
「確かに。これで伯爵位を剥奪できますな。王女誘拐については立件できませんが、ゾンビ兵生産、奴隷売買、殺人は立件可能かと」
宰相がそう言うのは、それなりに証拠は押さえてたってことなのか。
「ところでタクヤ殿。我が娘の部屋に窓から入ってきたのはどういうことかな?」
——ギクッ!
「パパ、タクヤは特別なの」
――王女殿下は何を言っちゃってるの?!
「いや、何も無い。何も無いです。普通です」
「タクヤ殿、今後は正面から出入りしていただけるかな?」
「相わかったでござる」
言葉がおかしくなった。俺はテキトウに別れの挨拶をして、窓から逃げるように王宮を飛び出した。




