冒険者たち
町外れでハウスに入り、すぐに眠った。
目が覚めて、朝のルーチンをこなした。森で骨先生とスパーをするが、今日からもう一体、先生を増やす。骨先生一号二号と、効率のいい敵の無力化を考えながら汗を流した。
骨先生二号は、今日初めてストレージから出したスケルトンだ。骨先生一号と比べると、攻撃パターンが単調で洗練されていない。一号はフェイントを混ぜたりする。俺とのスパーで相当学習したようだ。一体が戦闘素人でも二体を同時に相手にするのは厳しく、かなり斬られたので途中から素手にしてもらった。
シャワーを浴びて、今日は修道院に向かう。シスターとゾンビの件を情報共有するためだ。
修道院は教会に隣接されている。教会が、おそらくステンドグラスのせいで幾分派手に見えるのに対し、修道院は地味な建物だ。
修道長っぽい大柄な高齢女性がいたので話しかけた。
「すまない、シスタークラウディアに用があるのだが」
「当院にはそのような者はおりません」
「え? いない? 若くて黒い修道着を着て、よくゾンビ退治に行く女性だが」
「当院の修道着は白と決まっています。ゾンビ退治と言うのも初耳です」
——……?
ヨーギに行ってみるか……。
俺は乗合馬車に乗り、ヨーギへ向かった。
「当修道院にはそのような者はおりません。ゾンビ退治も請け負っていません」
ふくよかな修道院長がそう言った。
——マジか
シスターがいない。というか、シスターはシスターじゃなかった。シスターの振りをしてる誰かだった。なんのために……?
なんだかショックで座り込んでしまった。
「ペプ、理解できない事が起こったよ」
「ナア」
ペプが顎を舐め始めたが、何も考えられない。今まで何だったんだろう? こんなのは、昔、とても気に入った女の子から電話番号を聞き出してかけてみたら現在使われていなかったとき以来だ。ショックだ。
考えてみればシスターは、教会の方から来たことはあったけど、教会から出てくるところは見たことないな。つまり、ずっと騙されてたのか。なんのために?
魔術師ギルドにも報告に行かなきゃいけない。俺は乗合馬車に乗った。
魔術師ギルドに着いてからは平静を装った。失恋のショックのような捉え方をされてはかっこ悪い。
ギルドにはヴァレリアスがいた。お付きの人?がエミリーを呼びに行った。エミリーが来てから、伯爵の件を報告した。
「では、ゾンビの脅威は去ったんだな」
「一味の企みは露呈した。殺してはいないが痛めつけた。実行役のビクターの顎を粉々にしたからな。もう呪文は唱えられないだろう」
「でも、ヒールで治りますよ」
「え?……殺しておけばよかった……」
抜かったか。
「しかし王女殿下を通して国王陛下に告発されたのだな」
「そのはずだ。王女誘拐と一緒にな。しばらく経ってもまだ生きていたら、俺が何とかする」
「分かった。エミリーが調べた倉庫については、ギルドで対処しよう」
肉体強化ポーションの材料があるって言ってたっけ。
「シスターについては目的も行動も不明だな」
「…………」
「タクヤが教会に行く時にタイミングよく出現したというのが解せない。何かのユニークスキルかもしれない。彼女はヒールとファイアウォールが使えるのだったな。何か分かったら知らせよう」
「頼む」
これに関しては言葉が少なくなってしまう。
「一応は、これをもってゾンビの件は解決だな。タクヤはこのあとはどうする?」
「変わらずダンジョン攻略を続ける。どれかのダンジョンに集中して、深く潜るつもりだ」
俺はダンジョンの状況を簡単に報告した。
「トロールケイブの大地で次に進む何かを見つけるにはどうすればいい?」
「わたしが一緒に行きましょうか?」
エミリーが手を上げた。確かに、マナが見えれば何か発見できるかも知れない。
——でもなぁ……
宿泊は外でキャンプか……。一人の方が楽なんだが。まあいいか、楽しくなりそうだし。
「そうしよう、明日の昼に冒険者ギルドに集合でいいな」
「今からでもいいですよ。準備はもうできていますし」
「え……?」
――最初から付いてくる気満々だったのか
「わかった、行こう」
エミリーの荷物は寝袋とマット、鞄と長い魔法の杖だ。かなり軽装なのだろう。普通は、俺は普通がわからないんだが、他にカンテラや水、鍋などが要るはず。鞄に水やスコップや保存食が入っていると思われるが、それ以外は俺頼み、俺前提の装備だ。俺は無言で寝袋の一括りを持った。
乗合馬車で街に向かった。
エミリーと一緒にいるおかげで、凹んでいた心はだいぶ回復した。
俺たちはダンジョンに行く前に冒険者ギルドに寄った。フリースペースに座った。
「エミリー、頼みがある」
「何ですか?」
「ピアスを開けてくれ」
「は?」
「ピアスだ。耳に」
「ご自分でできないのですか?」
「鏡がなくて位置がわからない。手探りは怖い」
「そういうことですのね。痛いのが怖いわけじゃなく」
エミリーは笑ってる。
「いまさら痛みが怖いわけがないだろう」
ほぼ毎日、骨先生とスパーをしてガツガツ殴られたり斬られたりしている。
俺は錐状の刺殺武器とピアスを手渡した。魔法で消毒済みだ。布を左肩に置いてお気に入りのコートが汚れるのを防ぐ。エミリーは錐の先を耳たぶにあてがった。
「その……防御魔法?を解いてくれないと刺さりませんよ?」
魔闘気か。ずっと纏いっぱなしなので消せない。そんなわけはないが。……なんだ? 緊張してるのか? とりあえず気を移動させて耳たぶを無防備にした。
「その防御魔法って調節できるんですね」
——痛!
