☆ミ
エリース村に着いた。馬車には、村の入り口で待っててもらう。村の入り口に植えたオレンジと梨が実を付けていたので、最近使っていないストレージの矢を放って、枝ごと実を落とした。細い枝にも正確に当てられるストレージショットは便利すぎる。梨を何個か御者にあげた。梨は大好物なので、いっぱい落としてストレージに入れた。
「ペプ、豊作だよ」
「ナア」
とりあえずエリックのところに顔を出した。
「やあエリック、三人娘は来たか?」
「やあタクヤ、ありがとうな、ブドウを見てもらってるよ」
無事のようだ。三人娘って言っちまったが、これは少しダサい気がする。いや、相当ダサいか。しかしヴァンパイアーズとは呼べない。
エリックと一緒にブドウ畑を見に行った。
「タクヤ、このブドウ畑、おかしいんだ。収穫したそばから実がなる」
マジか。ヒール水はそんなすごいのか。さすがにちょっと大げさのようだが。花が咲かずに実ができたら化け物だ。受粉の仕組みは謎だが。やっぱ化け物なのか。土の栄養を吸い尽くしてないか気になる。ヒール水が栄養になっているのか? その辺の懸念はエリックに伝えた。
エリックと話していたらエリザベスたちがやってきた。
「タクヤ殿、この村を紹介していただき、感謝している」
「どうだ? 何か困ったことはないか? できればここにずっと住んで欲しいと思っている」
「我らは一度、不死の怪物に堕ち、タクヤ殿によって命を吹き込まれた身。タクヤ殿がそう言うなら我らはここで一生働く所存だ」
「いや、残りの人生を謳歌してくれ……ここを去るのは自由だ。しかし一ヶ月前にはエリックだけでいいから知らせてやってくれ。もし村人から多すぎる仕事を押しつけられたときは……」
俺は元の世界のサラリーマンの心得をトクトクと語った。
安心したので帰ろうとしたら、
「タクヤのためにブドウ汁をとっておいてある」
汁って呼ぶのはどうかと思う。少し飲んでみたが、まあ当たり前だが全然発酵してなくて、ジュースだ。汁でもいいや。汁を一樽もらった。ペプにも舐めさせてあげようとしたが、くんくんするだけだった。
「ありがとう、発酵するまで楽しみにとっておくよ」
「なあタクヤ、そのブドウと同じようにして欲しいものがあるんだが……」
どうやらエリックは芋にヒール水をかけて欲しいらしい。
「芋があれば飢えないからな」
俺は喜んで芋畑にヒール水を撒いた。
その日のうちに王都へ帰るつもりだったが、時間的に帰る途中で日が暮れてしまう。チャーターした馬車は夜間走行の装備をしていない。しかたないので馬車には追加料金を払い、エリース村で一泊して、翌朝に帰ることにした。
当然のことながら、その日は宴会だった。御者も混ざって飲んだ。俺は魚と野菜のスープに牛肉を入れて振る舞った。御者の宿はエリックに頼んだ。俺は村はずれでハウスに入った。
◇◇◇◇◇
目が覚めて、朝のルーチンをこなした。
朝一で地下神殿に行った。いつも通りだった。強いスケルトンだけリポップしていなかった。ストレージに使い途のないスケルトンが増えた。リッチのドロップアイテムが目当ての一つなんだが、ドロップしないのかな?
村に帰って、エリックやエリザベスに挨拶して、馬車で王都に向かった。御者は二日酔いのようで元気がなかった。
王都に着いたのは昼だった。商業区画の露店で食料を買い込んだ。猫のオブジェ売りはいなかった。儲けて引退したんだろうか? それなら嬉しい。
こうしている間でも、マジックレジストの練習をする。ずっと回しっぱなしでも害はないのだろうか? しばらく続けようか。
冒険者ギルドに顔を出した。なんだかがらーんとしている。
「みなさん、トロールケイブツアーに行ってまーす」
レオのパーティも行ったらしい。かなりの重装備で、荷物持ちを何人も雇って、大所帯で出発したとのこと。
俺は……キャッスルヒルパートに向かうことにした。行ったことがない。どんなところか知っておきたい。その上でどのダンジョンから攻略するのか決めたい。
ふと掲示板を見てみると、盗賊の討伐依頼が出てた。キャッスルヒルパートの近くに根城があるらしい。ついでに行ってみるか。最近お宝を見てないし。
ギルドを出て歩いていると、雨が降ってきたので、森に入り、ハウスに入った。
最近いろいろあったような気がするので、なんとなく今日はこのままここで泊まって、明日からまた頑張ろうかな。そう思って、雨が小降りなうちに骨先生とスパーをした。
骨先生をテントの支柱で殴るが、ロングメイスを失くしたことを思い出してムカムカしてきた。一~二週間後には新しいロングメイスが出来上がるけど、あのロングメイスも気に入ってたからすげえ悔しい。
なんか、ガツガツした感じが欲しくなったので、骨先生の強さと速さのパラメータを上げてスパーをした。たくさん殴られるようになった。俺は少しマゾっ気があるような気がする。やられたら倍返しだけど。
スパー中もレジストを回す。敵を見たら、ペプを逃がしてレジストを回す、この癖をつけたい。
スパーの後は風呂に入った。ヒール魔法ではとれない疲れがとれる気がする。ペプもお風呂に呼んだ。湿ってていい感じではないらしい。ペプは風呂が嫌いだ。元の世界の話だが、まだ子猫の頃、風呂場で身体を洗ってあげたが、絶叫して嫌がられた。猫は洗わなくても清潔なのにかわいそうなことをした。それでも俺が風呂に入っていると、興味があるのか浴室に入ってきて、色んな物の匂いを嗅いだ。そしてすぐいなくなった。浴室の扉を開けっ放しにしてると寒いので、すぐにいなくなってくれるのは助かった。
風呂上がりに、部屋に戻ってリクライニングチェアーに寝そべり、氷が入った冷たいジュースを飲んだ。最高だ。これぞリフレッシュだ。ペプがお腹に乗ってきた。そして胸の上に座って俺の顎を舐め始めた。
店で買った、長さ五十センチくらいの木製のスタッフを取り出して、熱上昇、ヒートのエンチャントをした。今まで風呂の水を、メイスを使って沸かしていた。次からはスタッフだ。スタッフには先端に小さな宝石が埋め込まれており、どうやらこれが魔法の効果を大きくするらしい。魔法が使えない俺にはわからないが。俺はこれをマナの充填量が多いエンチャントアイテムに使っている。
何本か、スタッフやメイスにエンチャントをした。そして、自分にスリープをかけて寝た。
◇◇◇◇◇
目が覚めて、朝のルーチンをこなした。スパーは省略して、盗賊の根城に向かった。雨は止んでいた。
キャッスルヒルパートを素通りして、十五分ほど歩いた。廃棄された集落、その中の屋敷に盗賊が住み着いたということだ。ダンジョンから近いから人が住まなくなったんだろうか?
