カツカレー
岩山までは近いように見えて結構遠い。途中で小型の肉食恐竜三匹に襲われた。チームハンティングする種らしい。映画でこういうのを見た気がする。映画と決定的に違うのは羽毛で覆われてて、緑をベースにしたドギツい色とりどりの水玉模様なことだ。俺達の裏に周って取り囲むような動きで走ってきた。
ロングメイスのマジックアローを撃った。避けられた。分かってた。わざと見せた。
「######」
エミリーが呪文を唱えだした。魔法の杖が光り出す。やっぱり全然聞き取れない。俺には詠唱は無理だ。
今はペプを抱いているので殴り合いはしたくない。まずエミリーに近いやつの足をアイスショット三発で足止めした。杖から発射したのを見せたおかげで、ストレージから突然発射される魔法に対応できなかっただろう。チェンジアップのあとにとびきりのストレートを投げる戦法だ。まあ、トカゲなのか鳥なのか、この恐竜にそういう知能は無いかも知れないが……。
「アイスボール」
金髪のポニーテールが揺れる。魔法の杖から放たれたエミリーの魔法は、毛の生えたトカゲの頭にクリーンヒットした。と同時に俺のファイアショットを残りの二匹に、一気に十発ずつ乱射した。ショットガンだ。倒れたトカゲの頭をロングメイスで砕いてトドメを刺し、三匹ともストレージに入れた。
羽毛か……ダチョウを羽毛でフサフサにした黄色くてクケーって鳴く乗れる動物がいたらいいのにな。
「エミリーが活躍するところを初めて見たよ。頼もしいな」
「ペプちゃんを抱っこする担当になってもいいんですよ?」
その方が効率が良さそうだが、ペプはなるべく他人に任せたくない。
岩山に辿り着いた。上空ではプテラノドンが舞っている。襲ってくる気配はない。ものすごく華奢な恐竜だ。ハンティングできるとは思えない。嘴がものすごく長い。そういう鳥は、水の中の魚を捕るために嘴が長いと聞いたことがある。もしかしてこいつも魚を獲って食べるのか? ここには海は無さそうだが。ということは何も食べずにマナだけで生きてるのだろうか? 不思議だ。
岩山の上に登るには、ぐるっと周って裏手から行くと楽そうだ。楽っていうか、表側の垂直に切り立った崖を登る方法はない。裏手は崖に向かって急な登り坂になっていて、地面に降りたプテラノドンが頂上から滑空するために歩いて登れるような親切設計になっている。
その坂の手前に、地下へ続いてそうな入り口があった。
「ここから微量のマナが見えます」
アーベル達もここを見つけて下ったに違いない。てっきり急坂を登らなきゃいけないのかと思っていたのでホッとした。
「ペプ、行くか」
「ナア」
ペプも乗り気だ。降りて行くとすぐに螺旋階段に変わった。光る石ころを転がしながら辿り着いた先は、岩を学校の教室程度の広さの立方体に繰り抜いたような、人工的な部屋だった。
「タクヤさん、ちょっと休みませんか? お腹が減りました」
「ナア」
ペプはさっき食べたはずだが……。
「分かった。ここで休もう」
四角い部屋の螺旋階段に接してキャンプにした。ペプのトイレを出したら喜んで用を足した。力を入れて掘り掘りしたので辺りが砂だらけだ。
その後、水と生魚をあげた。エミリーには、俺特製の魚と野菜のスープを渡した。
「これ、味が薄いですね」
「うむ、俺もそう思う」
「さすがのタクヤさんも料理は苦手なんですね」
「道具と食材があればできる。前の世界では得意だった。俺の得意料理はカレーライスと麻婆豆腐だ」
元の世界はブイヨンとか出汁とか売ってたからなあ。ここにはお米も無いし。醤油も無いし。考えてたらお米と醤油が恋しくなってきた。日本人のソウルフード、TKGが食べたい。
「カレーライスってなんですか?」
当然分かるはずもない。カレーについて説明して話が弾んだ。カレーライスの王様、カツカレーについても詳しく語った。
「眠れそうにないので先に進みませんか?」
「そうしようか」
キャンプを片付けて、眠ってるペプをそっと抱いた。
次の部屋に進んだ。全く同じ形と広さの部屋だ。違うのは、前後左右四方向に、人が二人並んで通れる幅の短い通路が隣の部屋に続いている。ラフレシアダンジョンで見た形だ。左右と前に続く部屋には扉のような障害物はない。
俺は左右と前の部屋に光る石ころを投げた。同じ形式の部屋が続いているようだ。試しに左右の部屋の方向に光る石ころを飛ばしてみたら、遠くで不意に見えなくなった。
――消えた! マジか。なんだこれ……
前方に飛ばしてみたら、かなり遠くの部屋まで飛んでいき、転がって辺りを照らした。普通こうなるだろう。消えるって……?
「エミリー、どう思う?」
「全体的にマナが漂っています。どこかに仕掛けがありそうですが、わかりません」
俺はマジックアローを前方に撃った。どこまでも飛んでいき、壁か何かにぶつかって消えた。左右にも飛ばしてみたが、同じように壁か何かにぶつかって消えた。
石ころは左右の壁に当たった後、落下して消えたのか。落とし穴かなんかあるのか?