ですね、の、ねと同時にプスッと刺さった。反射的にヒールをしてしまった。穴が塞がった……。
「すまない、もう一回頼む。それと……アイスで冷やしたりしないのか?」
「やっぱり痛いのが怖いんじゃないですか」
アイスはなしで、錐を刺したままでヒールして穴を定着させた。せっかくなので両耳とも開けた。これで俺もチャラ男の仲間入りだ。イヤッホウ。ペプが耳たぶを舐め始めた。ピアスのエンチャントはハウスに入ったときにやる。後回しだ。
トロールケイブは相変わらずだった。エミリーのペースに合わせると、大地まで四、五時間程度かかりそうだ。その時間も、以前に往復した時間も、時計で計ったわけではないから曖昧だ。そもそも、この世界に来て時計のない生活をしてかなりたつ。俺の体内時計は機械の時計とかなりずれてきているはずだ。
ペプも一緒に連れてきた。ストレージに俺やペプが入ることは秘密にしておきたい。この先、何があるか分からない。セーフハウスだけは隠しておく。
光る石ころをシュートで投げながら進む。
「エミリーは何の魔法が使えるんだ?」
「火、冷気、回復です。火より冷気の方が得意です」
「風とか土とかは使えないのか?」
「土の一部の非攻撃魔法を除いて、この国では風と土は使われてないです。文献に載っているっきりで誰も使えません」
そうなのか……。
「ナッ」
ペプが短く鳴いた。何かを感じ取ったんだろうか? 大体大ネズミかトロールだろうが。遠くまで光る石ころをシュートで飛ばした。運悪くトロールに直撃した。
――ファイアボール!
トロールは火だるまになった。基本的にこれで一発だ。
「ファイアボールも出るんですね。それも無詠唱で。魔法が使えないのにどういうことなんですか?」
「ユニークスキルだ」
とぼけた。エミリーが呆れた感じで言う。
「その防御魔法って魔闘気ですよね? 本当にどうなっているんですか? 勇者様なんですね」
「そんな偉そうなものになる気はないよ」
「オーガを倒した時は魔闘気はなかったのに。どんどん強くなるんですね」
「地道な努力さ」
エミリーがジト目で俺を見る。
「いつか教えてくださいね。喉が渇いたので水を出してもらえますか?」
「いつか……な」
俺は冷えた美味しい水と氷をデキャンタに入れて渡した。
歩いているとエミリーが声をかけてきた。
「タクヤさん、トイレに行きます」
こういうことをはっきり言う、しっかりした女性だ。そして岩陰に走って行った。しばらくしたら、
――ボウ!
火が出た。エミリーが証拠隠滅したらしい。これが淑女のマナーか。
「さあ、行きましょう」
「ナア」
ペプが返事をした。
落とし穴に着いた。安全のために設置したマーカーはまだ光ってる。念のため下を覗いて確認するが、誰もいない。
「ここに落ちたんですか?」
「ああ」
「怖いですね……私だったら出られなくて死んでしまいます。気をつけてくださいね」
まあ、今は落ちても大丈夫なわけだが……。
先に進むと、大地の手前の、前と同じ所にストーンジャイアントがいた。この辺で冒険者達がキャンプしてると予想していたが、大丈夫だろうか? とりあえずこのモンスターをやっつけてからだな。
距離は二十メートルほど。うっかり近づきすぎた。俺はストレージから、プロテクションをかけた手のひらに収まる大きさの小石を出した。
——シュート!