屋敷は二階建てで、窓が一階に十個、二階に八個ある。立派な屋敷だ。屋敷の周りを回ってみたが、他に怪しい物はなさそうだ。普通は屋敷に地下牢などはない。
――一気にやるか
ペプをハウスに入れ、屋敷のドアをストレージに吸い込んだ。小さく、ミシッと音がしたが、誰にも気づかれていない。俺はナイフを取り出した。暗殺者スタイルで行く。屋敷に入り、二階へ上がった。一番豪華そうな扉をストレージに入れると、中には盗賊の首領とおぼしき悪者顔の男がこっちを向いて立っていて、目が合った。びっくりした。向こうもびっくりしている。
――ブラインド!
焦ったので、砂ではなく、手に持っていたナイフが飛んでいって、盗賊の首領の目に刺さった。男は死んだ。
――あれ? あれ? あれ?
パニクった。出よう。男の死体と部屋にあった宝箱をストレージに吸い込んで、音を立てないように気をつけながら屋敷を後にした。
来た道を戻り、キャッスルヒルパート近くの森に入った。
ストレージから別のナイフを出して、ブラインド魔法を念じると、飛んでいって木に刺さった。小石を出して同様に念じると飛んでいって木に当たった。落ちてる小石で同様に念じると、同じように飛んでいった。
試しにロックフォール用の石を出して念じると、飛んでいって木に当たった。
――マジか……
俺はハウスに入り、リクライニングチェアーに座り、落ち着くために水を一杯飲んだ。
「ペプ、俺は今までブラインドだと思ってた魔法が違ったよ。なんでも飛ばせるよ」
「ナア!」
ペプは俺の手に頭突きをした後、俺の胸の上に登り、顎を舐め始めた。
俺はIDEを開いた。画面下部の使用魔法エリア、ストレージ魔法の隣に、新しいアイコンが浮かび上がってきた。『☆ミ』のようなデザインだ。コードを見てみると、
「ペプ、これストレージ魔法の一部だ」
ストレージ魔法の、対象物の指定、対象物の保護、ストレージ窓のオープン、対象物の吸い込み、保護解除、ストレージ窓のクローズ、のうち、対象物の吸い込みが、今までブラインド魔法だと思ってた魔法だ。シュートと呼ぼうか。
「ペプ、俺はこの魔法を最初から知ってたってことか」
ペプに話しかけているが、IDEを開いていると様子がわからない。俺の顎を舐めているような気がする。
俺は可哀想な犬三号を作り、IDEを閉じてハウスの外に出た。
小石をシュートで飛ばしてぶつけてみた。可哀想な犬にプロテクションがかかっているから、小石程度ではダメージは負わない。それでも、何回かストレージのスリングの石と交互にぶつけて反応を見て、シュートとスリングがだいたい同程度な威力ということがわかった。
次に小石にプロテクションをかけてシュートした。可哀想な犬のボディが粉々になった。
――おお……これは強いな……
ハウスに戻って、いったん落ち着く。
「ペプ、こんな強い魔法を実は知ってたなんて、なんかおかしいな」
ちょっと笑いがこみ上げてきた。楽しくなってきた。この雰囲気で、さっきゲットしたお宝を開ける。いいものが出ますように……。中身は……金貨四枚、その他銀貨百二十枚分、宝石、アクセサリー類、宝石が埋まったナイフだ。
マジックアイテムはなかったが、ナイフに興味を惹かれた。ナイフの柄に宝石が埋まってる。穴を開けて宝石を嵌めたわけじゃなく、埋まっているのだ。通常の宝飾品が金属の爪で宝石を固定するのに対して、このナイフは縁で包み込んでいるわけだから、宝石の輪郭が見えないようになっている。地下神殿の壁の魔石の埋まり方と同じだ。宝飾品としてこの形態はどうだろう。
小さい宝石だが、柄の両側に五つずつ、計十個の宝石が嵌まっている。マナ充填量が大きい。これだけあれば、ものすごい大きさのトゲが出るし、数倍の堅さのプロテクションをエンチャントすることもできる。つまり宝飾品ではなくエンチャント向けのナイフか。
――これを作った人は誰だ? どこかの国にいるのか? または太古のハイエルフなのか?
まあ、考えてもわからないので仕方ない。何をエンチャントするかはじっくり考えよう。
俺は戦闘準備してキャッスルヒルパートに向かった。