「タクヤさんの魔法って、随分遠くまで飛ぶんですね」
「普通は違うのか?」
エミリーはアイスショットの呪文を唱えた。魔法は前方に数十メートル飛んで、溶けるように消えた。
——え? 普通はこうなの? 俺のはエンチャントして発射してるだけなんだけど……
「プレゼントだ」
俺はマジックアローの杖をエミリーに渡した。エミリーが使うと、アローは前方にどこまても飛んでいき、何かに当たって消えた。
「これ、すごいですね。もしかして、タクヤさんがエンチャントしたんですか?」
「ああ」
「やっぱり。そうだと思ってました。最近急にマジックアイテムが流通し始めて、この国にエンチャンターが来たんじゃないかって噂になってるんですよ。私はタクヤさんだと思ってました。何でもできるんですね」
「何でもは出来ないさ」
また一つ能力がバレた。教えたんだが。まあいいか。
「この国にエンチャンターはいないのか?」
「冒険者ギルドの知る限りではいません。サンデージ国を除けば、アニバール大陸にはいないんじゃないでしょうか」
そうなのか。エミリーは、杖が気に入ったのか、もう一発撃った。アローは前方に飛んでいき、さっきよりも近い位置で何かに当たって消えた。
「あそこにモンスターがいますね」
俺は光る石ころを三つ前方に投げた。光に映った何かの姿は、首のないトロールのようだが……。
「あれは何だ……?」
近づくにつれ、異様な風貌が明らかになってきた。
そのモンスターは頭部がなかった。ストーンジャイアントを縦に潰し、頭部を胸にめり込ませたような形をしている。頭の上から1トンのハンマーで叩かれた姿が頭に浮かんだ。
モンスターの胸部に顔がある。全体的に灰色をしている。石ではないようだ。硬質化した皮膚かも知れない。裸で、他に特徴がない。生殖器のようなものは、正面から見た限りは見つからない。胸に目と口がある。鼻の位置は凹んでいる。
「首なし、か?」
そんなモンスターがいたような気がする。とりあえず、ペプがいるから接近される前になんとかするか。
——ファイアショットガン!
十発一気に撃った。が、全然効いてない。
——あれ? アイスショットガン!
十発撃った。これはかなり効いている。
「エミリー、アイスが効くぞ」
エミリーが呪文を唱えだした。俺はアイスショットを小刻みに撃って時間を稼ぐ。
「######アイスボール!」
エミリーの魔法が首なし?の顔に炸裂した。モンスターはドロドロに溶けた。
「……何だこいつ?」
「タクヤさん、マナの固まりがあります」
泥の中から小指の先ほどの小さな魔石が出てきた。
「これって……これをエネルギー源にして動いてたのか?」
「いいえ、恐らくマナを集めて結晶化していたのかと」
「そもそもマナってどこから湧き出るんだ?」
「地中から生み出され、魔法生物の活動で増えると教わりました」
——地中から……? なんかしっくりこないな。解明されていない謎なのかも知れない。
「この魔石はエミリーにあげよう」
「え? いいんですか?」
「ああ、いっぱい持ってるから」
「え!?」
あ、余計なこと言った……。
「地下神殿にいっぱいあったんだ」
「え? あの伝説の地下神殿を見つけたんですか?」
「伝説っていうか、普通にあったぞ」
——三つも
「神殿には強力な結界があって、複雑な術式の魔法じゃないと発見できないって教わりましたけど……」
「いやあ、普通に見つけたぞ、ギルドの近くで」
「……!?」
村の子供も知ってたし、盗賊も出入りしてたし。バカには効かない結界なんだろうか? または、マナがない人間には効かないのかも。
「タクヤさん、この魔石でマジックスタッフを作ってもらえませんか?」
「え? そんなことができるのか?」
「あれ? できないんですか?」
「エンチャントはできるが、杖が作れない」
「あ、そうなんですね……」
「街に戻ったら武器屋に相談してみよう」
木製の杖に魔石を嵌めたものは武器屋で作ってくれそうだな。宝石のはあるわけだし。強度とかどうやって出すのか分からないから俺には作れそうにない。戦闘に使うものだからクオリティは大事だ。木の棒にセロテープや接着剤で石を留めたものじゃ使えないだろう。あ、セロテープはここには無いのか。
しかしさっきの首なし、どうやって動いているのか。生き物じゃないのか? なら吸い込めるかも知れない。
と思ったらドロドロの中から目玉や脳味噌が出てきた。グロい。骨は無いが、しっかり生き物らしい。近付かれる前に倒したから、どんな攻撃をしてくるか分からなかったな。
「タクヤさん、前の方の部屋で、なんとなくマナの感じが違うような気がします」
「よし、行ってみよう」
俺達は一部屋進んで、左右に光る石ころを投げ、マジックアローを撃つということを繰り返し、目的の部屋に向かった。
四部屋目で右の方から首なしが出てきた。さっきのドロドロの感じから、顔の後ろに脳があるような気がしたので、顔に集中的にアイスショットとマジックアローを撃った。アローが貫通したと同時に首なしはドロドロになり、ちっちゃい魔石を残した。
エミリーがナイフで、首なしの脳幹を持ち上げた。
「赤い糸がいっぱい繫がってますね」
——ちょっ! グロい!
何この女性、こういうの大丈夫なのか。強いな。眼球までぶらぶらしてるけど。昆虫とかも大丈夫なのかな?
「……先を急ぎましょうか……」
エミリーがひいてる俺の顔を見て言った。俺は小さく二回頷いた。