小石は走ってくるストーンジャイアントの石の鎧を突き破って、胸に刺さった。
——連発!
同じ石を四発、人間の心臓の位置を狙って撃った。ストーンジャイアントは倒れて動かなくなった。
「何を飛ばしたんですか?」
「石だ」
またジト目で見られた。嘘は言ってない。
冒険者達が心配だったので急いで先に進んだら、大地の手前の洞窟の終わりのところで大きなキャンプができていた。何十人もいる。
「タクヤさんだ」
「おお、助かった」
「魔族殺しだ」
「猫戦士だ」
ざわざわした。俺は近くの冒険者に聞いた。
「どうした? 何があった?」
「恐竜とストーンジャイアントに挟まれて進退極まってます。食料の残りも少なく、犠牲を出してでも街に帰ろうかと相談しているところです」
「アーベルたちはどうした?」
「先へ行きました」
「うむ、とりあえずは食料か」
俺はペプをエミリーに預け、獲物を探しに歩いた。遠くにいるステゴザウルスにマジックアローを撃ったら、走って逃げていった。
更に遠くにいるティラノ風の恐竜にアローを当てて、ジャンプして大きく手を振った。ティラノ風は真っ直ぐに俺を目掛けて走ってきた。結構デカい。頭を下げて走ってくる姿勢なのに、頭の位置が俺の頭より一つ分上にある。
マジックアローを連射して弱らせる。アローが効くってことは魔法生物なんだよな。本物の恐竜なわけがない。しかし、魔法生物と動物の境目ってなんだ?
余計なことを考えるのはやめて、恐竜を洞窟の入り口まで走って誘導し、恐竜の頭をロングメイスで砕いた。倒れたところに頭を目掛けてもう一撃、ゴルフのスイングで振り抜いてトドメを刺した。
「これは食えるだろう? 誰か捌いてくれ」
羽毛が生えてるから鶏肉に近いんじゃないかな。冒険者達が群がって死体を切り始めた。動かせない死体の下の地面を掘って器用に血抜きしているみたいだ。他の冒険者は鍋を用意したり火を炊いたりしている。賑やかになってきた。
俺はキャンプの近くの、洞窟を出たすぐのところで穴を掘り、オレンジと梨と林檎の種を植えてヒール水をかけた。翌日に実がなる仕組みは謎すぎる。受粉はどうなっているんだ。鳥や昆虫がいなくてもいいのか。
ジャガイモも一つ埋めてヒール水をかけた。エリース村でやったあとどうなったか見てないが、これできっと育つはず。
あとは水か。近くの冒険者に聞いた。
「水はどうなってる?」
「泉があります。一昨日からストーンジャイアントが現れて汲みに行けませんでしたが、今、何人か行きました」
「ここは日が沈まないのか?」
「はい、ずっとこのままです。雲もありません」
何という異常な天候。砂漠化したり、恐竜が熱中症になったりしないのか?
俺はエミリーからペプを受け取り、地面を掘って砂を入れた。ペプは掘り掘りして用を足した。恐竜の生肉を少し切り取ってペプにあげた。
冒険者に話しかけた。
「何か収穫あったか?」
「いえ、敵が強くて何も……ここから先へ行けませんでした……」
え? 冒険者ってこんなレベルなの? アーベルのパーティだけ特別に強いの? 聞いてみたいが、まあ聞かなくてもここにいる数十人はそうなんだろうな……。実は、実力者たちはここに来ないで、今もキャッスルヒルパートの下層で稼いでるとか、そういうことを期待したい。
しかしあれだ、この冒険者たちをなんとかして強くすれば魔族討伐に有利に働くよな。なんとかってどうするか。エンチャントアイテムをばら撒くとか。それは軍に流れないようにしないと。あとは骨先生を何体かスパー専用に提供するとか? 骨先生はちょっと難しそうだな……常に人を襲うからな……。ゆっくり考えよう。
「エミリー、どうする? 疲れてるだろう?」
「先へ行きませんか? ビアンカ達が心配です」
「わかった」
俺は冒険者に声をかけた。
「アーベル達はどっちに行った?」
「あの岩山に行きました。山の上が怪しいって言ってました」
「わかった。俺もそこへ行く」
「ちょっと待ってください! 僕たち、帰れません!」
——こんだけ人数いるのにマジか……
「ほら、炎熱の剣とファイアショットの杖だ。光る石を置いてきたから、帰り道は明るい。落とし穴に気をつけてな」
冒険者にマジックアイテムを押し付けて、彼らが戸惑っている隙に俺たちは先へ進んだ。




